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ひとがいなくなった島

 長崎市の南西に浮かぶ端島はしま(通称軍艦島)という島がある。ここ数年は明治日本の産業革命遺産などで注目を浴びている。観光のためのクルーズをおこなう会社がいくつかあって、これも人気が高い。

 とくべつ「行ってみたい!」とはおもったことがなかったため未訪問だった私に、TKさんからお誘いがあった。TKさんも行ったことがなく、ちょっとしたご縁で優待券をもらったのだそうだ。一緒に行かないかと、私に声をかけてくれた。

 それぞれのスケジュールと、天気を見ながら予定を立てた。予報が変わったりして、曇りの可能性もあったが、数日前の時点で晴れ予報となった。
 私たちが利用する会社のホームページには、運行予定などの情報も順次載せられるため、前の日にいちおうチェックすると、午前の便は「上陸できなかった」とあった。この日も晴れていたので驚いた。ただ風が強く、波が高かったようだ。明日はどうだろうか。

 乗船前の手続きとして10時前に港に行き、いくつかの説明を受ける。出航予定は10時30分だったが、この日は乗客が少なかったためほんの少し早い出航となった。乗船し、ガイドや船長、サポーターの挨拶があり、こまかい注意事項などの説明を受けた。準備が整い、船が出る。

 航行中の説明は目的地である端島だけでなく、関連遺産等についても画像・映像と視線誘導などを交えた案内があった。この日ついてくれたガイドの方は、自己紹介で80歳を過ぎていると仰っていたが、とてもしっかりとして丁寧だった。画像や映像モニターを映し出すために、手元のタブレット端末を操作する様子も堂々としたものだった。

 船はゆっくりと進み、伊王島や鷹島などいくつかの島々を過ぎ、前方に端島が見えてきた。

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 他の会社の船が先に着岸するらしく、我々の船はそのまま海上でゆっくりと周遊する。案内も続けながら、写真を撮れるよう速度をおとしたり、ポイントを教えるなどしてくれた。

 先の船が離れ、こちらの船が着く番になった。通路を進み、島に足を踏み入れる。

 立ち入りが許可されているのは島のごく一部で、ルートの中にある3つの広場でガイドの案内を受ける。とても気のいい方で、「案内中でも自由に写真を撮ってください」と言い、(写真を撮るのに夢中になっている人が多くても)自分の役割である案内をきちっとおこなっていた。

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 このクルーズの全体所要時間は3時間程とあったため、余裕があるとおもっていたが、あっという間に乗船時間になってしまった。遅れないように船に戻り、出航となった。

 この日ついてくれたガイドの方は、以前端島炭鉱でその仕事に従事されていたと言った。参加者に向けた案内の中では、多くがたのしめるような話題に絞って語られていたが、もしも個人的に当時のことを細かく話してもらうことができたら、きっと私はより心を動かされ、入れ込んでしまっただろう。今回は、通りすがりのいち観光客としての経験となった。
 野崎島でも以前そこに暮らした方の話を少し、聞くことができた。それはとても興味深かったし、もっとあれこれ聞いてみたいと思った。
 一緒に行ったTKさんは外海地区に暮らしていて、ずっと以前のその土地の様子や、ご自身が子どものころから聞いてきた話をしてくれる。
 この人たちがそれを語るとき、きっとその時の情景がイメージされているとおもう。この島々(土地)に暮らす人々の生活があったその映像的な記憶があるはずで、その浮かんでいるイメージを私も観たい。少しでも感じとりたい。

 だけどそれは無理な話で、それでもこのような方々に出会い少しでも当時に触れることができる自分は、とても運がいいとおもっている。どうしてだかわからないけれど、私のたましいはこのような体験を喜ぶ。

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 戻りの船の中で、神ノ島教会と海上のマリアさまの写真を撮った。五島行きの高速船でも通るのだけど、デッキには出られないから眺めるだけだった。それから、五島行きでは通らない伊王島の馬込教会も船の上から見ることができた。TKさんとの想い出がふえた。

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片山 緑紗(かたやま つかさ)
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