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開店前のバーで、バーテンダー作家と恋について話してきた。(後編)

自主連載「20代の恋を、平成最後の夏に置いていく」の特別編として、エッセイストでバー店主の林伸次さんと対談してきました。

林さんの著書「恋はいつもなにげなく始まってなにげなく終わる。」で繰り広げられるラブストーリーをもとに、恋愛についてのアレコレを語ります。

話し込みすぎて盛りだくさんな対談になったので、前編と後編にわけました。後半では、妄想と現実でゆれる女心について、考察をします。(前編は、こちらからどうぞ。)


妄想で膨らむ恋心は、リアルな恋の邪魔をしかねない。


林伸次(以下、林) 小説の中で「クリスマスの夜に、知らない男性に手を引かれて電車を下車する」って話があるんですけど、あれ、しんみさんはどう思いました?

しんみはるな(以下、しんみ) 恋の予感・・・までいかないにしても、なにか始まりそうだなってワクワクしましたね。

林 あれはほんとの話で、クリスマスの日に電車に乗っていたときに見た光景だったんです。その話をツイッターに書いたら、男性は「こわ〜!そいつやばいよ〜!」って言ってて、女性は「すてき〜!なんか映画みたい!」って反応だったんです。女性でも「こわい!引いた!」って方はいたんですけどね。でも、圧倒的に「すてき!」って感想のが多くて。

んみ うん、わたしも素敵だと思います。けど、身も蓋もないことをいうと、相手へのトキメキ具合で感情が変わるかもしれないですね?

林 あー、なるほど!そのときも、たぶん、男がいい男なかんじだったんですよね。いい男が、ちょっと強引で、女の子もまんざらでもない様子だったんです。タイプだったのかもしれないですね。

んみ あと、タイミングもあるかもです。失恋直後とか、ラブラブな彼氏がいるとかで、変わるかも。でも、エピソードとして見たり聞いたりしてトキメク場合っていうのは、脳内で変換してるんじゃないですか?相手のことを自分の好きな、たとえばジャニーズのタレントとかに置き換えて話を聞いてるから「すてき〜!」ってなってるとか。

林 それ、女性がよくやりがちですよね。シチュエーションに当てはめて妄想するのが好きなんですよね。

んみ そうですね。まあ、相手がジャニーズだったら、芸能人だし、生活にリアルな繋がりがあるわけじゃないし「どうぞ!脳内でおしあわせに!」って思えるんですけど、リアルな相手である彼氏だとか、好きな人を重ね合わせている場合は、ちょっと要注意ですよね。

林 えっと、どういう意味ですか?

んみ リアルな彼なのであれば、妄想と現実を区別して付き合わなくちゃいけない、という意味なんですけど。男の人って、何度も会って、面と向かって話をしてやっと、どんな人かわかると思うんです。

林 そういうものですか?

しんみ わたしの経験則だと、そうですね。ラインだとかそんなのは、なんとでも言えるから。それなのに、ラインの返信がどうだから!とかって悩んだりする子、多いじゃないですか?で、その悩みを元に、いいことも悪いことも妄想する。それで、相手のことがもっと気になってくる。思い込みの沼に、ずぶずぶハマっていくんですよ。でも、そんなに勝手にアレコレ妄想して恋心膨らませてたって、相手にとっては、なにこの女!?っていう対象にしかなれない。

林 いやそのとおりだと思います。そういうの、こわいですよね!!

んみ あの、いま話したことについて、恐ろしい失敗を思い出しました。聞いてもらっていいですか?

林 聞きますよ。

んみ 過去にお付き合いしていた人が、寝るヒマもないくらい忙しい人で。忙しい合間を縫って連絡をくれて、やっと会えるってかんじだったんです。どんなに忙しくても、会いたいって時間を作ってくれて。すごく喜ばしいことだったんですけど、当時のわたしはもっともっと彼に会いたくて。でも会えないから、会えない間、妄想の彼と恋愛をすることになるんです。そうすると、脳内で作り上げられる彼が、ずいぶんスペシャルな人物になってるんですよ。仕事ができて、人間としても欠点がなくて、みたいな。

林 なるほど。それは、ちょっとしんどいですね(笑)

んみ で、久々に彼とデートができる!ってなったときに、わたしはリアルな彼じゃなくて、妄想の彼を彼だと思っちゃってて。だから、彼が落ち込んでいても「◯○くんはすごい人なんだから!なんでもできるって!」とか無駄にポジティブなこと言ったりして。いま思えば、めんどくさい女だな〜って、反省です(笑)

林 それ、めんどくさい女ですね〜(笑)あ、そうだ。あの、勝手にふるえてろって映画があるじゃないですか。綿矢りささんの小説が原作の。あれって、そういう話ですよね。勝手に妄想してて、それを相手に押し付けるんですよね。僕、あの意味がぜんぜん理解できなくて。でも、今の話を聞いてわかりました。ときどき女の子たちが、こっちのイメージを勝手に決めてて、その像を押しつけてくる意味。「林さんってこんな人だからぁ〜。」って言われて「いやいやいや!今日初めて会ったし!」みたいなことって、あったりするので。

んみ 有名な方だと、そういうことは多いでしょうね。ファンの中で作られたイメージがあるから。インフルエンサーだと、芸能人よりは身近だし、イベントに行けば直接話せるし、妄想の対象としては絶妙なポジションかも。まあ、有名人とファンの関係性まではよくわからないんですけど。
恋愛においてはやっぱり、ちゃんと関わった上で「こういう人だ。」って判断しないと、しんどいし、きっとうまくいかなくなる。だから、妄想と現実は区別しないと、って思いますね。


傾向と対策で、恋模様は変わる。


林 お話しを聞いている限り、恋はたくさんされてきたんですね。

んみ わりと惚れっぽくて、恋しやすいほうだと思います。でも、ちゃんと傾向と対策を分析するようになったのは、ここ最近になってからですね。

林 傾向と対策?

んみ はい。ある程度経験を重ねてくると、こういう人には、こういうアプローチがいいなっていうのが、なんとなくわかってくるというか。あと、自分はこういう性格の男に惹かれやすいけど、そのタイプとはうまくいかないからやめたほうがいいよ、とか。恋への傾向と対策ができるようになってきました。

林 それ、めっちゃ大事だと思います。やったほうがいい。

んみ そうですよね。答えがひとつじゃないので、毎回うまくいくわけではないけど。それでも、向こう見ずに突っ走っていた頃よりは、うまくいくようになりました。最近では、成功体験も失敗体験も、ノートに書きとめるようにしています。

林 恋には傾向と対策が必要。どっかに書いてでも復習したほうがいい。ほんとその通りだと思いますよ。


ときどき訪れる、小さな恋の贅沢。

しんみ 「恋は贅沢品」の話、あったじゃないですか?結婚して旦那さんがいながらも、好きな人がいる。でも、恋は贅沢品だから、距離を急いで詰める必要はない。じっくりゆっくり楽しめばいいっていう。だけど、わたし、そういう恋って結局、進まないんじゃないかなって思うんです。

 結婚して普通の生活が始まると、家の中に愛がありながら、外で恋をすることって十分あり得るんですね。みんなするんですよ。そのときに「あっ、こういうことか!」ってわかるかもしれないですよ。

しんみ うーん。あんまりピンときていないけど、そんな日がくるのかなぁ。それで言うと「お茶屋さん」の話の方が、まだ理解できるかもしれないです。デパートの売り場で、1度だけ偶然会って、もう2度と会うことはないだろうっていう。でもきっと、お互い好意的ではあった。一瞬だけの恋だったっていう。

 なるほど。あの、恋って、必ずしも大きくしなきゃってわけじゃないんですよ。ぼんやりした小さな恋が楽しいってのも、あるんですよね。

しんみ うーん。たしかに、ちょっといいかも!って思って、次の日には忘れてるとか、よくあるかもです(笑)

 恋はじまるかも!?って思って終わっていくことって、ときどきありますよね。それはほんとに、小さな恋の贅沢だと思います。


恋心だけじゃ、ずっとは続かない。


んみ 林さんは、ご結婚されてどれくらいなんですか?

林 僕は、妻と付き合って25年。結婚して16年です。結婚いいですよ。おすすめです。朝起きてドキドキする!とか、かわいいー!みたいなのはないですけど。でも、すごく安心するというか、いいですよ。

んみ 安心、いいですね。小説にも、結婚の話がありましたね。「12枚のレコード」を読んで、こんな結婚いいなぁって思いました。長く続いていく結婚生活の中で、月に1度だけ、必ずふたりでレコードを聴くっていう習慣を作っているじゃないですか。ずっと変わらないものを誰かと積み重ねていくことへの憧れがすごくあるので、素敵だなって思いました。林さんも、奥様とふたりで続けてる習慣ってあったりするんですか?

林 ずっとっていうものはないかもしれないですね。そのときどきでブームがくるかんじ。以前は、東京の街を10キロ歩くっていうあそびにハマっていたことがありましたね。毎週日曜日に、今日は浅草、今日は中目黒、今日は池袋って場所を決めてぶらぶらするっていう。けっこう楽しいですよ。あとは、ヨガ。一緒にやってますね。それと、飲食店やってるから、新しいお店ができたらチェックしにいくってのも、やってます。あれ?話してみるとけっこういくつかありますね。

んみ 生活につながるようなものが多くて、すごくいいなと思います。健康になること、食べること、新しいものとの出会い。いいなぁ。

林 ふたりで行動するって、いいですよ。ふたりで知らないところに行って、知らないお店に入って、ちょっとした冒険みたいなプラン。そうすると、一緒に行動してるなぁって感じがすごくあって。好きですね。

んみ 「僕は、妻といっしょに行動するのが好きなんです。」って、noteにも書かれてたじゃないですか。あれ読んで、うわ〜わたしもこういう人と結婚したい!って思いました。

林 あれね〜、女子受けめっちゃいいんです。狙って書いてますよ(笑)

んみ わ!そうなんですか!?え〜、計算だったなんて。ネタばらししてほしくなかった!(笑)

林 いやいや、冗談ですよ(笑)何かをふたりでやるって習慣があると、死ぬまでずっと続くんだろうなぁって気持ちを持てて、いいですよ。恋はなにをしても全部新しいけど、恋心だけじゃ、同じ人と同じことをずっと続けられない。恋の段階では、誕生日もクリスマスも、全部が初めてだけど、結婚したら毎年毎年やってくるものになりますからね。

んみ 飽きないためにアレコレ試行錯誤するのもいいけど、変わらないものをずっと大事にしていくのも、結婚ならではってかんじで、素敵ですね。


きれいな恋って、どんな恋?

んみ 冒頭で、小説の中の恋愛がキレイすぎて落ち込んだってお伝えしたじゃないですか。でもわたし、なんでキレイって思ったんだろう?っていうのがわからなくて。読み終わった後に仮説を立ててみたものの、どの考えもあまりしっくりこなかったんです。だから、林さんにとって、きれいな恋って、どんな恋ですか?っていうのを聞きたいです。

 うーん、難しいですね。小説の中の話でいうと、この中に悪い人ってでてこないんですよ。ほんとの世の中で言ったら、悪い人っていっぱいいるじゃないですか。

んみ 悪い人というと?

林 ただ単に、セックスしたいから女性を口説く男とか。あと、ほんとは既婚者なのに偽っていたりとか。そういう世の中にいる悪い人がでてこないかなぁ〜と。それが、きれいな恋にうつるのかもしれないですね。

しんみ 「開花宣言までの不倫」の話とか、たしかに、不倫なのにきれいでした。

林 その話とかも、ほんとに約束通り1年だけですよね。ふつうはそんなできた話、なかなかないだろうし。現実はずるずる行きますよ。そういう汚い、悪い人がいないかなぁ。冒頭にも話したけど、僕はやっぱり、そういう世界観が好きなんです。

んみ 悪い人がいないってことは、じゃあ、いい人しかいないってことですよね。きれいな恋は、人間性の掛け合わせで成立するってことなのかなぁ。必須条件は、いい人同士であること?

林 明確な答えって難しいけど、それも一理あるかもしれないですね。

んみ だとしたら、わたしがうまくいかなかったって思ってきた恋たちは、わたしにとっては悪い恋ではなかったみたいです。みんないい人って言い切るのは嘘くさいのでやめておきますけど、悪い人はいなかったから。

林 素敵じゃないですか。

しんみ 「恋はいつもなにげなく始まってなにげなく終わる。」手に取って正解だったなぁ。読んでいなかったら、こんなにも過去の恋を振り返ることはなかっただろうし、連載を通じて、気持ちを改めることもできなかったと思うんです。ありがとうございます。

林 こちらこそ、ありがとうございます。読んだ人が、それぞれ色んな感想をくれるのが、ほんとに面白いし、うれしいんですよね。僕は、人と人がコミュニケーションする光景を見たり、聞いたりするのが好きなので。
この本をきっかけに、恋愛する人が増えれば、書いた甲斐があるなぁって思います。

(おわり)

「恋はいつもなにげなく始まってなにげなく終わる。」
きれいで切ない21のラブストーリーが、ギュッと詰まっています。
東京に暮らす大人たちの、機微揺れる恋心、あなたも覗いてみませんか。


(photo by 藤井かな)

さいごまで読んでくれてありがとう!うれしいです!🌷