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マンガ「アドルフに告ぐ」感想文:巨匠の描いた3人のアドルフと追体験する緊張した時代

https://kc.kodansha.co.jp/product?item=0000043858

上記は「アドルフに告ぐ」の制作秘話と、今回私が読んだ講談社文庫版のリンクです。

さて、私が「アドルフに告ぐ」を知ったのは、子供の頃に通っていた図書館だったと記憶しています。
そこにはブッダやブラックジャックをはじめとした手塚治虫作品が蔵書されておりました。
その中で油彩画風の表紙で重厚な雰囲気を醸し出していたのが「アドルフに告ぐ」でした。

ところで、個人的に手塚治虫作品が最近の作品と大きく違うと思うのは、「死」の描き方です。

そう思うようになったきっかけは、図書館で手塚治虫作品を読みまくったせいで飽きた事でした。
その頃、「NARUTO」「ONE PIECE」と言った漫画が全盛期で、ついに図書館で貸出も始まっていました。手塚作品ばかり読んでいた私にとって、これらの作品の表現方法はまるで2Dから3Dになったかの如く衝撃的で虜になりました。
しかし当然人気なため、すぐに続刊が誰かに借りられたり、そもそもごっそり借りられて読めないなど安定的に追いかけることができませんでした。それで購入しましたが、既刊を読み終わると次の巻を待つ間手持ち無沙汰になりました。
そこで新刊を待つ間、手塚治虫作品に戻りました。とはいえ、何度も読み返していたので、ストーリーは把握済みで今となっては目新しさのない表現方法、と面白味は感じませんでした。
それでもやがて、なぜか違う、と感じるようになりました。それが何故なのかは短編集を読んだ時に分かった気がしました。

それはキャラクターの「死に方」でした。手塚治虫作品のキャラクターは実にあっさりと死ぬのです。ドラマチックな最後などはなく、ただ淡々と定められた死を迎える傾向にありました。
おそらく手塚自身が医者として見聞きしたこともあると思うのですが、彼の青春時代が悲惨な死と切り離せない時代だったことも大きいと考えられました。

それがどんな時代だったのか、あの時代にはどんな空気感が漂っていたのか、それを漫画に落とし込んだのが「アドルフに告ぐ」なのです。

個人的な思い込みかも知れませんでしたが、上記のインタビューには、やはりそうであった様子が記されていたので間違っていないと思います。

図書館で読んだ「アドルフに告ぐ」は何となく面白かった、で終わりましたが、その後時を経て再び読み返すと、当時の人心の様子がひしひしと伝わりました。

日常に戦争が隣り合わせで、ドラマチックな死に方などなく、何にもならず何も残さずただ死んでいく若者たちがいて、でもそこには夢も希望もあったのだ、というそんな時代の人たちの荒々しさや、当たり前の思考と帰結を描き切ったのが「アドルフに告ぐ」だと思います。

当時を生きぬいた作者の見聞を活かした歴史活劇「アドルフに告ぐ」は、子供ながらに、また大人になった今だからこそ分かる人間の複雑で単純な本性を見せてくれます。

とはいえ、未だに分からないのは峠草平が何であんなにモテるのかです。峠のモテ期と被ってたんですかね?




最後までお読みいただきありがとうございました。

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