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わ子
2021年5月22日 21:05
前の話夏らしく清涼感のある、さわやかな音楽が街に流れている。行き交う人びとはアスファルトを鳴らし、足早に駅に向かって歩いていく。街の景色を水色に彩る音の発信源は、道路脇に刺さっている電柱みたいに大きなスピーカーではなくて、わたしの両耳に挿した小さなワイヤレスイヤホンだった。他の人たちの耳には、おそらくわたしが知り得ない、別の音が届いている。街のBGMは、一人ひとりに与えられるのだ。疲れてい
2021年5月15日 02:13
湯気を見ていた。うす白いもやもやが、視界の下から上に向かってゆるやかに立ち昇り、消えていく。わたしは目の前を通り過ぎる湯気をゆっくり視線で追いかけながら、けむりにもよく似たこの湯気に関して、いくつかのことを思った。いち、ここには空気の流れがある。に、ここには水分がある。さん、ここには熱がある。よん、いちからさんのことが目に見えてわかる。ご、トマトとにんにくのにおいがする。ろく、まばた