文芸における文庫本の衰退。コミュニティの勃興。

 日本で流通している本には、単行本と文庫本の2種類がある。小説やエッセイなどは大抵、はじめに値段の高い単行本で発売し、売り上げが落ちてくると、値段の安い文庫本を発売さて売り上げを維持する。このビジネスモデルは、定価販売制という、紙の本の値下げができないからこそ成り立つシステムであると言える。なぜなら、単行本を値下げできるとしたら、わざわざ値段の安い文庫本を発売する必要が弱くなってしまうからだ。

 しかし、最近、Amazonをはじめとしたネット通販が登場してきた。それらはポイント還元という仕組みで実質的に本を値下げすることができる。加えて、電子書籍は定価販売制度の対象外だ。つまり、いくらでも本の値段を下げることができる。

・本は紙である。
・本は値下げができない。

 これら二つの要素によって、文庫本のビジネスモデルは維持されてきていだと言えるだろう。しかし、昨今の急速な出版流通の変化に酔よって、そのビジネスモデルは崩壊しかけている。その先の世界に何が待っているのだろうか。

1. 文庫が強い出版社=文芸が強い出版社という構造の崩壊。
 今まで文芸が強い出版社は、文庫の強い出版社だった。新潮社、文藝春秋、角川。なぜなら、作家の作品が書店に並び続けるためには、作品が文庫化するしかない。そして、影響力が強くラインナップの多い文庫の方が書店に残りやすいだけでなく、読者が作品を見つけてくれやすい。しかし、電子書籍が普及した今、その現状は変わりつつある。
 もちろん、電子書籍が登場した今でも、文芸の主要市場は紙にある。そのため、依然として文庫の強い出版社が文芸に有利であることは事実であろう。しかし、近い将来、というより文芸が完全にデジタルへシフトした時、文芸においては文庫とは別の要素が出版社のパワーバランスを左右するのではないだろうか。
 僕はこれが「コミュニティ」ではないかと考えている。漫画や映像が人々の可処分時間を奪っている現在、文芸はどうしてもニッチなコンテンツにならざるを得ない。しかし、そのような世界の中で必要となるのは、作品や作家のコアなファンを囲い込むコミュニティだ。ファンクラブやオンラインサロンなど、コミュニティの形には様々あるが、これからの時代、出版社における文芸部門のパワーバランスを大きく変えるのは「コミュニティ」の有無と強さであると僕は思う。

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