見出し画像

日本最北端で年越しをした

日本最北端の地、北海道の宗谷岬。
様々な旅の出発点、到達点になることが多いこの地では、毎年大晦日になると多くの人々で賑わいます。

宗谷岬へと続くオロロンラインは、しばしば荒れた吹雪に見舞われ、視界を奪うホワイトアウトが発生します。冬の最北端の旅路には危険が伴います。

厳しい自然条件の中、皆、年越しの瞬間を迎えるべく、過酷な旅路を経てこの地に集うのです。

今回は年越しを日本の北のてっぺんという、特別な場所で過ごしてきたときのお話です。


冬の北海道を旅するのは3回目で、そのうち2回は自分の車で旅をしていました。
冬の北海道を旅するにあたっての個人的なノウハウは以下の記事にまとめました。個人的な経験と教訓に基づくものですが、参考になれば幸いです。

そもそも行くきっかけになったのは、Youtubeで車載動画を見ていたときでした。関連動画に「年越し宗谷岬」という文字が目に留まりました。

冬の北海道は一面の銀世界。

ブリザードが吹き荒れる道中から宗谷岬に至るまで、人々が様々な工夫を凝らして挑む姿に、冒険心と旅情が駆り立てられます。

私自身、冬の北海道を車で旅したことがあるため、宗谷岬へ足を運ぶこともできるかもしれないと考えました。
気がつけばフェリーの予約ボタンにマウスカーソルが動いていました。そんな旅情への誘惑につられ、今回の旅のプランを練り始めたのです。

私の車はFFで2駆です。車高も一般的な車と同じぐらいなので、特別な耐雪性能はありません。スタックの可能性が大きくなる豪雪地帯を避けたルート選びが必要でした。

そこで今回は八戸まで自走して、シルバーフェリーに乗って苫小牧に上陸する方法をとりました。
函館付近は降雪量が多く、なおかつ札幌までの道のりは長いです。噴火湾をショートカットすることで時間短縮しようと考えました。

幸い、12月31日まで天候は安定する予報が出ていました。

除雪されていなかったので、駐車場からここまで歩くのが大変だった。

宗谷岬に到達する頃にはすでに日没を迎えていました。このときからモニュメント前の駐車場は満車で、少し離れたてっぺんドームの駐車場にはかろうじて空きがありました。

夕闇に佇む間宮林蔵の像

ここに来るのは2度目で、自分の車で来たのは初めてです。

日本最北端のバス停

稚内市主催で「初日の出inてっぺん」という初日の出を観覧するイベントが開催され、毎年多くの人々で盛り上がっています。

バイクで来るライダーが多く、北から南まで、遠路はるばる宗谷岬に駆けつけます。駐車場には、様々な地名のナンバープレートを付けた車やバイクがひしめき合います。

トイレの周りにはバイクや自転車で来た人々のテント村ができていました。

22時頃の気温は氷点下1度と、例年の宗谷岬にしては暖かいようです。
今年にいたっては気候がよく、曇っていますが午前7時頃には晴れ間も見える予報が出ていました。
日の出が見られるかもしれないという期待感に包まれます。

午後11時50分。年越しの時が徐々に近づいてきました。
モニュメント前に集まって皆でカウントダウンを取り始めます。刻一刻と迫るその時を待ちわびて、皆心を躍らせます。時計の秒針がゆっくりと動き出します。

そして、ついに待ちに待った瞬間がやってきました。カウントダウンが終わり、時計の針が正子を指します。一瞬の静寂の後、大きな拍手と歓声が夜空に鳴り響きます。北の果てという特別な場所で、新しい年を歓迎する喜びと興奮に満ちた瞬間です。

過酷な道中を無事に乗り越え、新たな年の第一歩を迎えることができたことを皆で祝い、称え合います。

気温の割には風が強く、じっとしていると手先足先が凍りついてきます。
年越しを迎えたので、早いところ車に戻って暖を取ることとしました。

自販機の温かいコーヒーが身にしみます。


朝、モニュメントの両サイドにかがり火が灯されます。

温かい火とは対照的に、時折降る雪が横殴りに吹付け、寒さが一層際立ちます。

夜が明ける前、有志による花火の打ち上げが、大会のメインイベントの一つとして待ち構えています。

近くには海の音が聞こえ、冷たい風が肌を刺す中、打ち上げの瞬間を今か今かと待ち続けます。市長の挨拶とアナウンスとともにいよいよその時が訪れます。
花火が空に舞い上がり、一瞬にして闇を照らし出します。

花火の色彩が、天空を鮮やかな色で染め上げます。音楽に合わせて100発ほどの花火が打ち上がり、まだ夜が更けない寒空を彩ります。

明け方になって風が強くなり、打ち上げた花火はすぐに風で流されてしまいます。
しかしながら、年明け最初に日本のてっぺんで見る花火もまた格別です。

宗谷岬神社では初詣を行う人も見受けられました。

宗谷岬神社

花火の後、モニュメントの近くでは年明けの記念キーホルダー配布がはじまります。
絵柄はその年の干支になっていて、全部で12種類あるそうです。コンプリートする人もちらほらいるとかいないとか。

テント村の隣を多くの人が列をなします。
記念品には限りがあり、近くのガソリンスタンドのさらに向こうまで列が伸びていました。

夜明け前、灯台の光が眩しい

日の出は朝7時ごろ。明るくなる生まれたての空に反して、雲はどんどん厚くなっていました。期待と不安に揺らめきながら、空を見上げます。

そして、突然、雪がちらつき始めました。不意に舞い降りる雪は風に流され、降っては止んでを繰り返します。

雲間の切れ目が見えているものの、周囲にはあきらめムードが漂い始めます。テントを畳んで撤収を始める人たちも現れ始めました。

日本最北端の郵便ポスト

結局、残念なことに初日の出は曇り空で見ることが出来ず、イベントは静かに幕を閉じました。

宗谷岬での初日の出は10年に1度と言われています。日本海側に大雪を降らせる冬型の気圧配置に影響されて、曇が広がりやすく、タイミングよく年明けに晴れることは稀であるようです。

周囲には、次第に人の姿が見えなくなっていきました。風が吹きすさぶ中、私もそろそろ帰り支度を整えることにしました。

私は愛車に向かって足を進め、エンジンがかかると、暖かい空気が私を包みこみます。
そして、アクセルを踏み、最果ての地を後にしたのです。


この記事が参加している募集

旅のフォトアルバム

やってみた

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?