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もふもふ2024

思い返そうとしなくても、2023年は大変な年でした。それでもどうにか去年と同じように13枚の写真を用意できました。
今回も、動物たちを見ながら2024年の予定でも確認してくれたら嬉しいです。
もっと言えば、今日一度と言わず、ふと思い出した時にこのページを見返してくれたら嬉しいです。


表紙
7月頃の写真。
兄弟で体格差が大きかったので、おそらく母親が別の個体だが、同一家系なので同じ巣穴を使っていたのだと推測している。実際に、子ぎつねの姉にあたる個体が、子育てをサポートするという場面は、何度も観察してきたが、このパターンを観察できたのは初めてであった。
この頃の子ぎつねを一言で表すなら「無敵」。
好奇心こそが全てで、怖いものなんて何もないし、興味のあるものは全部かじってみる。
そして、母ぎつねに甘えるのは、他の兄弟との戦いだと言うことが分かり始める頃に、北海道は短い夏を迎える。


キタキツネ

1月
あくびするのは、眠いからだけだと思っていたが、ストレスを感じると、ヒトもキタキツネもあくびが増えるらしい。
ただ、私の見立てが正しければ、彼は確実に眠かったと思う。
日が登り切ったくらいの時刻、彼らにとっては行動を終えた時間であろうか。
ドライブ中に、雪原で眠っていたのを見つけたので、静かに車を降り、カメラを構えた。
彼は、カメラを用意する私を一瞥し、あくびをした後、何事もなかったようにくるっと丸まって眠りについた。


エゾフクロウ

2月
乾いた雪を踏む音が好きなので、この時期は雪の上を歩くのがとても楽しい。
双眼鏡を首にかけて、湖畔の森を散策していたら、エゾフクロウの番がいた。
日が登って1時間後くらいだったので、夜行性の彼等にはすごく眠い時間だったかもしれない。
時折、寝ぼけたように相方の頭に顔を突っ込んだりするのが、妙に人間のように感じてしまって、見入ってしまった。
近くに住む人に聞くと、この樹洞を使うようになったのは、この冬からだったとのこと。


エゾモモンガ

3月
寒さにも身体が慣れてきた頃に、暦の上では春を迎える。
まだ寒いから冬だろうと思っているのは人間だけで、野生動物たちは足早に過ぎようとする短い北海道の春を謳歌していた。
エゾモモンガは、普段は夜行性だが、発情期には日中でも飛び回るようになることがある。
交尾を終えた1組のペアがエゾヤマザクラの木の上で休んでいた。
発情は春の風物詩だが、この桜が咲くのは1ヶ月以上も先のことである。


エゾリス

4月
立ち上がったエゾリスの口元には丸めたエゾマツの樹皮。
これから生まれてくる子リスたちのためのベッドを作るための巣材にするために、走り回って運んでいた。
雪が溶け始めて、少しずつ暖かくなると、夏毛に変わり始めるため、耳の先の毛が薄くなり始めてくる。
巣材には、乾燥した苔や地衣類、枯れ草、細い枝を用いることもある。
小さな木の裂け目から小枝が飛び出していたら、それはエゾリスの巣穴であることが多い。


ヤチネズミ

5月
夏の気配を感じる新緑の季節に、キタキツネの巣穴を観察していると、
キタキツネの巣穴から数mの場所にある倒木から、ヤチネズミが顔を出した。
倒木の幹と枝の間に空いた隙間があり、そこが出入り口になっているようで、
数回の観察で、この倒木の中に住んでいることがわかった。
摘んで来たのであろう草が山積していたが、これが食料なのか巣材なのかはわからなかった。
もうすぐ近くの子ぎつねが「無敵」になる季節がやってくる。
食物連鎖の土台を支えるヤチネズミにとっては、厳しい季節だ。


キタキツネ

6月
ハマナスの咲く草原に生まれたキタキツネの兄弟たち。
彼らの母は「十字ギツネ」と呼ばれる、黒い模様を持ったキツネである。
イヌの仲間であるキタキツネは、赤毛以外のものが生まれることがある。
十字ギツネ、銀狐などと言われる物も、毛色パターンであり、別種や突然変異とは呼ばない。
イメージとしては、ミニチュアシュナウザーにブラック&シルバーやホワイト、ソルト&ペッパーなどがいるのと同じである。
彼らの兄弟には、赤毛の子もいたが、毛の色を気にするのは、人間だけのようで、
彼らは特に気にしていないようであった。


エゾヒグマ

7月
真夏の北海道は、夏を濃縮させたように、至る所で一斉に花が咲き乱れる。
今年は、異常なほど暑かった北海道では、天候が安定せず、ゲリラ豪雨や竜巻など、
暑さに起因する気象現象が多く見られた。
通り雨の去った後、フランスギクとメマツヨイグサの中を歩く濡れたヒグマ。
北海道は、ヒトも動物も暑さに弱い。
このエゾヒグマは、終始穏やかな表情で歩いており、通り雨に濡れ、束の間の涼しさを喜んでいるようであった。


キタキツネ

8月
優しい表情でコミュニケーションをとるキタキツネの親子。
少し標高の高い場所で生まれた彼らは、この時期まで親子で過ごしていた。
毛繕いをされる子ギツネの表情が心地よさそうなのはもちろんだが、
母ギツネの表情も穏やかなのが印象に残った。
言葉は交わしていないが、これが親子の会話なのだと感じた。


シマエナガ

9月
落葉が始まった三国峠で撮ったシマエナガ。
シマエナガは、公園や河原を散歩すると飛んでいるような身近な鳥だが、標高が1300mもある峠の頂上にもいるのだと知り、少し驚いた。
この時期は、他のカラ類と混群を作っていることが多く、この時もシジュウカラやコガラと行動を共にしていた。
ちなみに、シジュウカラやゴジュウカラは、草食性の傾向が強く、新芽や木の果実を好むのに対し、シマエナガは肉食性が強い。この日も木の上を歩く芋虫をひっぱって食べていた。


オジロワシ

10月
ワシ類の多くは、冬になると北海道に渡ってくる渡り鳥だ。
この豆粒のように写るオジロワシの写真は、海から50kmほど離れた山奥で撮った。
冬場は、漁師が氷の上に廃棄した魚を拾うため、海沿いでよく観られることから、オジロワシとオオワシを纏めて「海鷲」とも呼ばれることがある。
しかし、この時期はサケやマスが川を遡上してくるため、このような山奥の川辺で、浅瀬を眺めていることがしばしば見られる。
山の木々が光合成で生み出した栄養が落ち葉となり、川を流れ、海に降りる。
豊かになった海で育ったサケやマスが、また山で栄養になる。
理想的な針広混交林のもたらす豊かさを感じた。


エゾリス

11月
秋はこの頃になると、山間から十勝平野に降りて来る。
エゾリスは、イチョウの葉の絨毯の上を駆け周り、長い冬に備えて、貯食をする。
イチョウは、街路樹としても使われる身近な樹木であるが、恐竜の出現前から生き残っている最古の現生樹の1つでもある。
他の樹木にはない奇怪な生態を持つことで知られ、「植物なのに花粉から運動性を備えた精子が作り出される」、「裸子植物だが、実に果肉のような部位がある(実際には肥大した外皮らしい)」、「広い葉を持つけど針葉樹」など、理解に悩む性質を持っている。
ちなみに、イチョウは、1綱1目1科1属1種で近縁と呼べるような種はいない。
言い換えれば、近縁種は全て絶滅済みであることを示す。
そして、イチョウ自体も、実は絶滅危惧種なのである。


エゾリス

12月
硬い殻を持つオニグルミの実を、真っ二つに割ることができる北海道で唯一の動物が、
エゾリスである。
くるみ割り人形が割れる西洋のクルミと違い、北海道のオニグルミは本当に硬い。
人が思いっきり踏みつけるような力では、ほとんど割れることはない。
強靭な前歯を器用に使い、縫合線を切るように、オニグルミを容易く真っ二つにする光景は、いつ見ても爽快である。
アカネズミなども、貯食して食べることが知られているが、殻の側面に小さな穴を開けて少しだけ食べるだけなので、非常に効率が悪いのだ。
ちなみに、カラスはこれを食べるために、車道にクルミを投げて、車に轢かせて割る。
たまに、要領の悪いカラスがいると、車のフロントガラスを割られてしまうことがあるので、注意が必要だ。


あとがき
毎年これを書いていると、読んでもらえる分量で北海道の動植物の魅力を語るのは不可能だと感じる。
時々、人を連れて森に入ると、ついつい喋り過ぎてしまって、言葉の森に人を置き去りにしてしまうことがある。
自然に身を置いて、植物や動物、菌類、水、土、気象、地形、様々なものに囲まれて過ごすのは、情報量の豊かさとインプットの速度の穏やかさのバランスが整っていて、実に心地よい。
現代は、情報が激流のように流れているように感じる。どこにいても情報が手に入ることは、素晴らしいことなのだが、誰もがその激流を心地よく走れるわけではない。
一方で、自然の中にある情報は、大きな水溜りのようなものだと思う。
そこに行けばし、流れのない雑多とした情報から、工夫を経て、知識を拾い集めることができる。
水溜まりのような情報を、知識として拾い集め、一頻り楽しんだ後に、「この楽しさがどうにか人に伝わりますように」と祈るように紡いでゆく作業が、この文章を書くことであり、写真を撮ることなのだと思っている。


動物好きの走り屋
須賀 研介 

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