怪獣くんへ
あなたが生まれてから、もう20年ですね。
私はあなたがまだ赤ちゃんだった時からずっと、あなたのことを漫画にしてきました。
だけど、あなたに手紙を書くのは初めてだね。
あなたはお腹の中にいる時からやんちゃな男の子で、事あるごとに私のお腹を蹴飛ばしていたんだよ。
だから私は、あなたを我が家の「怪獣くん」って呼ぶことにして、『今日の怪獣くん』っていうコミックエッセイをネットに上げることにしたの。
あなたの言動には、いつも驚かされてばかりだった。
例えば雨上がりの日、「土の中にいるもぐらさんには、虹の下半分が見えてるのかなあ?」って聞いてきたり。
育児で疲れることもあったけど、あなたは私の日常を何倍も楽しいものにしてくれたんだよ。
おかげで、『今日の怪獣くん』はすぐに書籍化が決まったの。
本を出した直後は「子供を金儲けの道具に使うな」っていう批判もあった。
けど、それは人聞きが悪すぎるよね。
「人聞きを悪くする」っていうのは、人をだます時の常套手段だよね。
汚い言葉でコーティングすれば、言ってることがメチャクチャでも正しく聞こえてしまうの。
私は、虐待をしているわけでも、むやみにプライベートな情報を公開しているわけでもない。
私はただ、子育てを頑張る人たちに共感してもらって、笑ってもらって、時には役立つ情報も発信して…
そうやって自分なりに、社会貢献してきたつもり。
確かにそれでお金も稼いでいたけれど、それは全てあなたのために使っていた。
子供の頃のあなたは、私が描いた漫画を見て大喜びしてくれたよね。
そんなあなたが生まれてきて、もう20年。
ねえ。
ずっと私に描かれる存在でいてよ。
あなたが家中にレゴを撒いた日。
あなたが昆虫ゼリーを食べてしまった日。
あなたが初めてワックスをつけた日。
あなたが自転車で隣県まで旅した日。
あなたが難関大学を受験した日。
私は、あなたの人生を描くことが生きがいなの。
そして私がいれば、あなたは生きてるだけでコンテンツが生み出せるんだよ。
私の漫画は、私の画力とあなたの魅力が組み合わさって初めて完成する。
原作があなたで、作画が私みたいなものでしょう?
だから、あなたの全てを観察させてよ。
親子を超えた関係で、ずっとずっと一緒に生きていこうよ。
ねえ。
私最近、もしあなたが結婚して、あなたと奥さんの面白いやりとりを4コマ漫画にできたら…なんて考えちゃうんだ。
もしあなたが結婚式を挙げたら…
もしあなたが奥さんと喧嘩したら…
もしあなたに子供ができたら…
もしあなたの子供が成人したら…
ふふ。どんどん創作意欲が湧いてくる。
作画担当が原作者に口出しするなよって思うかな。
私はあなたの親でもあるから、ついつい想像しちゃうの。ごめんね。
ねえ。
でもね、原作者のあなたに、どうしても言いたいことがあるの。
「生きてる意味がわからない」
「僕の人生はつまらない」
「僕はネタにされるために生まれてきたんじゃない」
なんて、言わないで。
私はあなたにいつだって生きる意味を与えることができる。
あなたがつまらないと思う出来事だって、面白おかしく描くことができる。
”1つも事件が起きない人生”でも、漫画にしたら”ほのぼの”になるの。
それが実際にたくさんの人を喜ばせているんだよ。
最高の人生だと思うけどな。
「ネタにされるため」なんて、人聞きが悪すぎるよ。
あなたまで私をだまそうとしないでよ。
あなたは、人を笑顔にするために生まれてきたの。
疲れた日本を癒すために生まれてきたの。
怪獣は怪獣でも、平和を守る怪獣なの。
だからさ。
ねえ。
ずっと私の怪獣くんでいてよ。
ねえ。
いつもみたいに私を驚かせてよ。
ねえ。
あの日のことだけは漫画にしないから。
ねえ。
私、あなたのことが描けなくなったら、どう生きていけばいいの?
ねえ。
ねえ。
ねえ。
ねえ。
…………………。
あ。
雨が止んだよ。
あなたにも見えてるのかなあ?
あの虹の、下半分が。
サポートは生命維持に使わせていただきます…