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YouTube広告に見る「女としての幸せ」の虚しさと悲哀

 YouTubeの動画再生前に、広告が挟まるようになってから久しい。数秒待てばスキップ可能なモノもあれば、そうでないものもある。
 私は約一年前からSNS恐怖症になって、以来YouTubeから様々な情報を得るようになったこともあり、広告はウザいばかりでいつもすぐさまスキップしていた。

 だが今は違う。何がどう違うのか、何故違ってきてしまったのか、そしてそれに対して私が何を考えているか、本稿ではそれについて書きますぜ。

01:女性のコンプレックスのオンパレード

 ある日、よく分からないストーリー仕立てのCMが始まった。

「私の名前は○○! ごく普通のOLで、最近気になってる同僚の××さんからデートに誘われたの!」

……はぁ、で?

 何となく話に興味を持って、というかこれは一体なんの商品の広告なのだと疑問に思い、見続けてみた。

「彼の部屋に行って、すっごく良い感じになってベッドに座ったら、彼の態度が豹変して……」
『ごめん、気分じゃないんだ(女性の低い声で演出された男性の声)』
「結局その夜は、何も起こらなかったのです」

 ここまで書くと、どういったプロダクトのどういった広告なのか、さっぱり分からんと思う。それが気になって私は広告を最後まで見て、納得し、それ以来同じ系統のCMに出くわすと、「今度はどんな手で売り込んでくるんだ?」と腕を組んでニヤリと不敵に笑うようになった。

 太っている
 足が太い
 顔にシミがある
 貧乳
 毛深い
etc.

 広告でターゲットとなるのは大体これらのコンプレックスだ。
 しかし、どうやら最近はただ「痩せますよ〜!」と言うのではなく、ストーリー仕立ての寸劇にして、購買欲と寸劇のドラマツルギーをごった煮にすることによって売り上げアップを狙ったシロモノが雨後の竹の子よりも多いっていうか雨粒の数より多い。

 それを面白がって、私はそういった広告にヒットする度、スキップせずに見まくった。すると、もうそこには完璧にパターンというものが存在しており、しかもディティールはモノによって異様に凝っていたりリアリティを持たせようとしたりしていて、それがまた笑えた。

 ただ一点、『何だよそれは』という引っかかりを除いては。

02:コンプレックス集中攻撃型広告のパターン

 先ほど例として取り上げた、○○ちゃんと××さんの広告をサンプルに、広告のパターンを分析してみよう。

 良い感じになって彼の部屋でベッドに座った瞬間彼の態度が変貌し、何もなく終わってしまった翌朝、○○ちゃんが出勤すると××さんが同僚とこんな感じの会話をしているのを聞いてしまう。

「いやぁ、○○ちゃん、もうお腹の肉ヤバくてさぁ。女として見られなかったよ。あんなデブ好きだったのは俺的に黒歴史だね」

 傷ついて泣きながらその場を去る主人公の○○ちゃん。
 そこに現れる救世主的キャラ、大抵このパターンが多いので、今回は会社の先輩ってことにしよう。

先輩「どうしたの○○ちゃん?」
○○「実は……(事情を説明)」
先輩「だったら見返してやろうよ!!」

 うん、ここまではいい。
 だが問題は「見返し方」だ。

先輩「実は私も昔太ってて、今の○○ちゃんの気持ち凄く分かるんだよね」
○○「えええ?! 先輩モデル並みの体型じゃないですか!」
先輩「秘密があるのよ、簡単に痩せられて、リバウンドもしない、ひ・み・つ! ○○ちゃんにだけ教えてあげる。これ、試しに飲んでみて」

 ここまできて、ああ、ダイエット商品のCMか、と分かるのだが、この後の展開がまた凄い。

 モデル並みのスタイルの先輩に渡されたサプリに半信半疑な○○ちゃんは、すぐさま口コミを調べる。ここで使用される動画や画像は実際のものっぽいが判別はつかない。さらに「モデルの誰々さんも愛用!」とか入ると箔が付く。

「こんなに口コミがいいんだったら私も試してみようかな」

 チョロい、チョロいよ○○ちゃん。

 で、大抵ダイエット商品系だと翌朝宿便がどっさり出たり、一週間で5キロ痩せたりする。素直に感動する○○ちゃん。もうツッコミが追いつかない。

 そこから始まるのはその商品がいかに効果的かを科学的に保証する怒濤のうんちくである。
 アメリカの何々大学で云々、最新の研究では効果が認められていて云々、忘れてはいけないのが、「他の商品とはここが違います! だから効果的です!」というマウントである。
 この辺は多分再生速度を1.75倍とかにしてあるんだろうな、と思うほど速い。

 ストーリー仕立ての広告なので、ちゃんとオチはつく。
 たとえばこの話の場合、○○ちゃんが1ヶ月で15キロ減量に成功して、なんかよう分からんがサプリの効果でお肌もキレイになって、××さんが再びアタックしてくるんだけど、○○ちゃんは突っぱねて、別の外資系の会社のエリートイケメン社員とすでに付き合っていたりする。

 で、〆は大抵こんな感じだ。

「(商品名)のおかげで女としての幸せを手に入れた私、今とってもハッピーです★」

03:引っかかるフレーズ四選

・「女として見れない」
 
まずはこれな。ストーリーによっては既婚の男ですら妻にこれを言ったりする。太ったから、性的魅力を感じない、とか何とか。
 大丈夫か? 問題はおまえの嫁の体重よりおまえのち○こじゃねえのか? と言いたくなること山のごとしなんだが、幸か不幸か私にはそれがないのでよう分からん。

・「女捨ててる」
 お次はこれだ。これは悪役の男女共に主人公女子に言うパターンが多い。太ってるだとか体毛が濃いだとかそういうことに関して、「自己管理ができていない」「改善の努力が見られない」といった意味で使用されるのだが、おい、女捨てるより品性捨ててる方がよっぽど問題だと俺は思うぜ。

・「自分磨きが足りない」
 磨かないといけないんすか、そもそも。その辺に転がってそうなJ-POPの歌詞でさ、『ありのままの私を愛してくれた〜♪』みたいなのあんじゃん、あれって嘘なの? いや、すまん、俺はあまり自分磨きをしたことがない。一番磨いてたのはおそらく高校一年の時くらいだ。
 っていうかお気づきの読者様もいるだろうが、自分はそもそも一人称に「俺」が混ざる程度にジェンダーがふわふわしている。男に見られるための自分磨きなら20代前半に相当頑張った。でもそれはおそらくこの文脈での「自分磨き」とは違うだろう。
 
 話が逸れた。これは上の「女捨ててる」にも通じるだろうが、美しい自分を保つ、何ならもっともっと美しくなるために努力をする、という意識だろう。いや〜それって人それぞれじゃないすかね! 価値観の押しつけ、イクナイ! 俺はそう思うけどね!!

・「女としての幸せ」
 オーケー、この文脈で読み解くと、この『女としての幸せ』とは、

  ・太ってなくて、
  ・顔にシミがなくて、
  ・美脚で、
  ・そこそこ胸があって、
  ・体毛がなくて、
  ・イケメンの彼氏がいて、
  ・そんな自分をハッピーだと思っている状態

 と読み取れる。

…………。

——おい、大丈夫か、いいのかおまえ。世の中にはもっといっぱいおもろいもんあるよ? それはおまえの体型や体毛の濃さに関係なく面白くて美しいもんだぞ?

 言えど、これもブーメランってやつですかね。
 私はさっき、「価値観の押しつけ、イクナイ!」と言った。上に列挙した『女としての幸せ』を享受する人らにとっては、同じことかもしれん。

04:昭和生まれの私ですら

 さて、長々と書いてきたが、そろそろ〆に向かう準備の心構えくらいはした方がいいかもしれぬ。

 スパッと書いてしまおう。

 ここまで列挙した『女性のコンプレックス集中攻撃型広告』における「女としての幸せ」は、昭和生まれの私ですら前時代的だと思った。
 それでもこれだけの数の広告が存在するということは、それだけのニーズがあるということなのだろう、おそらく。つまり、多くの女性が体型やその他外見に悩みを抱えていて、それを解消したいと考えている証拠だ。

 すがりつきたくなる気持ちは痛いほど分かる。
 実はワタクシ、薬の副作用で25キロ太った上に糖尿病になった
 ダイエットのサプリにも手を出した。無効だったけど。
 だが、私が痩せたいと思ったのは『女としての幸せ』とやらをゲットするためではなく、身体的健康と、かっこいい服を昔のように着たいから、という理由である。

 そもそも最初に挙げた、救世主的キャラ(上の例でいう「会社の先輩」)が提示するソリューション、

「痩せて見返してやろう!」

 が、そもそも違うと思うのは私だけだろうか?

 違うだろ、太ってても受け入れてくれる相手を見つけるとか、太っている女性に魅力がないと思わせているこの世間一般の認識を変えていく方が重要だろ、と。

 諸君はどうお考えだろう? 私はこれら広告を見て、若い女性がどう感じるか、シンプルに疑問を抱く。よかったらコメントか何かで教えてくださると幸いである。
 また、こういった広告は男性にとってもオフェンシブであることは言うまでもない。だから男性諸君の考えもぜひ伺いたい。

 最後までご拝読いただき、ありがとうございました!

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