家に警官が来て危なかった話
父の誕生日に父の顔がプリントされたTシャツを贈ろうと制作会社に画像を送り依頼したところ、添付画像を誤り近所のオヤジの顔がプリントされたTシャツが届いた。
父に贈る訳にもいかず、かといって近所のオヤジに「あなたの顔のTシャツです」などと何の前触れもなく押し付ける訳にもいかず、Tシャツはその行き場を無くした。
その後、長雨により洗濯物を溜め込みすぎ、近所のオヤジTシャツはあれど長袖の服が無いという危機を迎えた。
半袖で震えながら部屋中を探し回ったところ昔父が買ったサンタの衣装が出てきたので、それで凌ぐ事にした。
しかし部屋は寒く、激しく動き回る事で暖をとっていると友人から美味しい唐揚げを作ったのでお裾分けすると電話が入った。
私は舞い上がり唐揚げの到着を玄関で待機し、インターホンが鳴ると共に扉を開けた。
しかし、そこには友人の姿はなく警官が立っていた。
警官もまさか民家から妙に汗で湿ったサンタが出てくるとは思わなかった事だろう。
私も玄関を開けたら警官が立っているなどとは思わなかった。
互いが互いの存在の認識に少々時間を要した。
しかも私は扉を開ける際に、完全に友人だと思い込んでいた為に友人のあだ名の
「オポポーイ」
と、割と大声で発していた。
どこの言語なのだろうか。
オポポイという4文字のイントネーションのみで会話を成立させてきそうな雰囲気を漂わせてしまった。
警察官の巡回が我が家で終わりを遂げかねぬ事態である。
せめてサンタの上着だけでも脱げばズボンが派手な一般人として受け入れられるのではないかと思い、私は警官を刺激せぬよう見つめあったまま上着を脱いだ。
しかし、サンタの薄皮を剥いだ事により、例の近所のオヤジの顔のパーツのみがプリントされている不気味なTシャツが全貌を露わにした。
この頃にはすっかり部屋着として馴染んでいた為に着ていたことを失念していた。
まだサンタの方がマシであった。
私は何か言わねばと思い言葉を探したが
「これ近所のオヤジの顔なんですよ」
と何故かTシャツのオヤジの紹介をする事となった。
警官は気を遣い、声を震わせながらも
「……仲が……よろしいんですね」
とこちらに歩み寄ってくれたが、反射的に
「このオヤジとは殆ど会話した事はない」と、正直に答えてしまい再び沈黙が訪れた。
何故特に面識もない近所のオヤジを前面に主張しているのだろうか。
警官は
「そうですか……」
と、小さく返事をした。
しばらく警官が何かを飲み込む為の時間が流れた。
気を取り直した警官は「最近、不審な人が目撃されているのですが……」と、言葉を続けたが、今まさに目前に近所のオヤジの顔を纏った不審な者が佇んでいる。
不審者情報を不審者に告げるという奇妙な絵面となった。
帰り際
「気をつけてくださいね」
と、警官は声を振るわせながら言い残した。
「不審者に気をつけてください」
という意なのか
「その格好でひとたび外を歩けば即座に職質対象となるので気をつけてください」
の意であったのか、判断に悩む言葉であった。
【追記】
オポポイはその間、外で一連の流れを見ていた。
警官は何とか自我を保ち我が家から去ろうとしたが、我が家を去ろうと方向転換した先に謎の外国人が大量の唐揚げを持って待機している様を目にした。
その日、私は警官が奇声を発するのを初めて見た。
オヤジの顔を纏う者、大量の唐揚げを持ってうろつく者と、碌な者がいないと思った事だろう。
因みにオポポイは風貌こそは中東の風を感じさせるが、日本生まれであり外国語は一切話せない。
あだ名の由来は
「Apple」を「opopol」と書いた事による。