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ディグ・モードvol.80「ネイムセイク(NAMESAKE)」

ネイムセイク(NAMESAKE)は、2020年にリチャード(Richard)、マイケル(Michael)、スティーブ(Steve)の3兄弟が父親へのオマージュとして設立したファッション ブランド。そこには家族の価値観が染み込んでおり、父のビジネスである農業や兄弟の好きなバスケットボールの要素がテキスタイルで表現され、男性も女性も同じように着られるデザインとなっている。


父の夢を叶えるためのブランド

2020年秋冬コレクション(Courtesy of NAMESAKE)

ネイムセイクは、台湾の高雄で生まれた3人の息子たちが父の10代の夢を実現するためのブランドだ。それゆえ「以父之名」(北京語で「父の名において」)と名付けられている。伝統的な農業・漁業に従事する家庭に生まれ漁村で育った3兄弟の父は、幼い頃からファッションやアートに熱中しデザイナーを夢見ていたが、家業を継がなければならなかった。

70年代、アートやファッション関連のビジネスは、仕事ではなく趣味として見なされていた。よって父はビジネススクールに通い、日中はビジネスと貿易の世界に足を踏み入れた。夜になると、彼は遅くまで焚き火のそばでアートの本やファッション雑誌を読み、創造的な欲求を満たしていた。

2022年春夏コレクション(Courtesy of NAMESAKE)

いつも父の中にあったファッションとアート。そのDNAは3人の息子たちへと受け継がれた。成長するにつれて、父は息子たちに彼が着たかったものを着せてくれて、それはいつもスーツかラルフ ローレン(Ralph Lauren)だった。父が保管していた多数の雑誌や物に囲まれて育った彼らは、無意識のうちにデザインで溢れる環境から大きな影響を受けた。

3兄弟が子どものころ、両親はゲームをさせない代わりにバスケットボールを与え、「港に行って遊ぼう」と言った。彼らは港と農業を見ながらバスケと共に育ち、それ以来バスケットボールが兄弟の間の共通言語になった。

アウトサイダーを楽しむ

2023年秋冬コレクション(Photography Alexandre Gaudin)

3兄弟は高校進学のため、台湾から東京に引っ越した。彼らは日本のブランドや原宿スタイルに興味があったが、父は彼らにハイファッションを紹介し、銀座のドーバー ストリート マーケットに連れて行った。

その後、彼らは大学進学のためにアメリカに移り、リチャードは生物学、マイケルは心理学、スティーブは土木工学を学んだ。両親はリチャードが医者になること、マイケルが弁護士になること、スティーブがエンジニアになることを望んでいた。

スティーブは大学に出願する前からデザインをやりたいと思っていたが、学校の成績がかなり良かったため両親はあまり協力的ではなく、才能の無駄遣いだと思っていた。カリフォルニアに単身赴任した際、自分のやりたいことはデザインであることに気づいた彼は、倉庫で働き始め、徐々にデザイナーになっていった。

2022年春夏コレクション(Courtesy of NAMESAKE)

そのころ、兄弟が集まって自分たちのことをやろうと決心し、両親が彼らに望んでいた道をたどらないことにした。ファッションを勉強したことはないが、父の美に対する強い情熱のおかげで、それは彼らに染み込んでいる。

いつもファッション業界のアウトサイダーであるように感じているが、システムの穴を見つけて型を破ることができるため、彼らはそれを楽しんでいる。3兄弟にとって家族の価値観が重要な意味を持っており、それは家族全員が着用できるブランドを作るというクリエイティブなビジョンに影響している。そして、彼らは作品を通して人々を勇気づけたいと考えている。

「私たちは人々に希望を与えたいと思っています。それぞれのストーリーを通して、『心配しないで。これを通り抜けることができます』と言いながら、人々を励ましたいです」とスティーブは『DAZED』のインタビューで語っている。

アップサイクルがブランドの中核

2020年秋冬コレクション(Courtesy of NAMESAKE)

3兄弟の父が農業のビジネスをしていたため、農業はブランドにとって不可欠な要素だ。彼らが2020年秋冬のデビュー コレクションで採用したアップサイクルは、ネイムセイクにおける農業を表し、中核をになっている。

同コレクションで彼らが使用したのは、主に日本から調達した持続可能な生地だ。たとえば、リサイクルTシャツを利用して米袋のようなテクスチャの生地を形成し、先代から受け継がれる特殊なアップサイクル織り技術を採用した。

ファッションにおいて持続可能であることは責任であり、拡大する必要があるものではないと彼らは考えているため、自分たちを持続可能なブランドとして売り込みたくないと考えている。

テキスタイルで農業とバスケットボールを表現

2021年春夏コレクション(Photography via THE NEW ORDER Magazine

2021年春夏コレクション「Muscle Memory」では、さまざまなテキスタイルが使用され、ブランドの核である農業とバスケットボールの要素が表現された。彼らが選んだ生地は、自分たちに感情的に語りかけなければならず、見る人に特定の感情を与える必要があることから、さまざまな質感が存在する。

同コレクションは、パンデミックの影響で旅行を自粛せざるを得なくなった3兄弟が大好きな家族旅行に着想を得たものだ。クリエイティブ ディレクターのスティーブは、彼らが高校時代に大好きだったハワイへの家族旅行に敬意を表することに決め、これがインスピレーション源となった。

2021年春夏コレクション(Courtesy of NAMESAKE)

ハワイアン スタイル、アメリカン カジュアル、日本のテーラリングの3つの要素が合わさった同コレクションは、バーシティ ボンバー ジャケット(スタジャン)が注目アイテムのひとつだ。

彼らが日本の高校にいたとき、代表チームのジャケットを受け取ることは最高の栄誉だった。そのため、パッチワーク、シルエット、クロージャーに至るまで、彼らは再開発に多くの時間を費やした。バーシティ ジャケットの最終的なデザインは、コレクションの他のスタイルにも繋がり、スーツやジャケット、パンツに昇華された。

男性も女性も同じように着用可能

2020年秋冬コレクション(Courtesy of NAMESAKE)

ネイムセイクには、都市と農業、スポーツとファッション、現代と伝統という二元性があり、対照的なアイデアは常に3兄弟のデザインに影響を与えてきた。ブランドは、農作業に用いられるような生地を使用してスポーツウェアを表現した「FARMAL WEAR」を生み出している。そこには、彼らの父が好むテーラー要素が取り入れられている。

また、彼らは「Gender Combined」という新しい用語を導入したいと考えているため、シルエットは男性でも女性でもない。「私たちのコンセプトやストーリーに興味を持っていただければ、男性も女性も同じように着ていただけます」と『THE NEW ORDER Magazine』で語っている。

この記事は、フリーランスで翻訳や海外アパレルブランドの日本向けPRをしている𝐡𝐢𝐫𝐨𝐤𝐨が、自身のファッション業界に対する見識を広める目的で書いたものです。

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