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読書感想文:イスラム教再考

「18億人が信仰する世界宗教の実相」と副題のついた本書は全9章から構成されています。情報の提示-解説-まとめという流れで構成されています。この流れは論文の結果-考察-結論という構成に倣ったものと思われます。

ざっと中身を紹介しますと、著者の本を読んだ事のある読者も、読んだ事のない人も、聞いた事があるような、ないようなひどい話が食傷を起こしそうなほど書かれています。出版社に詳しい方は本書を出版したレーベルについてはさまざまな議論がある事をご存知であると思います。今回はとりあえずその事は置いて、本書についてなるべく客観的に感想文をまとめたいと思います。

本書の冒頭、ーはじめにーではヨーロッパでイスラム教徒が増えた結果起きている諸々の出来事を、日本で言われる、イスラムは平和の宗教という教えと結び付けて考えることがいかに現実と乖離しているかを記しています。
ではなぜ乖離してしまったのかという問いに、著者は日本のほとんどのイスラム研究者が「イスラムは平和の宗教」と広める事で利益を得てきたからだと述べています。

え、そんな事ってあり得るのだろうか?と思った方は本書を冒頭から読む事をお勧めします。
そんなウヨクかサヨクの陰謀論みたいな話、嘘臭くて読む気にならないと思った方は、大丈夫です。個人的に7、8章をお勧めします。
特に7章はイスラム教とイスラム教徒への差別について論じています。ここで著者は「どんな人間であれ、ある人にとっては素晴らしい人でも別の人にとってはそうではないことがある、というのが真理です。」と述べた上で、個々のイスラム教徒をイスラム教徒集団の一員(つまりイスラム教徒=イスラム主義者ではない)として捉えて、個人と主義を分けて考えないイスラム研究者の姿勢こそ差別につながる態度であると注意を促し、個人として尊重すべきと解きます。

ではイスラム教徒を個人として尊重して、接触を持とうと思った時に何を考えれば良いのか。ということについては、続く8章で著者に実際に寄せられた批判を取り上げてこれに反論することで、イスラム教に対してこのように感情的に反応していませんか?とまるで読者に投げかけるように書かれています。

これらの論の詳細についてはぜひ本書をお読みください。

最後に、本書のキーワードに「活動家」や「全体主義」が出てきます。
そして終章では日本でのイスラム教への批判的言論を封じ込めてきたのは日本のイスラム研究者であると述べ、7章ではイスラム教の教義について批判的に議論する事を許さない社会はもはや全体主義社会であると彼らを批判しています。
 政治理論家のハンナ・アレントは、全体主義論の中で、全体主義は本来「運動」の事であり、この運動は運動を続けることが目的でありその終息地点に政治的目標は何もないと分析しています。また全体主義の組織は全体主義運動の中心部にいくほど外部から切り離されていき、自分たちが作り出した虚構の世界の中に埋没していく構造になっているとも述べています。そして全体主義的支配は秘密警察や強制収容所を生み出すことになると描き出しています。
 本書で著者の飯山陽博士(文学)は、活動家は世の中を変えなければならないと解くがその目的は既存の社会を破壊する革命を行うことであると断言し、その活動を行っている活動家としてイスラム研究者を取り上げ、全体主義的支配が再び訪れようとしている様を描いています。しかもそれはヨーロッパを破壊しているイスラム主義なのだと警告しています。

最後までお読みいただきありがとうございます。

ちなみにこの著者の本の感想文は他にも書いていますので、興味を持たれた方はどうぞ宜しくお願いします。

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