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Naoji
2024年5月1日 21:56
女の眠っている顔がいつもとはまるで違って見える。今にも何かを語り出しそうだ。男は眠れない。ベッドから起き上がり、部屋中を歩き回る。どうすれば、自分でも聞こえないような声で。どうしたい、自分でもはっきりと聞こえる声で。男は独りごちる。壁掛けの時計は午前三時を回っている。秒針が焦り始めている。一秒を一秒以内に。後戻りはしない。何かが壊れていく。一秒ごとにひとつずつ。その響きが男の部屋をひどく空虚なも
2024年4月28日 20:41
机の前の壁に出来た、顔のようなシミ。男は長い間その存在に気づかなかった。シミはヤニ色に染まった壁の中で息をひそめ、そのときをじっとうかがっているようだった。奥行きのある瞳、薄い唇、薄茶色のそれは微笑でもなく、泣きべそでもない、表情というものをまったく感じさせなかった。ただ一途に、男をみつめているだけであった。男は何時間もシミをみつめた。睨めっこなら自信があったのだ。おれはそう簡単には笑わない
2024年4月17日 21:29
「私のレクイエムは、特定の人物や事柄を意識して書いたものではありません。……あえていえば、楽しみのためでしょうか」 ガブリエル・フォーレ (Wikipediaより抜粋)リピート設定された曲が再び流れ始める。管弦楽の斉唱が低音を鳴り響かせ、宗教的な合唱が歌う。テノールは甘く透明な声で祈り、やがてボーイソプラノが受け継ぐ。最後に、四部合唱が再び歌い出す。「永遠の安息を、僕の上に、