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時代に消費される音楽の終結~藤井風という表現者~

 日本の音楽業界は、人々の生活に常に寄り添い、一緒に成長してきた。

 かつては演歌・歌謡曲というジャンルで、歌手は商品としてプロデュースされ、疲弊していた。 70年代、「ニューミュージック」という新しいジャンルができ、今では当たり前となった、「シンガーソングライター」という言葉ができた。商業ベースにのせられる芸能界から離れたところで、自分たちの音楽を作る!という気概を持ち、テレビには出ない、というアーティストも出てきた。

 でも、その分離はそれほど長くは続かない。作詞家の松本隆が2つを結びつける役割を果たした。松任谷由実などのシンガーソングライターがアイドルの曲を作るようなり、いつの間にか統合され、多くの名曲が送り出された。
 「売れる曲を作る!」というプロジェクトの中での、団結、競争、戦い。今の「J-POP」につながる、懐かしい日本音楽界の歴史があった。

 そして時代は急激に変化し、音楽業界の常識とは違った形で、『藤井 風』はデビューした。

 歌謡曲、演歌、クラシック、ジャズ、R&B、さまざまな音楽ジャンルを内包して表現できるアーティスト。音楽に関っている人ほど彼の才能に脱帽し、一緒に何かをしたいと思うらしい。

 彼は12歳から動画をアップし、知る人ぞ知る存在でファンは多くいたらしく、デビュー前からライブチケットは即完売していた。

 そして5月にはYouTube「Artist On The Rise」に日本人初アーティストとして選ばれ、その後はMTV「Best R&B Video(最優秀R&Bビデオ賞)」、海外の2020 Mnet ASIA MUSIC AWARDS「 Best New Asian Artist Japan」など、次々と受賞。

 誰も予想してなかったことに、初のテレビ出演は『報道ステーション』の特集。そして、まだみんながライブを自粛していた2020年10月に、武道館ライブを決行し成功させた。

 その後も全国でワンマンライブを続けたが、既にチケットは手に入らなくなってしまった。

 あらゆるジャンルを演奏できる彼は、ファンの年齢層が幅広く、あっという間に人気が広がっていった。
 みんながステイホームを余儀なくされ、家でYouTubeを見ることが増えたこの年に彼がデビューしたことは、決して偶然ではない気がする。



 新曲を出すたび、彼の引き出しの多さに驚かされる。

 子供の頃から耳コピでクラシックピアノを弾き、歌謡曲やR&Bの弾き語りをして、YouTubeでオリジナルの形でアウトプットをしてきた。
 まるで画家志望の人が美術館で名画の模写をして、描き方を習得していくように。
 同じことをして誰でも到達できるわけではないが、あらゆるジャンルの音楽を、自宅で聴けて発信もできる今の時代だからこそ、できたことなのかもしれない。

 そして新曲発表後にリリースされる、彼自身が出演するMVを見るたびに、音楽以外の表現力にも驚かされる。パリコレでランウェイを歩いたとしても、浮かないのではと思わせるスタイルと存在感。
 俳優から見てもその才能は天性のものらしく、彼を見て映画を撮りたいと、ハリウッドからオファーがきてもおかしくないという意見も出始めた。


 デビュー曲のMVを見た時に、この人は3年以内にはNYに住んでいるかも?と思ったが、もしかしたらもっと広いジャンルで活躍をしているかもしれない。


 MVやYouTubeを見ている限り、音楽の神様に愛されている彼は、自信たっぷりに才能を楽しんでいるように見える。

 岡山弁をゆっくり優しく話す、ベジタリアンの彼の素顔を見ると、誰もがそのギャップに驚かされる。

 少し前まで二面性を持つ彼は、ピアノを弾くと別人になれる人だと想像していた。でも武道館ライブやラジオ出演の様子を知るたび、繊細な感性の持ち主であることがわかってきた。
 それは彼が大好きな「マイケル・ジャクソン」と同じような繊細さなのかもしれない。
 あるいは、岡山県を出て上京するつもりはなかった、と本人が話していたように、『メジャーになりたい!』という願望が、なかったからなのかもしれない。

 有名になった人は、周囲の変化についていけないという。生まれ育った町でセルフプロデュースしていた環境が、上京後1年あまりで武道館デビュー。全国ライブに、『にじいろカルテ』ドラマ主題歌への挑戦。『関ジャム』で天才と紹介されるたびに注目度は増し、想像以上の重圧もでてくるだろう。

 ファンは、楽しそうにピアノを弾く姿を見ていたい、できるだけ長く音楽活動を続けてほしいと祈ってしまう。疲れたらいつでも古巣に戻ればいい。彼はおそらく、自分の音楽を、必要な人に届けたいだけなのだから。

 藤井 風は時代に消費される音楽ではなく、ファンが聴きに行く音楽。まさに「風の時代」を象徴する、消費されない音楽なのだから。


 野心がなさそうな彼は、もしかしたら周囲の期待が、重荷になる日がくるのかもしれない。そう思いながらも、次々と新しい試練を乗り越え、世界に羽ばたく藤井 風も見ていたい、と思ってしまう。

 音楽でどこまでできるのか、挑戦したい!という思いがある限り、まだ若い彼の気持ちを支えたい。

 今後の成長を楽しみにさせてくれる、そんな新しい時代の表現者、藤井 風の2021年の活躍から目が離せない。










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