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アリピプラゾールの使い方

 気が向いたときの更新ですいませんが、精神科の薬の使い方シリーズを書いております。今回は抗精神病薬のアリピプラゾールを取り上げてみたいと思います。抗精神病薬(メジャートランキライザー)はあらゆる精神疾患の治療に使われる可能性がある最重要な薬剤群ですが、これを理解するには、

リスペリドン

オランザピン

そして今回のアリピプラゾールをしっかりと理解しておけば、他はこれらの応用でまるっとザックリ理解できますから、とてもとてもとても大事な3部作になるでしょう。

 なお、このシリーズはあくまで薬剤師向けに書いております。一応、精神科の薬のことをもっと勉強してみたいその他精神科領域の医療職や、私が精神科医の先生方に処方提案させてもらう時の考え方や根拠も述べている点では、一般の医師や若手精神科医の先生方にも学ぶところがあるよう意識して書いています。ただし、一般の方や当事者向けではないし、今更薬剤師から学ぶことが無いような先生向けではないことにご注意下さい。

 さて、アリピプラゾールについては、まずインタビューフォームを参照すると、1987 年に大塚製薬によってキノリノンを骨格とする種々の誘導体のひとつとして合成された、新しいタイプの抗精神病薬ということです。
 何が新しいかと言えば、アリピプラゾールは既存の抗精神病薬とは異なり、ドパミンD2 受容体に対するパーシャルアゴニスト作用を有することです。これは、ドパミン作動性神経伝達が過剰活動状態の場合には、ドパミンD2 受容体のアンタゴニストとして作用し、ドパミン作動性神経伝達が低下している場合には、ドパミンD2 受容体のアゴニストとして作用するということです。
 つまり、過活動の部分を抑え、不足の部分を補う……このような薬理学的特性を有するため、アリピプラゾールはドパミン・システム・スタビライザー(Dopamine System Stabilizer: DSS)とも呼ばれています。 さらに、アリピプラゾールはセロトニン5-HT1A受容体パーシャルアゴニスト作用および5-HT2A受容体アンタゴニスト作用を併せ持っており、これらの薬理学的な性質から、アリピプラゾールは、統合失調症に対する有効性を示し、錐体外路系の副作用が少ない、プロラクチン値が上昇しない等の特性を持つものと考えられています。
 一方でアリピプラゾールは、躁病エピソードまたは混合性エピソードを呈した双極I型障害患者を対象とした国内外のランダム化比較試験(RCT)にて有効性が確認されたことから、 2012 年 1 月に「双極性障害における躁症状の改善」の効能・効果が追加されました。その後、大うつ病性障害患者を対象とした国内臨床試験において、選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)またはセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害剤(SNRI)併用下での有効性が確認されたことから、 2013 年 6 月 に「うつ病・うつ状態(既存治療で十分な効果が認められない場合に限る)」の効能・効果が、さらに、自閉性障害の小児患者を対象とした国内臨床試験において有効性が確認されたことから 2016 年 9 月に「小児期の自閉スペクトラム症に伴う易刺激性」の効能・効果が追加されました。
 そのあいだに剤形や規格がどんどん増えまして、確か私の記憶が正しければ、当初は3mg錠と6mg錠、散剤のみのラインナップだったはずが、普通錠は12mg錠や1mg錠が登場し、内用液(分包品)が登場し、ザイディスタイプのOD錠(こちらでは24mgという規格まで登場!)が登場し、さらには持効性注射剤(Long-Acting Injectable: LAI)まで登場……さらには後発品も出てくると一包化可能なOD錠がラインナップされるなど、投与方法については様々なニーズに対応できるようになっています。

ドパミン・システム・スタビライザーの概念

 以前に『リスペリドンの使い方』の記事でこちらの図を示して、セロトニン・ドパミン・アンタゴニスト(SDA)についての概念を説明しました。縦軸が受容体占拠率や遮断率(%)を表し、横軸が投与量になります。

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