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辞めた大学の卒業式に行ってきた話。

卒業の春です。
23歳にもなって余裕で大学2年生をしている僕は、同い年や年下がインスタに大学の卒業写真を載せているのを見て、焦ったり怯んだりしながら過ごしています。


どうしてそんなに出遅れているかというと、僕は一度大学に入学したのち、そこを4ヶ月で休学し、2年半の再受験の期間を経て今の大学に入学した、という経緯があるからです。


その最初に入学した大学が、静岡県の中央あたりに位置する国立大学、略して静岡大学です。



もう1年も前になりますが、去年の3月に静岡大学の卒業式に行ってきました。要は、僕が4ヶ月通っていたときの同級生が卒業する式です。

小学校中学校高校、みな今まで何度かの卒業を経験してきたはずですが、自分が辞めた学校の卒業式に行くというのは中々ないんじゃないでしょうか。そもそも自分ともう関係ないイベントですしね。どの面下げて行くんだと。



でも、だからこそあの卒業式は特別でした。

しかしその話をするには、静岡大学に通っていたあの4ヶ月について振り返ってみる必要があります。時を戻そう。




2018年4月。
静岡大学に来た初日は最悪でした。寮で先輩にドッキリを受けて、みんなの前で号泣しました。以前こうしてnoteにも書きましたが、今は読まなくていいです。長いし。


静岡大学では、教育学部の教育実践学専修という、学年に11人しかいない科に所属していました。

まあどんな科にいたかとかはどうでもよくて、とにかく僕は、男子4人女子7人の、11人のグループにいたのです。


そしてこれが、僕にとってこの上ない幸運でした。
その10人が、本当に、みんな良い人だったんです。


彼女らには、打算がありませんでした。

大学の人間関係は、なぜか高校の頃より純度が下がりがちです。男子も女子もすぐワンチャン狙ったり、自分の価値向上や評判のために優秀で有名な人間をそばに置こうとしたり、そういった打算的な友情の構築が起こりがちです。

でも彼女らにはそういったものは全く感じられませんでした。少なくとも僕の目には。あいつらは楽しむために一緒にいるし、笑いたいときに笑うんだ。そしてなんの違和感も抱かず、その輪に僕を巻き込んでくれた。



教育学部ってすげえな。教師を目指す人って、みんな人間ができてるんだな。

いや分かっていますよ。教育学部にだって、優しくない人もしょうもない人もたくさんいます。たくさん見ました。そもそもみんなが教師を目指してるわけでもないし。

ただその10人は間違いなく、光の教育学生だったと思うのです。光の教育学生ってなんだ。



「1年生はとにかく色んなサークルの新歓に顔出して、人間関係を広げた方がいい」

そういったアドバイスを真に受けて、いくつかのサークルや部活の新歓に参加したり、見学に行ったりしました。

元々テニス部だったのでテニサーにも行きましたが、初回だけテニスしたあとは、飲み会などがほとんどでした。テニサーはあんまりテニスをしない。


飲み会は苦手でした。周りに合わせて盛り上がるスキルが致命的に欠如していました。

あとこれも僕の問題ですが、ちょっといじってくる人が苦手なんですよね。先輩に多かったです。上手く面白い返しができないし、痛々しく笑うことしかできない。


そうして人間関係はほとんど広がることなく、やはり同科同期の10人と一緒にいることがほとんどでした。

みんなで一緒に移動して、講義の席もまとめて取って、みんなで昼ごはん食べて。夜にはご飯食べに行ったりして。4月に誕生日の子がいれば、みんなで祝って色紙を渡して。他科の学生からも「めちゃくちゃ仲良いよね」と評判が立っていました。


ただ人間関係とは別に、授業内容や教育分野に興味を示せず、自分の現在地を疑い始めたのもこの頃です。




週に1回体育の授業があって、そこで初めて他科の気の合うやつと出会いました。長身細身で、口を開けば適当なことばかり言う、力の抜けた飄々とした奴でした。


彼は僕の出身地を聞くと、


「島根?? 島根ってなにがあんの? ネット通ってないんだっけ? というか島根がこんなとこまで何しに来たん?」


とめちゃくちゃに言ってきます。人の地元をいじんな。



いつの間にかそいつは僕を島根と呼ぶようになり、授業後にだらだら話したりしました。そんな呼び合いをされる筋合いはなかったけれど、そういう真顔で冗談ばかりを言うあたりは、話していて気が楽でした。


でも、根底ではこちらを馬鹿にしてなんかなくて、むしろしっかり話してくれてることくらい、目を見れば分かるんだ。

この大学にいることの不安も、なんだかそいつには話せました。それを聞いて、「島根のくせに悩むなよ」と、また軽口を叩いていました。おまえさ。




6月の頭頃には、静岡大学を休学し、美術に進む決断をしました。

10人のうち1人だけにはそのことを先に話していましたが、そのほかのみんなには、前期が終わる8月の頭まで黙っていることにしました。


そこからが静岡大学で過ごす最後の期間です。

たった4ヶ月しか居ませんでしたが、過ごした時間は濃密でした。美大ではない大学の様子をその目と肌で知れたことは今からしてもとても価値がありましたし、思い出がたくさん生まれました。


通学の坂道を汗だくになって登ったこと。購買のパンがすげえ美味かったこと。小学生の運動会でに行って働いたこと。髪を赤くしたら知らない学生に笑われたこと。

あの子の家に11人で集まって騒いだこと。寝落ちたら朝になってて謝ったこと。あいつが泊まりに来て、好きな音楽の話をしたこと。あの子と自転車漕いで風になったこと。

そのどんな記憶のなかでも、おれはおれがずっと嫌いだったこと!!


当時を思い出すと恥ずかしいことばかりです。志も努力もないのに見栄ばかり考えて、そのくせ斜に構えていました。そんな僕にあなたたちは。



8月になり、僕は静岡大学を出ていきました。

みんなは驚きつつも応援してくれました。応援会を開いてくれて、色紙とプレゼントをくれました。

体育で一緒だった長身細身のあいつには、きちんと挨拶できませんでした。連絡先は持っていなかったし、伝えようがありませんでした。



みんな、もう疎遠になるだろうと思いました。悲しいけれど、僕だけこれから会えなくなるのだから仕方ない。話題も共有できないし、温度差ができるに決まってる。ひょっとしたらもう会うこともないかもしれない。






そして、僕は東京に引っ越して。藝大に落ちて。もう一年やって、もう一回落ちて。


親との約束を破って、もう一年続けて。そして、合格して。


その春に会いに行ったら、みんなおめでとうって祝福してくれて。少し泣いて、たくさん笑って。


そして、みんなは教育実習を受けて。教員採用試験を受けて、あるいは就職活動をして、卒業論文を書いて、提出して。



そして、そして、そして。




何度目の春もいつも大差ない風が吹きます。ようやくたどり着いた、卒業式。

新幹線に乗って静岡に来ました。式自体は数時間で終わり、会場の前に卒業生がぞろぞろと出てきていました。曇りがかった空の下、みんな何を思っていたんだろう。

約1年ぶりに会うみんなは僕を見ると「来てくれたの!」ととても嬉しそうにしてくれて、4年前となんら変わらぬ距離感で接してきます。本当に、何も変わってないように見えました。



僕はカメラを持って、みんなの顔を撮ります。

華やかな着物やスーツを着たみんなの表情には、寂しさや悲しさはありませんでした。みんな笑っていました。その笑顔がずっと好きなんだ。



会場前にはその10人の他にも、見覚えのある顔がいくつもあります。たった4ヶ月間とはいえ、平日はほとんど毎日通ったのです。顔くらい覚えている人はたくさんいます。なんだか同窓会みたいな気分でした。



僕が静岡大学から居なくなったあと、程なくして付き合っていた同科の2人です。

10人しかいないグループのうち2人が付き合ったら、それきっかけで瓦解していきそうなものだけど、それでもビクともしなかった。



ほんのわずかとはいえ、同じ時間を過ごした同級生がこうして卒業していく様子を見るのは不思議でなりませんでした。僕はそこにいません。

未だに時々想像します。4年前、僕が静岡大学を辞めなかった世界では、ここに同じ立場で一緒にいただろうか。

辛いことも多かったし、これでいいのかってたくさん悩みもしたけれど、なんだかんだみんなと居られて楽しかったな、素敵な大学生活だったな、って笑いあったりしていただろうか。聞いてみたいよ。



魔法のような時間も少しずつ終わりに近づいていきます。車に乗って、移動し始める人もちらほら出てきます。

同科の友人はともかく、顔見知り程度の相手であれば、顔を見るのは恐らくこれが最後でしょう。
感傷的になりながら、みんなをぼうっと見ていました。そのとき。

後ろから声がしました。


「島根じゃん」




「……は?」



いや、たしかに俺は島根県出身だけども。


でも、そんなふうに出身地で呼ばれる筋合いはなくて。いきなりなんなんだよ。なあ、おまえさ……。






振り返れば、相変わらずの長身細身が立っていました。




ははははは。

もうさ、すっっげえ笑ったよ。あんなに爽やかな気分になったことはないね。あんまりおもしろくて、涙が出そうだった。


大した会話は交わしませんでした。また会えるといいな、と機会があると信じてもないくせに伝えました。会えたらいいな、と思ったのは事実です。
連絡先はやはり交換せず、お互いの輪に戻っていきます。これからどこに住むのかくらい、聞いておけばよかったかもな。




昼過ぎには僕らもその会場を後にしました。名残惜しさは尽きないけれど、ずっとここにいるわけにもいきません。

夜にはみんなで飲みに行く予定だったので、それまで少し別行動をしつつ時間を過ごします。その様子をいくつか。




同科の数人のバイト先のカフェで、カメラマンによる撮影がありました。

せっかくなので僕も混ぜてもらいました。位置がおかしいだろが。


一緒に卒業させてもらいました。グッバイ静大。



空いた時間で撮ったプリクラ。数年ぶりに撮った。なんか知らんが腹立つな左のやつ。






夜になり店に来ました。お前らと飲むのは大歓迎だぜ。酒は飲まないけど。

湿っぽい話にはならず、4年間を振り返って盛り上がります。

教育実習が大変だった話。大学の家庭科の授業がハードだった話。先輩の追いコンのときに作ったムービーの話。元カレの話、元カノの話。うん、ほぼほぼ分かんねえ。


みんなの顔を眺めています。11人で初めて飲みに行った夜のことを思い出していました。つくづく、あっという間だなあ。




僕たちは、静岡大学の教育実践学専修という11人の科でした。

そこから、まず僕がいなくなりました。
はぐれたのは僕だけで、他の10人は変わらず同じ科という関係で繋がっているわけですから、そうそうバラバラにはならないでしょう。

だけどこの卒業と同時に、同じ科という繋がりはみな等しく切れます。


前までは、僕だけが頑張れば、僕1人と10人の関係は続きました。でもこれからは、今までのように繋がりを維持するためには、11人が頑張らないといけません。


それは、やはり中々難しいことじゃなかろうか。多くは来月から社会に出ます。学校教員なんて激務でしょうから、余裕はそんなにはないでしょう。

みんな自分の生活を保つのに必死で、愚痴や諦観にまみれ、また各々が新たな人間関係に先々で馴染んでいき、過去の友人の重要性は下がっていく。最初のうちこそ連絡を取りはすれど、だんだんと目の前に仕事に手一杯となり、次第に音信不通になっていく。

そういう未来も、可能性のひとつとして想像できます。そして、とてもとても寂しくなりました。こうやって全員で騒げるのは最後かもしれない夜です。



みんなだんだん酔ったりしてきて、感情が昂ったりもしていきます。
女の子の1人が、目にうっすら涙を浮かべながら、おれの横にいる男の子に向かって大声で話していました。

もう最後だからと、「こういうところが、ずっとムカついてた!」と、その男の子の今までの言動についての文句を述べています。おいおい。

それを聞いて僕たちは大笑いし、彼は苦笑いしています。そんな場面もなんだか感動的でした。



終盤になるころ、別の女の子の1人が、僕以外の全員に手紙を渡しました。僕には僕が卒業するときにくれるらしいです。

彼女はこれまでも何度も、何度も何度も、この10人が大好きだと、そう言っていました。晴れた空のような子です。ほかの誰よりも泣いていました。絶対おれにも手紙書いてくれよ。




「がんばろうね」「大学満喫してね」
「一緒の街だからすぐ会えるよ」「病む前に相談してね」
「早く結婚してよ」「いい人見つけなよ」
「本当にありがとう」「4年間楽しかった」


卒業は寂しいけれど、でも僕は少しだけ嬉しかったのです。これでやっと、みんなとおなじになれた。

おれたちはどうなっていくんだろうね。でもきっと大丈夫だよね。おなじ思い出があるからさ、迷ったらここで待ち合わせようよ。




静岡駅で解散します。みんなそれぞれ、車に乗ったり、電車に乗ったり。僕は東京へ戻るため、新幹線の改札へ向かいます。残ってたやつらが見送ってくれました。

改札を抜け、ホームに行くためのエスカレーターに乗ります。まだ辛うじて、みんなの姿が小さく見えました。



4年前。あんなどうしようもなかった僕に、きっと全然教師になんか向いてなかった僕に、ちゃんと向き合ってくれて。
そのあとも応援してくれて、切らずにいてくれて、祝福してくれて。僕の2つ目の故郷になってくれて。


みんなの姿が見えなくなる直前、とっさに「ありがとう!」と、出せる限りの声を出しました。周りには迷惑だったでしょう。それでも言いたかった、今日だけは。



一緒にいるときは一度も泣きませんでした。けど家に帰るとわんわん泣きました。
やっぱり寂しいなあ。ほんとにありがとう。あなたたちは光だったよ。











それから約1年経って現在。

卒業後、夏に集まり、そしてつい数日前にも集まりました。今んとこ半年に1回のペースで会えています。


疎遠になってもう会わなくなるんじゃないかと思っていましたが、なんやかんや、とりあえず普通に続いてます。




つい数日前の写真です。残念ながら仕事がある人もいて、全員集まれてはないのですが、まあだいたい良い感じ。


やはり教師になってる人が多いです。学校での大変な話、愚痴、楽しかった出来事を話してくれました。それ以外の職に就いてる人もいます。

大学院に通ってるやつと一緒に「社会人組はたくましくなったなぁ」と感嘆します。


9時間くらいぶっ通しで話して解散しました。また半年後くらいにでも会うことでしょう。





卒業の春です。読んでる人のなかにも、どこかを卒業した人がいるでしょう。寂しかったりするのかな。意外としないのかな。わかんないな。

僕も、大学はまだだけど、小学校中学校高校、いくつかの卒業を繰り返してきました。出会いと別れは頑なに手を繋ぎ、その定めに戸惑いながら生きています。


だけど別にいいんだ。会おうとしないと会えない人の方が、会えたとき嬉しいもんな。




新しい生活へ向かう人たち、応援してます。辛くなる前に話をしてね。みんな意外と優しいぜ。


それではまた別の話で会いましょう。旅立ちの春だ。





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