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秋の風にのって

やらなきゃいけないことは山ほどあるのに、『なんだか天気はいいみたいだ』なんて思っただけで窓も開けずにずっと同じ場所にいる。僅かな気力でひとつ大きく深呼吸をすると、部屋の隅で寝っ転がってるソレを手に持ちカーペットの上であぐらをかいた。

筒に巻かれた紙の端っこを爪で少しめくって、点線にそって剥がす。だけのことなのに、いつものように点線からはみ出て斜めに切れていった。
そのままどこを見るでもなく、ソレを床に押しつけて腕を伸ばしたり縮めたりを繰り返した。紙が斜めに切れたから、そこを境目に白と黒の模様ができていた。

何度くりかえしてもできる白と黒の模様を、ただ眺めていた。その中に、数えきれない時間を一緒に生きた、いとおしい愛猫の毛をみつけた。そっと紙から剥がし、親指と人差し指の腹でぬくもりを探す。窓を開けると風が部屋を抜けていく。今度はしっかり深呼吸をして空を見上げた。あの日よりすこしだけ高くなっていた。

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