東京タワー


#読書感想文

 今更と思われる方もいるからもしれないが、東京タワーを読んだ。単行本として発行された当時買って読んだものの、もうそれは10年以上も前の話で、改めて読み直したのである。ただただすごかった。素晴らしかった。この二語でしか表現できない自分の語彙力の無さに悲しくなるが、でもそれ以上にこの本を表すことができない。「すごい。」それで十分なのではないだろうか。

 本書はリリーフランキーの自伝的小説である。だから他の小説と、圧倒的にリアリティが違うのである。最近は大人の嗜みとして小説を読むようになり、角田光代、浅田次郎、三島由紀夫などを読んでみてはいるが、そのどれとも比較にならないほどに素晴らしいのである。つくりものの中に一つだけ本物が混ざっているというかね。もちろん実話だからその感想を抱くのは当たり前なのかもしれないが。

 やはり真実というのは力強い。どれだけフィクションがノンフィクションを追いかけたとしてもノンフィクションに勝つことはできないのである。そしてもし自分がフィクションの価値があるとすれば、作者自身がどれほど、その世界に自分の現実で叶えられなかったこと、叶えられないことを投影し、仮想空間ではあるが、その中で実現させるかということなのである。つまりこの作品がどうしたらヒットするだろうかといった邪心から生まれたものには惹かれないのである。しかし、東京タワーは彼自身が人生の中で書かざるを得ないもの。書かなければならないもの。そういった切実さが伝わってくるのだ。彼が彼自身のために書いた物であり、オカンのために書いたとてもパーソナルなものであるからこそ、こういった「すごい。」という、シンプルな一言に凝縮され、どんな小説もその熱さを超えることはできないのである。

 素晴らしい本に出会うということは本当に素晴らしいことだ。これからも本だけでない、素晴らしいものに沢山出会っていきたい。そして切実にパーソナルな作品を作り出していけたらと思う。

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