外で身動きが取れなくなり助けを求めたらトラブルになった話

ある日友人と歩いていると、側溝にブルドッグが挟まっていた。

首輪とリードをしていることから飼い主の元から脱走し落ちたのだと推測された。
すっぽりと挟まっている為、引っ張ればどこか痛めてしまうかもしれないと思い、近くにうちの猫もお世話になっている動物病院があるので友人に向かってもらい応援を頼む事にした。

しかし、よく見れば足場があれば自力で出られそうであった。私は犬が逃げぬようリードを持ち溝に入り、自らで足場を作ると、犬は自力で這い上がり無事に溝から抜けた。

しかし、犬と引き換えに私が溝にはまるという等価交換が発生した。
抜け出そうともがくと、犬が感謝の意を表し肩に手をつき私の顔を舐めまわした。
なんと義理堅い犬だろうか。しかし、その忠誠心が今や私をより側溝に押し込んでいる。

とりあえず待っていれば、頼れる大人か何かが近くを通りかかるだろう。
すると、横道から酒を片手に赤ら顔のじじいが「シェシェシェ」と笑いながら現れた。
頼れる大人か何かの「何か」の方が来てしまった。

じじいは助けるでもなく、少し距離を置き我々を見つめながら酒を啜った。
犬に舐め回されながらじじいと見つめ合っていると、動物病院の先生と友人が到着した。
瞬間、先生の表情が固まった。
確かに溝に犬が挟まっていると言われた筈であるのに犬ではなく人が溝に挟まっている。
しかも、オプションで謎のジジイまで添えられている。
先生は若干声を震わせながら
「今度はなにをやってるんですか……」
と、何かに耐えながらこちらに向かい言葉を絞り出した。何をしていると問われても
「犬に溝に詰められています」
としか言いようがない。しかし、その事実が先生を徐々に追い詰めていった。

友人に犬を動物病院へ連れていってもらい、私は先生に両腕を支えられて引っ張られた。
溝から脱出できると安心した矢先、自分のズボンが下がりつつある事に気がついた。
しかし、この緊急事態である。この際パンツが多少出ることは致し方ない。
しかし、私はある重大な事に気がついた。
今日に限って、臀部側に達筆で「日本一」と大きく書かれている訳の分からぬパンツを履いている。
普通のパンツならば良い。だが、日本一パンツ、お前だけはダメだ。
私は本日二回目の危機を迎えた。

しかし、人の人体感覚は得手してズレが生じるものである。もしかすれば思ったよりは「日本一」の文字は露出していないかもしれない。一条の希望がみえたところ、背後で先程のじじいが
「にっぽんいちー」
と、何かを読み上げるように呟いた。
どうやら、やはりアウトなようである。

私の臀部で「日本一」が日の目を浴びている。
せめて助けに来てくれた先生にだけは気不味い思いをさせたくない。私は正直に多少パンツが出ているが問題ないので気にしないでほしいと伝える事にしたが
「尻に日本一がいますが、問題ありません」
と、問題しかない発言となった。
尻に何か達人でも住み着いているのだろうか。

先生は訳が分からぬという顔をした後、とりあえずパンツが出ている事に気が付き、私の背後に回り隠してくれた。
しかし、それは同時に先生の網膜に日本一パンツが直撃する事を意味し、先生は先程の私の言葉の全てを理解した。先生はついに私を引き上げる力を失った。
その後看護師も駆けつけたが、看護師も日本一を前に撃沈した。

この日の唯一の救いは犬の飼い主がすぐ見つかった事である。

【追記】
庭にリードで繋ぎ日向ぼっこをさせている間に、解けて犬は一人で散歩を楽しんでいたらしい。
首輪を確認したところ迷子札が、出てきたのですぐに飼い主と連絡が取れた。

その後も先生と看護師達は暖かく迎えいれてくれているが、私の顔を見るたびに「日本一」という言葉が浮かんでいることだろう。

そしてこの件で迷子札の重要さを知り、うちの猫達にも首輪を付けた。
二匹揃って急激にやる気を失い、こちらに背を向け全力で床にふて寝し動かなくなったので断念した。

今マイクロチップを検討している。


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