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「歯医者のお守り」をデザインする

この記事では、僕たち86400"(はちろくよん)がオーダーにてデザインしたものについて、どんな問いに、どう応えたのかを振り返って記しています。

今回は「歯医者のお守り」についてのお話です。




step1. ヒアリング

今回は、歯科医院のオリジナルグッズをつくろう、第二弾です。

クライアントは三重県名張市にクリニック(名張かめい歯科・矯正歯科)を営む歯医者さん。
前回、奈良県橿原市に新設する美容クリニックを記念して、“ご当地グッズ”をつくろうという企画をご提案。歴史的なまちにちなんで、出土する古鏡をモチーフに、真鍮製の手鏡を製作しました。

前回の経緯についてはこちらをご覧ください。

この手鏡をご提案した際、もうひとつ「歯医者のお守り」をつくろうという提案もさせていただいていました。
ということで、今回はヒアリングを省略して、2つ目の企画を形にしていきます。




step2. 企画提案

歯医者のお守り

「痛かったら左手を挙げてください」と言われてもなかなか挙げることが出来ず、手をぎゅっと握りしめて我慢する。多くの方に刻まれている歯医者さんあるあるです。こんな時に、治療の恐怖を紛らわせるような、握っていることで安心できる“お守り”をつくろうという企画です。

もちろん、今回ご依頼いただいた歯医者さんの治療が特別痛いというわけではありません。
本当に痛いかどうかより、歯医者=怖いという、精神的な不安ってどうしようもないんですよね。そんな“ぎゅっと握ってしまう民”に向けてのお守りを作りたいなと考えました。




step3. デザイン提案

a) 形 → 普段、バッグに付けたい

治療中に握るものとして、どんな形がいいのか…
ツルツルした触り心地がいいものか。
はたまたトゲトゲした形でマッサージ的な刺激のあるものか。
神社にあるお守りの形もいいかも。
色々とイメージが膨らみます。

そんな中、「普段、バッグに付けたいなぁ」というクライアントの一言で、キーホルダーとしての役割を持たせようということに。
ならばここは素直に、神社にあるお守りの形をベースにすることにしました。

神社にあるお守りといえば、表面に「御守」や「交通安全」「安産祈願」などの漢字が書かれています。どんな文字がいいだろう…

歯が痛くなりませんように、を漢字にすると「無歯痛」。
無歯痛…むはいたい…無敗退…
ダジャレ的な文字が浮かび上がってきました。
「無歯痛」と「無敗退」。
これをプレゼンするのはなかなか勇気がいるなと思いつつ、楽しいことが好きなクライアントなので、思い切ってデザインに取り込むことにしました。

ということで、

① 治療中に握るお守り(無歯痛)
② 勝ち守りのキーホルダー(無敗退)

この2つを1つの形に落とし込んでいく作業を進めて行きました。

b) 材料 → 強く握ることを面白く!

ぎゅっと握ることがネガティブじゃなくて、ちょっと面白く感じられるものが作れないかな。これが、僕たちの狙いです。
ということで、強く握ることで変形するようなお守りは面白いかなぁと思いました。

例えば、錫(スズ)のような柔らかい金属で作れば、ぎゅっと握った形跡が残ります
金属でものづくりをしている僕たちとしては、錫(スズ)のような柔らかい金属が適しているように思いました。




step4-1. サンプル製作 ①

デザイン案をクライアントからOKをいただき、サンプルを製作しました。
それがこちら。

幅38mm、長さ61mm、厚さ2mmと、握りやすく、またキーホルダーにも適したサイズ感にしました。
図面との違いは各角を少し面取りして握りやすく整えた点。

材料は錫(錫)に少し他の金属をまぜたピューターというものを採用しました。錫そのままだと柔らか過ぎて簡単に変形しずぎること、また文字の刻印などの加工が難しいことから決定しました。

刻印は「無敗退」。
「敗」の文字に歯のイラストを忍ばせています。

サンプルをクライアントに送り、確認してもらったところ、以下のような課題が挙げられました。

① フィット感UP:柔らかさはOK。でももう少し握りやすい感じが欲しい
② 裏面:こちらも何か刻印を入れたい
③ 歯の強調:もう少し「歯」のお守りであることを強調したい

ということで、これらを踏まえてブラッシュアップ案を作成し、再度サンプルの製作にかかります。




step4-2. サンプル製作 ②

以下の通り、早速ブラッシュアップ案を提案しました。
クライアントにもOKをいただき、再度サンプルを製作したので、サンプルの写真をご覧いただきながらブラッシュアップのポイントを見ていきます。

① フィット感UP
フィット感を上げるために、少し縦長にした上で、中央にくびれを持たせたり、エッジを無くすように丸く削るなど、全体的に柔らかい印象に変更しました。

② 裏面
また、裏面については、お守りという性質上、ロゴのような主張的でないものがいい、というクライアントの意向。
ということで、歯科医院のコピーである「WE MAKE YOU SMILE」の文字を彫刻することにしました。

③ 歯の強調
また、「歯」の強調については、「敗」の中の歯のイラスト部分を研磨して光らせることにしました。まさに、歯を磨く、ということですね。




step5. 本製作

さて、2つ目のサンプルもクライアントに確認いただき、いよいよ本製作です。
特に仕上げや面取りなど、フィット感に直結する部分は一つずつ手作業で行っていきました。




step6. 納品

こちらが納品したお守りです。

〈商品説明〉
歯医者のお守りは、「無敗退」の文字を彫刻したお守りです。
歯科での治療中に抱く不安な気持ちを和らげるため、ぎゅっと握るお守りとして生まれました。
「無歯痛(歯が痛くなりませんように)」と「無敗退(敗退しませんように)」の2つの願いを込めています。

中央部分をすぼめた、握りやすい形・大きさにデザイン。
表面に「無敗退」の文字を彫刻した勝ち守り。
キラリと輝く歯のイラスト。
裏面には「WE MAKE YOU SMILE」、願いが叶い笑顔になって欲しいというメッセージ。
「叶結び」の紐。
素材はピューターという、錫を主成分とした柔らかい金属
桐箱のパッケージ。

ECサイト用のテキストや写真も合わせて納品し、これにてプロジェクトは終了です。

今回、2度目となる歯医者さんのオリジナルグッズ製作。
普通なら笑って一蹴されてしまいそうな企画も、「それ、やろう!」と楽しんでくれるクライアントあっての、特別なものづくりでした。




握って曲げて

このお守りは三重県名張市のクリニック(名張かめい歯科・矯正歯科)にて使用するとのこと。
もちろん使っていくうちに曲がったり、傷ついたりしていきます。
痛くありませんように、という思いの重なりが作り出す形。
ぜひ治療に訪れて、たくさん握ってみてください。




オンラインショップ、ご覧ください

歯医者のお守りは、クライアントが運営するSAREBE Online Shopにて販売しています。




・ クライアント : 名張かめい歯科・矯正歯科


・ プロデュース : モノ好キ


・ 企画 / デザイン / 製造 : 86400"(はちろくよん)

オーダーメイドについてのご相談は、以下のサイトよりご連絡ください。


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