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アートブレイキーと小さな町の喫茶店

 昨日父のところにコーヒーを貰いに(買いに)行ったとき、記事用のLPジャケットを撮影していたら「これ聴く?」と渡されたのがトップのCDだった。

MOANIN’ by ART BLAKEY AND THE JAZZ MESSENGERS

 父は年代的に言ってもジャズにずぶずぶと首まで浸かったひとで、所有しているレコードの枚数も多いし、プレイヤーもまだ2台を持ち続けている。その口からはするするとミュージシャンや時代背景、LPを手に入れたときの感動などが泉のように湧き出てくる。
 当然店でもあれこれとかけられていたので、私も自然と耳にはしている。関心がないことはないけれど、すすんでジャズを自分の人生に取り込んだりはしてこなかっただけだ。
 このアルバムも、大ヒット曲であるからプレイヤーに入れてイントロが流れてきたらすぐに「この曲聴いたことがある」とおもった。

 車に乗って、このアルバムを聴きながら頭に浮かんできたのは、子ども時代を過ごした店の情景だった(この曲に限ったことではないが)。

 焙煎機の中で豆が回転するシャンシャンという音、その音に重なるのは焼けた豆がぱちぱちと爆ぜる音、母が(父が)洗うグラスの触れ合うカチンという音、カウンターの椅子をひくぎぎっという音、たばこの煙とその匂い、「あのお客さんが帰ったら閉めよう」という母の心の声、扉につけているカウベルの音、閉店の時に扉に掛ける分厚くて重たいウールのカーテン。

 母が仕事を終えるのをじっと待っていたあの時間が懐かしい。

 「アートブレイキー」とか「ジャズメッセンジャーズ」などと、単語として記憶にあるけれど、情けないことに私はどうもミュージシャンと曲とそのタイトルを結びつけて覚えることができない(ジャズに限らない)。だからこうやって差し出されて音楽を聴いてやっと、「ああ!」となる。

 1958年にニューヨークで演奏されていたこの曲が、2021年の日本の田舎町で、その町にかつてあった喫茶店の情景を思い出させているなんて、アートブレイキーさんは当時夢にもおもっていなかっただろう。
 言うまでもないことだけど、じっと耳を傾ける価値のある曲ばかりが収録されている。

 音楽ってすごいですね。

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