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それを人はrebornと呼ぶのかも知れないが私は違う【短編小説】

「もう、やめにしない?」

そう言うと彼女の眉が、ぴくっと上がった。

終わりなのは彼女も分かっているはずだ。
こんな事をだらだらと続けていても
意味が無い。

「もうさ、いくら考えても無理なんだよ。そもそも答えなんか無いんだから」

少し突き放した口調で言うと、目の前の彼女は少しうなだれたように見えた。

ここでつい負けてしまうんだ。
今までも、何回も何回も。
辛そうな顔は見たくない。
そうやってずるずると今まで来てしまった。
けど、いい加減、ケリを付けたい。

なるべく彼女を見ないようにして、更に続けた。

「ね。答えなんか無いんだよ。これが良かったのか悪かったのかなんて、結局、後からでないと分からないんだよ」

もう、この口は止まらない。
「あぁ、そうだよね。後からでも、結局分かんなかったって事もあるよね。ずっとずっと分からなくて、苦い記憶だなぁって、若かったよなぁとか未熟だったよなぁとかさ。でも、いつかは誰かに苦笑いしながら話せてると思うんだ」

彼女の視線はずっと宙に向いたままだ。

「1+1もさ、数字上は2だけど、人に置き換えれば必ず2って訳じゃないだろう。どこまで突き詰めればいいのか曖昧なのさ。だから何が答えかなんて、見方によっては、もう何万通りにあって・・・」

だからと言いかけて、まっすぐ彼女の眼を見た。

彼女も視線を外さず、こちらを見つめている。

「答えって必要なのかな」
どちらとも付かない言葉が、さらに空気を苦しくする。

しばらく沈黙が続いていた。

テレビから、この状況に相応しくない馬鹿馬鹿しい笑い声がする。

「うん。もうやめよう。終わろう、こんな事」

顔を上げると、彼女の無理に作った笑顔を見えた。

きっとお互いに同じ顔をしている。

「そもそも答えを探しに生まれたんじゃない」

そう言い、私は鏡をパタンを閉じた。

目の前から彼女が消え、部屋の白い壁と対峙している。

これでいい。
どれだけ自分に聞いたって、わかりっこ無い。
どうしたら良いかなんて、実際転がってみなきゃ分かんないんだ。
好きとか嫌いとかの問題じゃない。
だからって生きるか死ぬかの問題でもない。

正しいとか正しくないとか
世の中、ある意味自分じゃなく、第三者が振り分けることが多いじゃないか。
見た目にしても、言動にしても。
そんなことに、いちいち足を止めていられる程、私の時間は長く無いんだよ。

私は携帯を握ると、押し慣れた番号を押した。
やっぱり切ってしまおうか、そう思った時に
「はい、都築です」と
ワントーン高い母の声が聞こえた。

なんて切り出そうか、そう思ってると
「もしもし?」と怪訝な声に
「あ、母さん、俺だけど」
つい、声を出してしまった。
「なんだ、光清なの」
黙ってるから、変な電話かと思っちゃったじゃない、とケラケラ笑う。

光清じゃないんだよ、母さん。

倒した鏡を拾って広げると、間違いなく彼女が居る。
悲しそうな、それでいて眼差しは熱い。
ねぇ、帰って来れないのはわかるけど、爺ちゃん、寂しがってるわよ。
母の声で、我に帰る。

「母さん、話があるんだ」


生まれた事を否定されるかも知れないと
思い悩んだあの日から4年。
大好きだった爺ちゃんは今日、空に昇っていった。
「輝子、コーヒーでも飲む?」
母が聞くので、私は頷いた。

「爺ちゃんっ子だったからね、あんた。寂しいのはわかるけど、化粧がヤバいわよ」
鏡見なさいよと、苦笑いしながらファンデーションの鏡を手渡してくれた。

「本当だ、かなり酷い」
苦笑いしながらティッシュで拭く私を、母はじっと見て言った。

「1番反対して、1番怒ってた爺ちゃんだったけど、何だかんだ言って、1番あんたを守ってたね。親戚やら近所連中からさ」
母は辞めたはずのタバコを取り出すと、箱にトントンと叩きながら言った。 

「年取ると不器用さが増すんかねぇ」
死ぬ前に1回でも、あんたとちゃんと、話せばよかったのに、意固地になっちゃってさ…
母はタバコに火をつけ、ふぅっと白く吐いた。

母のタバコの煙の先にある、
真っ青な空に、真っ直ぐ立ち揺らぐ白い煙を、
2人並んで見ていた。


それを人はrebornと呼ぶのかも知れない。
生まれ変わった私として。
でも、私は違う。
初めから、こう生まれていたんだ。

「光清だろうと輝子だろうと変わらないよ。爺ちゃんは、あんたがどんな器に入ってるかなんか気にしちゃなかった」
母は咥えタバコで、ニッと笑いながら言った。
「私はさ、いい父と子どもに恵まれたよ」

私は悲しいのか、嬉しいのか分からない涙で、さらに酷い顔になっているに違いない。
私は空を仰いで呟いた。
爺ちゃん、答えをありがとう。



2作目となる短編小説を書きました( ´ ▽ ` )
読んで頂きありがとうございます。




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