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【掌編】バイバイ、モンステラ。

イスタンブールから上海に引越ししてすぐにモンステラをタオバオで買った。

これまでずっと家族と海外の何カ国かで暮らして来たけれど、2回目の上海は自分史上初の単身赴任だった。

たぶん一緒に住む仲間が欲しかったのだろう。

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2回目の上海での生活はつまらないものになるだろうと思っていた。これまで私が家族と暮らして来た街はそれぞれにかなり刺激的な街だった。

それらの街に比べると私にとって上海はほとんど日本と変わらなかった。おまけに私は中国語を話せた。

敢えて言えば、コロナ禍での異動であったので、異動の難易度は高かった。

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ある日突然ロックダウンが発令され、2ヶ月間完全に部屋に閉じ込められ、様相が一気に変わった。

ロックダウン中の詳細は他の人が苦労話をたくさんあげていると思うので省くが、どこかで興奮してヒリヒリ感を楽しんでいる自分がいたのは間違いない。

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そんなロックダウンの荒波で、一緒にサーフィンしていたのが、モンステラだ。

私は葉をピカピカに磨き上げ、米の研ぎ汁を与え、想像していたのとはまったく違う方法で新しい葉が生まれて来る様を観察した。

「おまえクールだな」

観賞用に買った訳ではないので、見栄えを整える事などせず、育ち放題に育った。

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他国への異動が決まった時に、真っ先に思ったのは、「あいつ持っていけないな」だった。

お見合い写真を送るように、モンステラの写真を現地の友達に送った。
「イケメンでしょ」と。

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中国人の友達(旦那はフランス人)が「イケメン!」と言って引き取ってくれることになった。

引き渡しの夜、まず私の家の近所のお好み焼き屋でお好み焼きを食べて飲んだ。
お好み焼きが好きな中国人とフランス人の夫婦(笑)

ワイルドに広がりすぎていて、玄関から出すのに一苦労したが、なんとか二人が持ってきたベビーカーに鎮座した。

マンションの入り口まで送り、手を振った。

気持ちのいい川沿いの道を、20分ほどベビーカーで運ばれるモンステラよ。

バイバイ、モンステラ。
中国語とフランス語覚えろよ。

(完)

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