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創作大賞2024応募作品『四月。』

まだ四月だというのに、車内は窓を開けないと耐えられないほど暑かった。男は信号待ちの間、煙草に火をつけようか迷ったが、結局つけなかった。チクチクと胃の辺りが痛むからだ。ここのところ物事が上手くいかず、気分もすぐれなかった。不惑という言葉が男の脳裏をかすめた。「こんなものか」男はハンドルを握りながら独りごちた。遠くの方でクラクションを鳴らす音がした。一瞬、それが何処から聞こえてきて誰に向けられた合図なのかわからなかったが、後方の車が自分に向けた音だとわかり、男は急いでアクセルを踏

    • 『生』

      「死のうと思っていた」 太宰治「葉」の冒頭である。 彼はこの言葉を嫌っていた。死がこんなにも高尚なはずがない、そう信じていた。死はただの死である、と。 仕事で疲れて帰宅する。シャワーを浴びて適当に何かを口に入れて、酒をのんで寝る。日常。毎日同じことの繰り返しである。 彼はかならず夜中に目が覚める。 丑三つ時、彼はキッチンで煎餅を食らうのである。青白いキッチン灯の下で貪り食うのである。バリバリ。大きな音をたてながら。それがやめられぬ。バリバリ。バリバリ。 今夜も同じである。

      • 『覚悟』

        25年前、彼は「感謝」をテーマに作品を書けと言われたが、書けなかった。彼はありとあらゆる物語を創作した。枯れた大地に咲く一輪の花。孤独な夜に聞こえるあたたかな励まし。寒い季節の夜に食べる甘酸っぱい蜜柑。熱く燃える季節に感じた情熱。大きすぎる太陽。汗の匂いにまみれた恥ずかしい程の笑顔。茶色い季節特有の突き抜けた青空。息絶えたと思っていた季節が、ほんとうは次の季節の中で生き続け、繋いでくれたと感じるその瞬間。永遠。胸の真ん中を切り裂いて、心の臓の真奥にある、無限の光さえ届かぬくら

        • 『画』

          ここに一枚の画がある。 ノートの隅に描かれた四人の画がある。 11月25日 家族、かぞく、カゾク、悪の温床であるfamilyのうた。おれは記す。その心臓を。ここに刻む。その心音を。こんなにも手がある。あっちの手こっちの手、そこにもあそこにも。だのに使えやしない、通用しない。使っちまった。あれもない、これもない、なんにも、ありゃせんのだ。張り切れ、腕まくり、隠したもの、ダイヤに真珠、金銀財宝運試し、五臓六腑に染み渡る、熱いあついスープ、スプーンですくう、舌さえ火傷、ひりひり

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          『三者』

          空「太陽さん、あそこの建物の窓から、ひとりの男がわれわれを見上げているのがわかりますか?」 太陽「奴はいつもこの時間になるとキミを見上げるのさ。きっと売れない作家だろうね。売れない作家なんてものは空想好きと決まってるんだ。売れっ子なら空想してる暇なんてないからね」 太陽「その空想好きの彼が私たちのことを、そっけないと言っているのです。どうやら、われわれは沈黙を守っている存在だと」 太陽「けッ。そうらしいな。ひどく落ち着いた存在だって。キザなこと考えやがる」 雲「そんな

          『三者』

          『夕方』

          彼は窓の外をながめる。夕食どきの空が広がっている。どこかで誰かが鼻歌を口ずさみながら料理でもしているのだろうか。良い匂いがしてきそうな夕方。じゃがいもの皮をむいたり玉ねぎをみじん切りにしたり人参の葉を切る。そっけない。今日も夕方だけが過ぎていく。

          『夕方』

          おかげ様でフォロワー様が100名になりました!これからも楽しんで書いていきます!ありがとう。 先日の空 グラデーションの中に一筋の光が 2024年 夏

          おかげ様でフォロワー様が100名になりました!これからも楽しんで書いていきます!ありがとう。 先日の空 グラデーションの中に一筋の光が 2024年 夏

          『音がきこえる』

          真夏 おれはロックンロールで死んで 夜更けのブルースで再生した 明け方に届いたハウスが もういちどあそこへ誘えば ジェントルマンのジャズが おれをやさしく抱きしめた 喪失と再生の 音がきこえる 真夏 おれは青空の下で白球を追いかけた その放物線は素直な言葉のように正しかった 赤い縫い目が間近に迫ってくる おれは見当違いの方向に手を伸ばした 白球がおれを横切り裏切り地面に叩きつけられた 太陽はギラリと光っていた 落胆と歓喜の 声がきこえる 真夏 おれは大勢の人に受け入れ

          『音がきこえる』

          創作大賞2024応募作品『七月の踏切を渡る』

          どこまでも続く原始そのままの蒼い空を見たとき、彼は真夏の球児たちを思った。青空の下、白球を追いかけるそのまっすぐな視線を想像した。視線の先には夢があった。夢には果てがなかった。そこには嘘がなかった。かつての彼もまた、球児だった。手のひらに豆をつくりながらバットを振った。自分の投げる白球の先にはグローブがあった。受け止めてくれる誰かの手があった。彼が声を出せば仲間も声で応えてくれた。白球でも言葉でも、キャッチボールが出来た。 7月23日。彼の腕時計は19時を回っていた。 彼は

          創作大賞2024応募作品『七月の踏切を渡る』

          『生活』

          生活 眼鏡をかけるということ ぼんやりとした 世界の輪郭を知るということ そしてまた 眼鏡を外すということ 生活 イヤホンをつけるということ ぼうぼうとした世界の音を遮断するということ そしてまた イヤホンを外すということ 生活 人の優しさに泣くということ 気づいてしまった悪に怒るということ 正義の顔をした自分の狡さに気づくということ 生活 浴槽に浸かるということ ちいさな浴槽が大きな浴槽になるということ 気を抜けば ちいさな浴槽に戻ってしまうということ 生活 蛇口を

          『生活』

          創作大賞2024応募作品『白い花』

          静かな夜だ。霧のような雨が朝から降り続いている。 私のアパートの向かいにある5階建てのマンション、204号室で男と女が口論をしている。もう1時間は口論をしているだろう。内容はわからないが、どうも心中穏やかではない感じだ。 突然、女が泣き出した。その場に力なく座り込んだ。男は女の前で立ち尽くしている。女はすぐに泣くのをやめた。男が床に転がっていたボックスティッシュを女に手渡した。女はティッシュを受け取り鼻をかんだ。男も女も黙っている。散々口論した後だ。お互い疲れ切っているに違い

          創作大賞2024応募作品『白い花』

          創作大賞2024応募作品『銀の糸』

          男は線を引くことに取り憑かれていた。 内容はなんでもよかった。その日の気分次第。簡単な絵を描くこともあれば、日記やエッセイ、ショートショートを書くこともあった。真白な紙にどれだけの細い線を引くことができるか。その線をどこで繋げ、重ね合わせることができるのか。毎日が実験だった。男にとってそれだけが重大な任務であった。 まず一冊のノートを用意する。無地が好ましい。次に愛用のメカニカルペンシルを持つ。一度ノックをすれば芯が切れるまで自動で出続けるものだ。芯計は0.2㎜、濃度は2B

          創作大賞2024応募作品『銀の糸』

          『Hermitage』言葉について

          私には詩というものがわからない。 知ろうとも思わない。「詩とは言葉の束である」と誰かが言っていた。たしかに不思議なものだ。言葉には結束という作用がある。 彼が放つちいさな言葉があるとする。彼はそこにもうひとつのちいさな言葉を放つ。彼の言葉は手と手を繋ぐ。手を繋いだ言葉は強大である。その場の空気を一変させる。聞き手の「今」を変える。大袈裟ではなく、その世界を変えてしまう。耳から吸収された言葉という振動は、脳に、心に、胎に染み渡る。彼の放ったひとつの言葉という振動によって、人間が

          『Hermitage』言葉について

          『作品48』独白

          女の眠っている顔がいつもとはまるで違って見える。今にも何かを語り出しそうだ。男は眠れない。ベッドから起き上がり、部屋中を歩き回る。どうすれば、自分でも聞こえないような声で。どうしたい、自分でもはっきりと聞こえる声で。男は独りごちる。 壁掛けの時計は午前三時を回っている。秒針が焦り始めている。一秒を一秒以内に。後戻りはしない。何かが壊れていく。一秒ごとにひとつずつ。その響きが男の部屋をひどく空虚なものにしてゆく。男は世界から孤立させられる。静寂だけが男と向き合い此処に固定させる

          『作品48』独白

          『作品48 』 おれは夢を見ていたのか

          机の前の壁に出来た、顔のようなシミ。 男は長い間その存在に気づかなかった。 シミはヤニ色に染まった壁の中で息をひそめ、そのときをじっとうかがっているようだった。奥行きのある瞳、薄い唇、薄茶色のそれは微笑でもなく、泣きべそでもない、表情というものをまったく感じさせなかった。ただ一途に、男をみつめているだけであった。 男は何時間もシミをみつめた。睨めっこなら自信があったのだ。おれはそう簡単には笑わない、おまえなんかに負けてたまるか、ん、むむ……ぷはっ。よしもう一度。むむむ……むむ

          『作品48 』 おれは夢を見ていたのか

          『作品48』

          「私のレクイエムは、特定の人物や事柄を意識して書いたものではありません。……あえていえば、楽しみのためでしょうか」 ガブリエル・フォーレ         (Wikipediaより抜粋) リピート設定された曲が再び流れ始める。 管弦楽の斉唱が低音を鳴り響かせ、宗教的な合唱が歌う。テノールは甘く透明な声で祈り、やがてボーイソプラノが受け継ぐ。最後に、四部合唱が再び歌い出す。「永遠の安息を、僕の上に、永遠の光を、照らしたまえ」 椅子に座った男がひとり。スピーカーから流れる薄い音に

          『作品48』