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喫茶店百景-憧れのおねえさんたち-

 私が保育園から小学校くらいの間に、うちでアルバイトをしていた大学生のSUお姉ちゃんはすごくきれいだった。アルバイトじゃない日も、彼氏のMKお兄ちゃんと来たり、お友だちのNRちゃんなどとよく来てくれていた。愛想のない私をとても可愛がってくれていて、オヤツを買いに近所に連れていってくれたりもした。
 ある日、お姉ちゃんは着物を着てお店に来た。成人式だった。
 着物の色はたしか薄い紫やピンク、髪も思いっきり飾り、手には小さくてカワイイ番傘を持っていて、SUお姉ちゃんもNRお姉ちゃんも、ため息が出るほどきれいだった。そんなお姉ちゃんたちを見て、小学校の高学年でまだほんの子どもだった私は、(私も20歳になるとこんな風になるのか!)とおもって密かに興奮した。

 実際のところ私の20歳は、ふたりのお姉ちゃんみたいに晴れやかではなかった。モトが違うというのをその当時は理解していなかったのだ。悲しい。

 SUお姉ちゃんとMKお兄ちゃんはいつも仲が良くて、お似合いで、私にとっては「すごくオトナ」だったから何となく勝手に(ふたりは結婚するんだろうな)と思い込んでいたけれど、それぞれ違う人と結婚したようだった。お姉ちゃんたちが結婚するころ、我が家の事情も色々変化があって、疎遠になっていった。

 それからしばらくして私が中学生から高校生くらいの頃になると、近所のドラッグストアに勤める美容部員のお姉さん2人組が常連になり親しかった。YKさんとMRちゃん。そのころには生活費を賄うため、父は外で働き、主に母とパートの数名で店をきりもりしていた。2人のお姉さんはうちの母を『ママ』と呼ぶ。休憩に来ると、ランチにサンドイッチやトーストを食べ、煙草とコーヒーでくつろいでいく。いつもカウンターに座っていた。美容部員の制服のミニスカート姿や、煙草を吸う仕草がかっこよかった。
 このくらいの年齢になると、お化粧に興味を持ち始めるので、私も姉もこの2人のお姉さんになついて色々と教えてもらったりした。

 店のほとんど正面にあったそのドラッグストアは、あるとき店から徒歩3分くらいのところに移転になり、その後店舗縮小のせいで2人のお姉さんたちはよその店舗に移っていってしまった。

 月日が流れるのははやい。
 4年くらい前に、SUお姉ちゃんと再会した。20年ぶりくらいである。
 SUお姉ちゃんは東京に住んでいて、帰省したときに父がまだひとりで店をやってるというのを人づてに聞いて訪ねてくれたそうで、母や姉や私に会いたいと(父を介して)連絡をくれたのだ。
 すごく久しぶりに会うSUお姉ちゃんは、変わらずきれいだった。この再会を機に、帰省のたびに遊んでくれるようになった。
 SUお姉ちゃんが笑いながら当時のことを話す。

——緑紗ちゃんの声を思い出そうとしたけど、思い出せなかった~(お姉ちゃん(私の)の声は覚えてたけど~ あはっ)

——私が話しかけても、緑紗ちゃんはいつもカウンターの下に隠れて出てこなかった~(かわいかった~)

——話しかけても返事はしないけど、「お菓子買いに行く?」って聞いたら頷いて付いてきてた~(あははっ)

 よくこんな変な子どもを可愛がってくれたよなあとおもう。優しい。

 SUお姉ちゃんはうちでアルバイトする予定なんか、なかったそうだ。
 再会して改めて、SUお姉ちゃんチが裕福なことを知った。そういえば当時から身に着けるているものも物腰も品がよかったし、成人式の着物一式もとても豪華だった。それに、実家の場所も学校も、うちの店からは遠い。今考えてみると、SUお姉ちゃんにアルバイトをする必要があったと思えず、不思議におもい聞いてみた。そうしたら驚くような答えが返ってきた。
 アルバイトとして決まっていたSUお姉ちゃんの友だちが、アルバイト初日の前夜に「明日からアルバイトに行かなきゃいけないんだけど、行けなくなったからSU、行ってくれない?」と電話をかけてきたんだそうだ。

 えー! そんなの、普通だったら行かないよ。よく行く気になったね、よく来てくれたね、と私がそう言ったら、「だってさぁ、来るはずのアルバイトが来なかったらお店の人が困るじゃん」ってあっさり言った。SUお姉ちゃんはそれまで店に来たこともなく、父や母に会ったこともなかったのに、その電話1本で翌日から数年間アルバイトをしてくれたのだった。
 その友だちがどんな事情で『行けなくなった』のかは忘れたと言ってた。

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表参道のイルミネーション(2017年)

 再会をとても喜んでくれて、今でも父や母のことを気にかけてくれる。東京から帰ってくるときは、おいしくてお洒落なお土産をいつも買ってきてくれる。人柄もおもしろいし、我が家とは家柄がけっこう違うためその辺の暮らしぶりを聞くのもたのしい。
 数年前に、母と姉と東京に行ったことがあって、ちょうど私の誕生日が近いこともあり、4人でディナーに行った。クリスマスの前で、大きな町ではクリスマスマーケットが開かれる。私が行きたいと言ったから、日比谷公園のクリスマスマーケットに付き合ってくれた。

 表参道や日比谷公園のイルミネーションと、クリスマスマーケットの雰囲気は大切な思い出となった。

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クリスマスマーケットで買って貰った思い出のスノードームとマグカップ。



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