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【第46回】「建築と人が育てるパブリックライフ」

第一線で活躍しているクリエイターをゲストに迎え、クリエイティブのヒントを探るトークセミナーシリーズ「CREATORS FILE」。

第46回 クリエイティブナイト
ゲスト:西田司氏(建築家/株式会社オンデザインパートナーズ代表)

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今回は、多くのジャンルや年代の異なる人たちと協働しながら、オープンでフラットな設計を実践しているオンデザイン代表・西田司氏を迎えて、「建築と人が育てるパブリックライフ」をテーマにその思考法や仕事術を紐解きます。

「建築家」のイメージ

西田:今日は「建築と人が育てるパブリックライフ」というテーマでお話しします。そもそも定義はすごく難しいのですが、みなさんは「建築家」にどんなイメージをお持ちでしょうか。

西澤:安藤忠雄さんのようなイメージでしょうか。

西田:確かにそうかもしれませんね。

西澤:(参加者に対して)いかがですか?

参加者A:「考えている人」といったイメージです。

西田:そうですね、すごく考えています。どんなイメージかもう少し聞いてみたいのですが、いかがでしょうか。

参加者B:言われたままのものをつくる人と、自分の思想に基づいてつくる方と両方いらっしゃいますよね。どういう違いがあるのか、常々疑問に思っていました。

西田:確かにそうですね。 建築物として頼まれたものをつくることと、「こんなことを考えている」という思想を持ってつくることの違いは何なのか。

西澤:もしかしたら、設計者と建築家の違いもあるのかな。「設計者」と名乗る人と「建築家」と名乗る人はどういう意識の違いがあるのでしょうか。

西田:ああ! それは知りたいですね。「建築家」と紹介されていますが、僕はどちらでも良いタイプです。1999年に大学を卒業し、2000年から社会に出ました。現在43歳で、大学を浪人していることもあって、人生の前半は学校、後半はほぼ建築をしています。大学は24歳で卒業し、設計事務所「スピードスタジオ」を大学の同級生と共同代表で設立しました。

西澤:うん、うん。

西田:僕は、建築はすごくフェアな学問だと思っています。大学に入った時点で、みんなほぼゼロスタートだからです。そこから「何を見たか」「何を勉強したか」「どんな体験をしたか」が記憶に入っていく。その記憶の引き出しを自分が設計する時に開けてアレンジするのですね。文脈は常に、自分が見たもの・感じたものからでないと絶対に生まれません。建築という業界は見れば見るだけうまくなるし、センスも上がるという、非常にわかりやすい学問領域です。それを大学時代にどんどんインプットしていくのです。


最初の作品、実家「西田邸」

西田:これは僕が最初に手掛けた、実家の西田邸です。リビングが大きいサッシで囲まれており、すべて開くことができるんです。柱は上から降りてくる力しか受けておらず、横からの力(地震力)は左側のコンクリートが全部受けている、コンクリートと木造のハイブリット構造です。サッシが全部開くにはどうすればよいか構造の担当者と相談した結果、こうなりました。「構成が明快な建築がいい建築だ」と教育を受けていたこともあり、リビング、デッキテラス、駐車場とシンプルな構成にしました。

西澤:すごいですね。ただ、建築学科を卒業しても、普通はいきなり実施の図面は書けないと思うのですが……。

西田:父が建築家で設計事務所を持っていたので、実家の設計を始めたころは、困ったら助けてくれるものだと甘く考えていたのです。ところが、模型で「こういうのをつくりたい」と父に言ったら「お前が図面書くんだよ。俺は何も教えないから」と。

西澤:息子に任せたのですね。

西田:父の事務所は、病院などの大きな建築を数多く手がけていて、住宅の実績はほとんどなかったせいか、「俺は住宅のことはわからないから」と言われましたね。でも今思うとすごくラッキーで、わからないなりに試行錯誤しました。「確認申請」という法律の手続きがあるのですが、僕は建築士の資格がないにもかかわらず、施主なので一応申請を出せるわけです。本来、建築の図面はかなり複雑なのですが、何も知らない僕はCADで書いたシングルラインの図面を持って行ったので、役所の方にかなり驚かれました。

西澤:あはは!

西田:「これを持ってくるの?」みたいなね(笑)。言われる通り少しずつ直して何度か通いました。最初は「もうちょっと勉強して来て」と言われましたが、3回目ぐらいからかわいそうに思えてきたみたいで……。1日30分程度、確認申請の書き方をレクチャーしてくれました。下水のルートなどを役所の窓口担当の方に教えてもらって確認申請を出したわけです。この頃は大学の同級生だった保坂と組んで仕事をしていましたが、5年後にお互い仕事がある状態で独立できました。運がよかったのでしょう。

西澤:すごい! それでも、卒業していきなり設計事務所をつくる人はそう多くはありません。小さい頃は、建築や設計が当たり前の風景だったのでしょうか。

西田:そうですね。父は「槇総合計画事務所」という有名な事務所にいて、「秋葉台体育館」というちょっと変わった体育館も担当していました。小学校当時はその現場によく行っていましたね。

西澤:エリートですね。「どれだけ見たかで勝負が決まる」とおっしゃるように、建築情報のストックがすごい。

西田:その割には、大学時代は本当に設計ができなくて……。父の影響もあって建築は好きでしたが、おもしろかった割には大学には行っていません。

西澤:要は思考トレーニングが大事ですからね。

西田:まさにそうです。たとえば集合住宅の課題が与えられたとします。そこで、集合住宅とはどんな価値なのかなと考える。大学では現在第一線で働いている若い方が教えに来ていたので、その影響も受けましたね。


シェアの価値を考える「ヨコハマアパートメント」

西澤:「ヨコハマアパートメント」は、どんな着眼点からアプローチをしたのでしょうか。

西田:近年「持ち家率が下がっている」というデータが出てきました。平均年収が15年間で50万円下がり、「所有」の感覚を持ちたくても持てない状態が世の中にある。それと同時に「所有することは古い」と思っている人もいる。この事実は一見マイナスに思えますが、むしろプラスの要素として楽しめるのではないかと考えたのです。

西澤:ほう。

西田:「カーシェア」や「Airbnb」、「コワーキングスペース」といった空間やモノのシェアは一般的ですが、注目すべきは「誰かと一緒に何かを育てる」という、学びや共創感です。持ち寄りパーティをイメージしてみてください。「互いに違うものを持ち寄って一緒に食べる」という行為自体に、高級なフレンチや懐石料理を食べるのとはまた違った楽しみがあると感じますよね。それは「このパスタはどうやってつくったの?」とか「サラダのドレッシングは何?」といったことをお互いに教え合う「知恵の交換」が起こるからです。これと同じことがパブリックな領域でも起こるのではないかと仮説を立てました。

〈ヨコハマアパートメント〉画像提供:オンデザイン

西田:「ヨコハマアパートメント」は、1階は大きな共有空間で、2階に上がると自分の部屋があります。10年ほど前の建築ですが、当時賃貸マンションを建てる際に、一番気にするのは【駅からの距離】と【家賃】だと聞きました。ここは駅から徒歩15分と遠いので、一般的な賃貸マンションでは魅力的だと判断してもらえないと思いました。

西澤:施主の方が土地を所有していたのでしょうか。

西田:そうです。文化的な思考をお持ちの方で、「場所で勝負しても無駄なので、せっかくならおもしろい使い方をしたい」とのことでした。最初はアトリエ付きの家を考えていました。「ヨコハマアパートメント」の面積は全体で150㎡で、2階は20㎡の部屋を4つつくっています。各部屋から階段で降りられるよう「田の字型」を採用し、階段をぐるりと回って降りると1階があります。この1階を「広場」と呼んでいます。木造建物で一階には三角形の構造体があり、その上に梁をかけて2階を載せるつくりになっています。


\ 引き続き、西田さんのパブリックライフの思考法に迫ります /
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