小説:ハチジョウのキュウジョウ【第3話】「1K8畳」
これは奇跡の島の球場に導かれた野球選手の僕の事実のストーリーである。
第1話「球場」キュウ"ジョウ" 第2話トカイデノシン”ジョウ”はこちらから↓
【第3話】「1K8畳」ワンケーハチ”ジョウ”
そんな東京の大都会で
「自分専用の野球場があったら最高だな。」
というかつての思いを語っても誰もが
「無理だろ。」
と即答されるのが、大人になり現実を知るとわかってきてしまう。
実際、企業に勤めている今の給料では、野球場を貸し切るどころか、都会で急行の止まらない駅の近くで築年数の古い”8畳の1K”を借りるのが精一杯であった。
この部屋を不動産屋と内見に行った時、マンションの1階の部屋でベランダのところに小さな小さな芝生の庭みたいなスペースがついていることにとても喜んだのをよく覚えている。ここで試合やキャッチボールをするなんてドラえもんのガリバートンネルやスモールライトがないと不可能である。が、「ここならバットの素振りできるかも」なんて喜んで予算より少しオーバーしていたが、この部屋を契約した当時の僕がいた。
そんな日々を過ごす中で、東京オリンピックの聖火ランナーの日が来た。結局沿道に人が集まることがコロナ対策的に良くないとのことで、世田谷区の道路を走ることはなくなり、特設会場内での聖火の受け渡しセレモニーの形になった。聖火のトーチを貰って火の受け渡しを行った。結局僕が火を受け渡したのは有名人ではなく名も知らない中学生だったのだが、彼が将来大物になると信じよう。そして僕の受け渡した火はその後、元メジャーリーガーの上原浩治選手や、松井秀喜、王貞治、長嶋茂雄が受け取り聖火ランナーをやったので間接的に野球界の伝説の名選手のリレーに加わったことがとても誇らしかったのを覚えている。
聖火ランナーのマラソンは毎日ダイジェスト番組として今どこを走っているのか放送されていた。自分が映るか楽しみに毎日見ていたので「今、東京に来た!」、「今日はどこだ?」と追いかけていたが、
この時、東京の離島でも聖火ランをやった日があった映像はなんとなく流れで見た記憶はあったが、特に意識もしないで通り過ぎて行った。
この時を振り返ると、おそらく多くの人にとって、あるのはなんとなく知っているが具体的には意識していない。これが東京の離島の立ち位置なのかなと感じるのである。
オリンピックの開会式も無事終わり都会の猛烈な暑さの中、エアコンの効く部屋に隠れていた夏、競技の観戦チケットも運良く当たっていて新国立競技場に行きたくてワクワクしていた。のにもかかわらず、これもコロナの影響で無観客開催となり、チケット代金が返金されたのだ。
テレビでいろんな競技の中継を見ながら僕は過ごしていた。
生まれた時から東京にいて、これからもずっと東京で暮らしていくんだろうなとなんとなく考えていた。家から一番近い小学校に行き、その隣にある中学校に行き、家から自転車で行ける高校に行った。
大学までの満員電車が嫌いすぎて絶対に満員電車に乗らなくて済む場所の職場に就職しようと考えていたが、気づけば満員電車に乗って通勤していた。
人がギュウギュウに押し込められた電車やバスに乗るのは明らかにおかしいことだと思っていたのに、いつのまにかどこに立てば押しつぶされないのかをマスターしていた。
日本は少子化が進んでいるというが、電車やバスに乗り切れないくらいめっちゃ人間がいる。なので、少し人間が減った方が乗りやすくなってちょうどいいんじゃないかと、潰されて苦しそうな中学生なんかみると思ってしまう。それでも少し混んでることが不満なくらいで特に不便な点もなかったので、東京ではないどこかで暮らすことは想像もしていなかった。むしろ予想もしない地方に転勤になるような仕事だけは避けて就職し、ずっとこの地域で地元の仲間といつもの場所で野球をして暮らしていくんだろうなと思っていた。
東京オリンピックに向けて新しい建物や駅が進化していくのは特別感があって楽しかったしきっとこんな機会はもうないかもと思いながら、その状況の中で東京に住み、オリンピックでの盛り上がりに遠くでつながっている仕事ができていることに大きな不満もなかった。仕事にも慣れてきて自分が新人の時にやっていた仕事を後輩に教えたりすると、誰にでも代わりは務まる仕事をしてるんだよなと感じずにはいられなかったが、それを割り切るのがオトナなのだ、みたいな空気があった。納得はしていなかったが、そんなものかと思いながら週末野球ができて楽しければいいと思って過ごしていた。
そんな状況の夏。
僕はエアコンをドライで弱く効かせた少し暑い実家の8畳の日本間のたたみの上にいた。
そこでなんとなくスマホで検索していた。
すると僕の右手の中に突如、流れ星のように一枚の野球場の写真が表示された。
なんのワードで検索していたのか、SNSの誰かの投稿だったのか、忘れた。「絶景_野球場」かもしれないし、「メジャーリーグの野球場」を調べていたら関連画像で出てきたのかもしれない。とにかく、その写真が衝撃的すぎて、なんで出てきたのかの過程は吹っ飛んでしまった。
今となっては未来の技術でその時のスマホに未来の自分から飛ばされてきた写真なのかもしれないと思っている。とにかく運命だったのだ。
そこには青い海と海沿いに存在するめちゃくちゃ綺麗な野球グランドが存在していた。
今まで国内のプロ野球の球場やアメリカに行ってメジャーリーグの球場も何箇所か現地に見に行ったが、この写真の野球場は衝撃的すぎた。外野のすぐ外が海になっていてホームランを打てば海に落ちそうな海岸沿いに存在している。サンフランシスコジャイアンツの本拠地などホームランが水に飛び込みカヌーでホームランボールを追いかける映像など見たことがあるが、この写真のスタジアムの方がスケールはもっと大きい。
この写真を見た瞬間頭に電撃が走り、
出てきた感想は「絶景だな」や「美しい」なんて単語ではない。
「このマウンドに立ちたい!!」
まさにその一言だった。
そこから行動に移すのに、息継ぎもしなかったのをよく覚えている。
第4話につづく
今後、連続で連載を投稿していきます!
昨日2周年を迎えた僕の島での2年のストーリーをもとに書いていきますので長くなるとおもいますが、ぜひ島に来たと思ってゆっくり楽しんで欲しいです!!
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