『ウインナ売り』稽古日誌②

食む派『ウインナ売り』、稽古の日々です。
ウンウン唸りながら進めています。

最終的に俳優がテキストに負けない、飲まれないようにすることを目指したい。
どんなに稽古で演出をつけたとしても、本番で俳優が自由に自在にテキストや演出と手を繋げるようにしたい。
そしてそれのために、演出としてどういう道の拓き方をしていったらいいかな、というのをすごく考える。
なるべく、というか、なるたけというか、できるだけ、言葉を尽くさないといけないが、たくさん伝えればいいわけでもなくて、でも大事なことはグッと伝えなければいけず、そしてそれが端的にできたら、と思うんだけど、そもそも伝えることが下手(というか、伝える手数の多くなってしまうタイプ)の私には、難しくて毎日が試練の連続です。でも試練の連続で喜ばしいことではあるんですけどね。イージーな仕事よりも。

豊かな現場というのはなんだろうと思う。
さまざまなアイディアが飛び交い、忖度なく、しかし相手の気持ちを慮りながら、リスペクトを持ちながら、ぶつかりあう場なんだろうか。
上記に並べた言葉は本当にその通りだと思いながらも、文章で書くのは簡潔で簡単でも、実際流動的な環境や人の気持ちはそうもストレートに行くものでもなくて。当たり前の話なんだけども。

創作が進んで余裕がなくなってくると煮詰まってきて、言葉を選ぶレンジがめちゃくちゃ狭くなるな、ということを実感して(いつも思うんだけど)、演劇に関わらず全ての現場において、ハラスメントが起こるのってこういう瞬間なんだなと思って、本当に気をつけようと改めて思う。
私は演劇の現場においてセクシャルもパワーも(セクシャルはそんなになくて、パワーはめっっちゃくちゃにある)ハラスメントの当事者になってきたけれども、
それらに怒りと悲しみが湧くのと同時に、どうしてそうなってしまうのかの加害者の気持ちにすごく共感するというか(共感する=だからしてしまうのもしょうがない、ではないです)、私自身心が弱いし短気だから、ハラスメント加害者が怒りを發するメカニズムが、とってもよくわかる。
「あの人だったらこの時こう言うんだろうな」という想像もする。
だけど、私はしない。しないと断言するというか、しない、と断言できるよう努める。がんばって努める。完璧じゃないから全然してしまうかもしれないし、すでにしているかもしれない。そして確実にしたこともあった。恐れながら、でも努める。なるたけ努める。最大限努める。
というか、「どうしたら伝わるのか」を考え抜くのが演出の仕事だと思っているから、例えば俳優の演技がシーン中に通らなかったときに、精神論や根性論に最初に行き着くのは本当に短絡的だ、と感じる。というか、あまりにも簡単なのだ。それは。
この前の稽古日誌にも書いたけど、言葉を尽くして、それで伝わらなかったらまた別の言葉で伝えて、そうして俳優が応えてくれた時の嬉しさたるやないのだし、それこそ演出という仕事の素晴らしく難しくて素晴らしく楽しいところだと思う。
それを感じる前に、まず俳優だけのせいにするなんてナンセンスだ。(精神論、根性論が当てはまることも多少なりとももちろんあると思う。色んな文脈や、関係性などがあると思うので、ぜんぶぜんぶナンセンス、とは言えない。)

もちろん、俳優にも心構えは必要だけども、(究極的にはプロもアマチュアも真剣でも舐めてても誰だって俳優の仕事はしていいのだが、それでもどんな土台でやるのでも心構えみたいなものは必要だ、自戒を込めて。でもそれとは別に、俳優はちゃんとワガママであってほしいとも思う。このワガママは色々な意味を含んでいる。ただのワガママとは違う。それはまた今度書きたい。)私はそれへの応答として、なるべく演出で応えるようにしたい。本当は、こうしてほしい、ということがあったらそのままきちんと、直接伝えられたらいいんだけど、私に巣食うハラスメントの種に食われる予感がするうちは、(するうちは、というかこれからもずっと)探り探りやっていくしかない。具合を見ながらその種に食べられない強さと知恵を身につけていくしかない。

今日はラストシーンまで動きを流して確認して、
終盤、最初にやってもらったときは意図が恐らく異なる風に伝わるであろう、ふんわりとした雰囲気になっていて、どうしていったらいいかと悩んだけれども、またまたウンウンしながら、こうしたい、を伝えたあとにもう一度やってもらったら、劇的に素晴らしいシーンになって、やっぱりそこで改めて、色んな方向から言葉を尽くさなくてはいけないと再度実感した。うっかり忘れそうになるけど、こういうことを何度も思い返したい。それを体現してくれる俳優たちに感謝しながら。ちょっとここでさっと出す感謝って胡散臭いですけど、でもやっぱり感謝。

今回、自分にとって、脚本や演出の難易度の高い作品になっているなと思う。
俳優がテキストや演出に負けないのと同じくらい、私も俳優に負けないようにしたい。そうして真剣に見つめ合って手を取り合って、最後の最後に手を放した先に、吹いてくる風の余韻を舞台に載せられたらと思っている。

稽古2日目くらいの帰り道、
今回の『ウインナ売り』に出てくれる佐藤昼寝くんが、
「全幅の信頼を置いています」と言ってくれた。彼とは今回が初めての仕事なのに!笑 前作『パへ』の映像を観てくれて、そう発言してくれたようなんだけども、それを日々何度も思い出す。
昼寝くんが「そんなこと言ったっけ?」と思ってもこれから何度もきっと思い出すと思う。
その気持ちに感謝と畏怖と敬意を持って、私も最後まで応えたいと思います。

『ウインナ売り』、本番まであとちょうど1ヶ月です。
どうか、観にきていただけたら嬉しい限りです。


予約▶︎https://www.quartet-online.net/ticket/hamu_wiener

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