888___nagi

只々文字が好きです。 ひとつの文字も、 繋がり出来上がる文章も。 主に散文詩をここに…

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只々文字が好きです。 ひとつの文字も、 繋がり出来上がる文章も。 主に散文詩をここに投稿します。

最近の記事

『あとの祭り』3

ーオワリマシタヨ、オオミヤサン、オワリマシタヨー耳の奥で、かすかに女の人の声が聞こえる。耳障りが良い。私は閉じていた目を開け周りを確認する。どうやら眠ってしまったようだ。 「ごめんなさい、寝てしまって。」 「いいんですよぉ。寝落ちされる方たくさんいらっしゃいますよぉ。」 体からは甘い香りが漂っていた。初めてかいだ香り。肌に触れるともっちりとしてその変化に驚いた。たった90分なのに。 「この体に塗ったクリーム?オイル?欲しいんですけど販売していますか?」 「香りも質も良いですよ

    • 『あとの祭り』2

       白い履き潰したコンバースを急いで履き、外に出る。初めて有給を使う嬉しさと同僚への申し訳無さ、穏やかな時間を過ごした自分に驚き、両親への憎しみが心の底にコールタールの様にこびりついていた。色んな感情が頭の中を右往左往し、鍵を持つ手が震える。両手で鍵を締めただろうか。自転車に乗った今、もう覚えていない。  今日は風の無い青空だ。緩やかな下り坂を降りてゆく。父の死因は何だったのだろうか。母は言っていなかった。葬儀や告別式はいつなのか。日にちも言っていなかった。何か隠しているのか、

      • 『あとの祭り』

        やっとこの日が来た。やっと来たんだ。  この日の為に新調した深くて黒色の喪服。色っぽい艶の真珠のネックレス、そして対のピアス。透明のネイルはシャネルで、今にも破りたくなるような肌が透けて見える黒のストッキングディオール。化粧は眉とマスカラだけだが、この日のためにエステへ行き手に入れた吸い付くような透明感のある肌をさらに引き立てる。下着は真っ赤なボディスーツ。今日の為だけに20万円はかかった。それだけ楽しみに楽しみに指折り数えて待っていた。今日という日を。30年も。  私は

        • 瞼の裏

          眠りにつく前 映像がみえて すぐ消える むかしの思い出 母親の手のひらのあたたかさ 笑った目元に 優しい口元 瞼の裏には 愛しい記憶

        『あとの祭り』3

          約束しました

          破るためのものなのか 誓いその事を守るためのものなのか 破りました 私は躊躇も怖さも不安もありませんでした 清々しく新たな一歩 ひとつふたつと… 足跡残して進むのです これを世間では『離婚』というそうです 離れる婚約 ばかばかしくて 日本語はほんとに面白くて 結婚は良いものです きっと たぶん そうなのでしょう でも私にはちがっていて 相手を見失った 守るものを守ろうと もっとも善い選択だった その決断に揺るぎはなかったのです 7年前の私の選択は 間違いで

          約束しました

          手紙

          ご無沙汰しています お元気ですか 私はぼちぼち 元気ではありますが 自分の生き方に疑問を抱き 心の底から 笑えない日々が つらつらと続いています そちらは暖かいですか そちらは朝とか夜とかあるのですか そちらは住所はあるのですか そちらはお花は咲きますか そちらは恵みの雨は降りますか こちらは冬真っ只中で とても寒く 今年は雪が多いです なので夜は 街灯が雪に反射して 夜なのに明るいです 不思議でしょう そういえば 雪の積もった景色を 間近で見たことありますか とても

          こどもといると

          あ なんだ そんなことか あ そうか ひとつまた知って あ ちがう これは私が大人を気取ってる あ また あたらしい愛の種類を知って あ ふんわりと あたらしい優しさを知って 家族というひととひとの関係 こうきしんも いかりも しあわせも さみしさも おもいやりも せつないも たくさんたくさん知ってゆく 君達との永くて短い 時間という時のなかで ひらがなにすると 感情というかんじょうが ゆるゆる するする ほどけていく いきてるって あたたかい あ これ

          こどもといると

          叔父に会いたいのにどこにいるのかわからず。姪としては寂しいな。またバカ話したいです。 今日は夏目漱石読んでます〜。久しぶりに読んだから面白い。

          叔父に会いたいのにどこにいるのかわからず。姪としては寂しいな。またバカ話したいです。 今日は夏目漱石読んでます〜。久しぶりに読んだから面白い。

          元旦。外は吹雪。でも出掛けたくて家を出た夕方5時。ゲオの青い看板が見えたから行ってみた。そしたら古本1冊15円だって。買うよね。気になった本を5冊持ってレジへ。100円でお釣りが来た。5冊も買ったのに。うきうきしながらの帰り道転んだ。そして吹雪の中迷子になった。3年住んでるのに。

          元旦。外は吹雪。でも出掛けたくて家を出た夕方5時。ゲオの青い看板が見えたから行ってみた。そしたら古本1冊15円だって。買うよね。気になった本を5冊持ってレジへ。100円でお釣りが来た。5冊も買ったのに。うきうきしながらの帰り道転んだ。そして吹雪の中迷子になった。3年住んでるのに。

          足跡

          息が白い 澄んだ冬のつめたい空気 雪で鳴る自分の足音 立ち止まってみる 電信柱の光の下で 後ろを振り返ると 私の足跡が降り積もった雪についていた もうここまできた 私はどこへ行くのだろう 自分の足で いったいどこまで どんな道を作るのだろう 車のライト 眩しい光 また一歩 また一歩 たまに大きな一歩も足して 少しよろけて斜めに一歩 私の道 行けるところまで 歩けなくなるまで

          肌と肌

          あー とかさ いいね とかさ 柔らかいね とかさ いらない言葉 この時 この瞬間は 言葉の裏側の意味 ねぇ 知っている? ほんとはね 言葉に意味なんて無くて あるのは言葉の裏側にへばりつく 感情だけ ただ感情だけ

          私はわたし

          みんな同じ 何が正しいのか 何が自分なのか 何が人生なのかもわからずに みんな同じでいないといけないと おとなの人たちが言っていたから 同じでいようとした 同じでいるのをがんばって 同じでいることに違和感を感じても そんな自分をみないふり いつだったか そんな日々に疲れ途方に暮れ 空を仰いでみたけど何も変わらずで みんなと同じをやめてみた 雨の日 傘をささずに学校へ行った 大人もクラスの同じでいる事に安心している同級生も 私がおかしいと どうして同じ事をしないのだと 口を

          私はわたし

          おわったこと

          またひとつ またひとつ 終わりに近付き 最後をむかえ またひとつ またひとつ 終わったことを思い出すとき あの時あの感覚は わたしだけの想いであって わたしだけの胸の中で眠る 眠りは深いかもしれないし 午睡かもしれないし すぐ起きてしまうのかもしれない 終わりは始まりだと 若い私に教えてくれたあなたは 体温が高い 優しい心の持ち主でした また終わり そして始まる 終わったこと達を胸に抱え 一歩、また一歩 前を向いて歩く私

          おわったこと

          バスの中

          いろんな年代の人たちと 同じ大きな乗り物にのって 行き先はそれぞれ違うけれど 今この時同じ空間にいる事は 実際起こっていることで 奇跡に近いのかもしれないと思う晴れた真昼 晴れていても今は冬で 空気は私の喉を傷つけようと 必死に体に入り込む バスは私を冬の外の空気から守り その代わり色々な言葉や音や匂いや目線を 私に渡した 窓の外を眺めると ベビーカーを押したお母さんの優しい表情や ひとり乗りのマクドナルドの車や 家族連れに 歳を重ねたご老人 たくさんのお店に銀行に中華

          バスの中