記事一覧
タイトルはありません
昔の話をひとつします。
そのころ、私は代々木にある予備校に籍をおいていた。しかし授業にはほとんど出席せず、パンを製造する工場の夜勤や引越しの荷物運びなど、短期のアルバイトで得た小銭を新宿や渋谷の路地裏で浪費するような日々を送っていた。
ある冬の日、西武新宿駅と道を挟んで向かいにあるパチンコ店から出て、輪ゴムで括られたレコード針の束を両替所で換金し、その足で靖国通りと交差する所まで来ると、ファ
#文字数約5,500 手錠とその因果
いつもと変らぬ朝だった。私はそのつもりでいた。
毎朝目覚まし時計が鳴る数分前に目を覚ます。その直前まではたいてい夢のなかにいる。例えば犯罪を犯して迷宮に迷い込み、逃げ回ったあげく精根尽き果てて目覚めれた朝は、ベッドの周りの慣れ親しんだ空間に安堵する。カーテンの合わせ目から漏れる朝の光に照らされた壁際のテレビの画面。その表面に付着した埃。ベッドの脇に散乱する雑誌の表紙で微笑む少女。そういうものが
#掌編小説 亜熱帯チャイナタウンにて
ことが終わってシャワーを浴びても、女たちは帰ろうとはしない。ベッドに戻り、片言の日本語で睦言を囁き、朝になればシャワールームまでついてきて、身体にボディソープを擦ってくれる。なかには朝食のテーブルにまで一緒に座ろうとする女もいる。彼女達はそうやって次の夜も部屋に来ようとするのである。
私の部屋にもよく女が来た。ルームサービスで好きなものをとらせ、冷蔵庫の飲物はなんでも飲んでよいと言う。ある女