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「プロダクトアイデア」の重要性と「コミュニケーション」の限界

〜顧客起点マーケティング Part 13〜

大規模な資本や営業力がある場合、大きな既存マーケットを見つけられれば、プロダクト自体の独自性が弱くても基本的な便益のみで勝てる可能性はあります。商品がコモディティに近くても、顧客に独自性と便益を感じてもらえる「コミュニケーションアイデア」を創出し、大規模なメディア投資と、体験と購買の場を作って勝利する方法です。認識しにくい独自性であっても、パッケージの形状やデザイン、ネーミング、テレビCM、PR、デジタル施策、小売の店頭も押さえて大規模に360度コミュニケーションを図り、ブランドを育成することは可能です。
しかし現実的には、ほとんどの企業やベンチャーにはそこまで大規模なリソースはなく、このような物量戦略の適用は難しいと思います。また、強い「コミュニケーションアイデア」の開発も簡単ではありません。マーケターとしてそれなりの試行錯誤の経験が必要になりますし、そのための人材育成も非常に難しいことです。中途採用するにしても、ニーズに合う人材が多くないのが現実です。
広告代理店に依頼する場合も、その難しさは変わりません。そもそも「プロダクトアイデア」が弱い商品に対して、何とか良いコミュニケーションを考案してくださいと広告代理店に丸投げしていては、売上の伸長に繋がりようもありません。
マーケット環境を見ても、独自性の弱い商品やサービスは、ますます通用しなくなっています。80年代、90年代、2000年代は、有名タレントを起用しただけでメディアに大きく取り上げられ、日常で話題にしてもらいやすい時代でした。ECが黎明期で流通が店舗に限られていたころは、情報の流通も4マスメディアに限られ、情報量自体も少なかったので、わずかな差(弱い独自性)がニュースとして多くの顧客に届きました。
2007年のiPhone登場を一つの契機にスマホが浸透し、情報の流通量は飛躍的に増え、情報入手のルートも広がって、そこそこの「アイデア」では注目されず、あっという間に埋もれてしまうようになりました。
ソーシャルマーケティング、インフルエンサーマーケティング、バズマーケティングなど、デジタル分野を中心に様々な新しいコミュニケーション手法が提案されていますが、強い「プロダクトアイデア」がなければ、このような手法で商品やサービスが広く拡散することはありません。投資すれば、インプレッション数や再生数自体は確かに伸び、情報自体も拡散したように見えますが、それが大きな認知形成や購買に繋がることはありません。インプレッションが2000万あった、動画が300万回再生されたと言っても、筆者が知る限り、その結果として大きな売上になったケースはあまりないのが現実です。
これらの手法が問題なのではありません。ただ、相対的な価値でしかないプロダクトの比較優位性を訴えるだけでは、戦略として不十分な時代になってしまったということです。独自性を伴った便益という「アイデア」そのものが問われる時代になったのです。

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[M-Force株式会社]
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