ディグ・モードvol.91「ナターシャ ジンコ(NATASHA ZINKO)」
ナターシャ ジンコ(NATASHA ZINKO)は、2011年にウクライナ人デザイナーのナターシャ・ジンコ(Natasha Zinko)が設立したファッション ブランド。倹約が必要だった幼少期から考えついた持続可能性とリサイクルをブランドの柱として掲げる。ナターシャは息子とコラボしたメンズウェア事業やカフェ運営など、ビジネスウーマンとして活躍している。
すべてが灰色だった幼少期
ナターシャは、ウクライナのオデッサでエンジニアの両親のもとに生まれた。当時、物資の入手が困難だったため、彼女は母のお下がりのドレスを着るなど、物を大切にする暮らしをしていた。また、オデッサでは他の人と同じでなければならないという考え方が一般的で、すべてが灰色で色鮮やかではなかったと彼女は振り返っている。
「私たちには多くの可能性はなく、すべてが非常に限られており、色さえも灰色でした。それが、私が生き残るうえで役立ったと思います。私は生きていると感じる方法を知っています」とナターシャは『10 Magazine』で語っている。
彼女は弁護士を目指してオデッサで法律を勉強し、裁判所で陪審員のアシスタントをしながら経験を積んだ。それは彼女にとって興味深いものだったが、すべてが同じように思われて少し退屈だった。彼女は休暇を取って夫とアメリカに行ったとき、帰りの飛行機で何か他のことを勉強したいと思った。
弁護士からデザインにキャリア変更
青春時代を水彩画に熱中して過ごしたナターシャは、クリエイティブな分野に進むことを決意。オンラインで検索した結果、セントラル セント マーチンズ(Central Saint Martins以下、CSM)を見つけて、すぐに彼女の心は固まった。そして2006年、ナターシャはCSMでジュエリー デザインを学び始めた。
学生時代、彼女は紙で大規模な作品をたくさん制作した。その後、洋服のデザインに取り掛かり始め、それが自分に合っていると感じた。ジュエリーからスタートし、2011年に自身の名を冠したファッションブランドをローンチ。ロンドン ファッション ウィークに参加した後、2015年に初めてプレタポルテを発表した。
ナターシャにとって、ジュエリーは高価なものであり、それを買う人や買う余裕のある人は減っているように感じられる一方、服は毎日必要であり価格的にもアクセスしやすいものだ。彼女は、人々が自身の服を着ているのを見るのが大好きで、着てくれたみんなに感謝の気持ちを伝えたいと説明している。
サステナビリティとアップサイクル
ナターシャ ジンコの柱は「サステナビリティ」と「アップサイクル」だ。デザイナーはTシャツなどのヴィンテージ衣類をアップサイクルして、ジャケットやパッチワーク ジーンズなど、まったく新しい製品に生まれ変わらせる。彼女は人々が新しいものをたくさん買うのではなく、ウェアラブルなものや長く着られるものを買うことを願っている。
サステナビリティは、幼少期に資源が乏しく倹約が必要だった自身の生い立ちから、デザイナーが自然に思いついたものだ。「当時、私の国では誰もがあまりお金を持っておらず、たとえば明日何かを入れるために箱が必要になるかもしれないので取っておくなど、すべてを節約していました」と彼女は『PAPER Magazine』で語っている。
デザイナーは既存の素材を使うことが大切だと考えており、2020年は生地を買わずアトリエにあったものを使用した。彼女はアーカイブ コレクションの生地をたくさん使用し、主にリサイクルを通して新しい製品を生み出す方法を創造的に考えている。
単なるデザイナーではなくビジネスウーマン
パンデミックが発生した2020年、業界の誰もがそうであったように、ナターシャも困難に直面した。しかし、彼女は持続可能性に焦点を当てるだけでなく、新しいことを常に模索するデザイナーのひとりでもあった。早くからフェイスマスクの製作に取り組み、ロンドンのメイフェアにヴィーガンおよびグルテンフリーのカフェ「Natashkino」をオープンした。
そこにはハニーケーキやカラフルなエナジーボール、抹茶ラテ、そしてCBDグミなどが並んでいる。パンデミックの最中にカフェ運営を始めた理由は、ファッション面で生産性が落ちていたが、それでも彼女は人々と交流したかったからだ。ナターシャはとても活動的で、何か新しいことに挑戦して会社に役立つことを好んでいる。
また、デザイナーは息子のイヴァン(Ivan)とコラボしたメンズウェア事業「DUO」にも焦点を当てている。2019年春夏のロンドン ファッション ウィーク中、カプセル コレクションとしてナターシャ ジンコのウィメンズ コレクションと並んでデビューして以来、それは軌道に乗り現在では子会社となった。
服作りを始めて以来、人々が自分の服を着ているのを見たいと思い続けているナターシャは、「抹茶ラテと一緒に見られるようになったので、本当にうれしいです」と『PAPER Magazine』で語っている。
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