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粘菌は認識のスキマにいる

夏の北海道は程よく涼しくて、森へ行くことが増えてくる。美しさを感じるための観察に正解というものは無く、種類の特定は二の次。古道具屋や美術館や、博物館に行くように、森を観に行くことが多い。

それまで見たことのない形や存在に出会った時の、死角から肩を「ポン」と叩かれたようなあの感覚。その感覚を得るために、落ち葉をひっくり返したり、枯れ木や切り株を物色したり。

そんな動き方は東京 - 高円寺の古着屋めぐりや、国立市の古道具屋めぐりで培ったものだったりする。「おっ」と思うような掘り出しモノは、掘ったり漁ったりしないと出てこないのだ。

そうこうしていると、不意に異形のモノが生えていることに気づく。かなり小さい。大きさは2ミリくらいで、形はサンゴのように枝分かれしている。ほんの少しだけ青みがかった白だけど、小さすぎるためか薄く透けてしまっている。

ツノホコリ

ツノホコリの仲間。変形菌や、粘菌というカテゴリーの生き物だった。草やキノコよりもさらに謎だらけ、かつ人間社会においてマイナーな存在。けれども極めて小さな存在が、しっかりと形を成している様子は限りなく一種の「ロマン」に満ちていて、何より美しい。

なぜこの形に至ったのか....それは「進化と呼ばれるもの - 試行錯誤と、膨大な時というふるいにかけられた結果だ」と思い至るものの、じゃあどこからその試行錯誤は生まれたのか。ここから先を考えてしまったら、神秘的でどうしようもない謎に包まれてしまう。


森や目の前の粘菌、草一本、ヒト一人のことさえも、結局のところ完全に理解することは不可能だけど。そのお陰で、何かを知って「認識の隙間」を埋めた瞬間の「わかった」という興奮が生まれる気がしておりまして。

完璧に至れないからこそ、よく観ることや認識がクリアになる楽しみを、無限に得ることができる。しかも幸運なことに、発見したものは美しかったりする。これって地味に長い人生に対する、素敵な贈り物じゃないだろうか?

北海道に移住して3年。認識の解像度は少しずつ上がってきた。大量の日光を必要とするホオノキは、草木の成長を邪魔する成分を、落ち葉を通して撒き散らす。天然の除草剤のおかげで暗い森に明るい場所ができ、ホオノキは光合成による収入を得て、大きな葉っぱを作るエネルギー支出を賄える。

世界最古クラスの被子植物であるホオノキの花は、大きく原始的な美しさを帯びているけど蜜を出さない旧型モデル。虫への報酬は花粉だから、蝶は来ずにアブなどがくる。そして美味しい果実に包まれたタネは鳥に運ばれる設計で、消化管を通らないと発芽しないようプログラムされている。

そうしてフンとして落ちたタネは光のセンサーを備えていて、明るいところじゃないと発芽しない。だからこそホオノキは道沿いなど明るいところで発芽する。などなど...ホオノキだけでも書ききれないほどの情報と関係性が今の目に飛び込んでくる。

けれど、粘菌はさっぱり分からない。
素敵な隙間は、それはもう無限にある。


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敬具🌱

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