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ビリー・ジョエル/一夜限りの東京公演に行ってきた

御年74、ビリー・ジョエルのコンサートに行ってきた。主に70年代後半から90年代に活躍したアーティストだから還暦世代が多いのかと思いきや、若い子もたまーにちらほら。しかし何という声のハリ!今70の山下達郎もすごいと思ったけど4年後に達郎さんもこんな声出せるだろうか。全盛期のビリーは伸びやかながらも時たま、若さゆえの線の細さを感じさせる声質だったけど、この日のビリーはいい意味でドスの効いた安定したベースメント。まさしく大船に乗った感覚。相変わらずリズム感抜群のピアノといい、20代や30代の時に作った曲を当時と同じテンションで、その上円熟味まで加えて演れるなんて、miracleにも程があるって感じでした。

来日公演のオフィシャルサイトより

しかもこの日のライブはスマホなら撮影可能という神対応!曲間にTurn your smartphone on!なんてモニターに流れて一瞬offの見間違えかと思ってしまったほど。ビリーとウドー音楽事務所には感謝しかない。ビリーが後日FBに投稿したセットリストがこちら。

ビリー手書きアリ!のセトリ

★Movin’ Out
オープニングを飾ったのはMy Lifeだったけど2曲目がこのMovin’ Out。1978年のアルバム”52 Street”から4曲、その前作の”The Stranger”から5曲と20代の時に作ったアルバムからの曲が多いんだなと思い調べていたら、Piano Manはなんとハタチ、New York State of Mindは23の時の作品なんですね。なんと早熟な天才!ナイトクラブで流しのピアノ修行していたのって高校生の時ですか?あなたは矢野顕子か!

★Zanzibar 〜Start Me Up
Honestyを挟んでZanzibar。今回のコンサートではアルバムに忠実なアレンジの曲が多かったけれど、この曲はジャズ風のパートがたっぷりあって、まるでニューヨークのジャズクラブにいるかのような錯覚に。弾き終わるとおもむろにピアノから立ち上がって、マイク投げの後、仁王立ちで歌い出したのがThe Rolling StonesのStart Me Up。セットリストを見ると手書きで書き加えてある。あとで決めたのかな?

★An Innocent Man 
そしてこの名曲。今回、あまりMCで余計なことは喋らず、「次は何年の何というアルバムから。The song is called “...”」くらいしか話さなかったビリーだけどこの曲の前だけは「最近高音が出ないんだ。この曲を書いた30の頃はふさふさだったんだけど。高い声出すには髪が必要でね(笑)」とかなんとか、歌う前に笑いを取っていた。でもこの”I am …”のところのサビ、原曲もファルセットで歌っていたと思うんですけど。今回は何と地声なんですか???

★The Lion Sleeps Tonight 〜The Longest Time
その直後にドゥーワップのコーラスが聞こえてきたかと思ったらビリーが歌い出したのがトーケンズのThe Lion Sleeps Tonight。コーラス曲繋がりでThe Longest Timeへとなだれ込む流れ。大学の宴会芸で一人でマルチコーラス版 The Longest Timeを歌ってたやつがいたなあ。

★ピアノソロ〜Don’t Ask Me Why 
随所に誰もが知る名曲を挟みつつ進行するサービス精神旺盛なビリー。確か「さくらさくら」の重厚な和音バージョンも序盤にチラッと弾いたような。でもこのバロック調のピアノ曲は何の曲かわからなかった。ビリーのアドリブ?バッハか何かのアレンジ?識者の皆さん、教えてください。その直後、スペイン語でカウント取って始まったのがDon’t Ask Me Why。何であのソロ弾いたかは聞くなってこと?

★Vienna 
10代の頃の僕にとってビリーは英語の先生だった。レコードのライナーノーツの歌詞カードとにらめっこしながら、consequenceとか単語を覚え、wouldの使い方とか文法を確認し、そしてニューヨーク訛りの発音を真似た。ビリーの曲はしっかり韻も踏んでいて、単語も一音一音しっかり発音しているイメージがあった。粘っこい発音のこの曲もそんな青春の思い出のひとつ。

★New York State of Mind 
休暇になると皆マイアミやハリウッドへ飛ぶけれど、僕はハドソン河沿いのグレイハウンドバスがいい、と歌うこの曲。New York StateとState of mindがstateのダブル・ミーニングで繋がっているところがいかにも英語っぽいなあ、と感激していた。そしてこのジャジーなメロディ。摩天楼の夜景しか思い浮かばない。実際のニューヨークに降り立ったのはずっと後のことだったけれど、ビリーの曲を通じて、アメリカの色々な街を想像してはイメージを膨らませていたあの頃...

★Scenes from an Italian Restaurant
A bottle of white, a bottle of red とシナリオのト書きの回想シーンのように歌が始まり、BrendaとEddieのカップルの若き日から晩年までの人生が語られる、まさに短編小説家ビリーの面目躍如の一曲。長い曲だし早口言葉のような詞なんだけど聞いてしまうんだな、これが。ライブではマスクの中でずっと一緒に口ずさんでました。隣の人、うるさかったらごめん。

★We Didn’t Start the Fire 
戦後から現代までの政治家や科学者、事件・事故がマントラのようにずっと唱えられる異色の一曲。今回のコンサートではとにかく曲をたっぷり聞かせようという一心からかMCもほとんどなかったから、世の中の出来事への言及が何もなかった。だからこの曲ではゼレンスキーとか習近平とかネタニヤフとか、さりげなく登場するんじゃないかと注意して聞いていたけれどそれはなかったみたい。でもいいんです。この曲自体がメッセージ。Allentownもそう。アンコールの中の1曲Big Shotはやたらと力が入って、コブシが回っていた。ひょっとして彼の国のボス(それか、ボスになるかもしれないヒト)のこと皮肉ってた?

帰りの水道橋駅で電車に乗ったら車内にいた10代らしき男の子が訊いてきた。「今日何があったんですか?」「ビリー・ジョエルのコンサート。知ってる?アメリカのアーティストだよ」そう答えるとその子はぽかんとしていたけれど、一緒にいたもう1人の子が「お前知らないの?スゲー!」と返してくれた。絶対、聴き継がれてほしいビリー・ジョエル。興奮のあまり、最後にお粗末ながらこちらも蔵出ししてしまおう。

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