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vol.07イタリア買い付け旅行記「伝統的バルサミコ酢を探求」

2001年10月24日(水) 7日目

1.兼ねてからメールとファクスで連絡を取り合っていたモデナのバルサミコ酢メーカーを訪問し本場の調理プレゼンを受ける
2.工場取材で多くの情報を得て記事のネタを収穫。その後サイトにアップ

モデナへ

今回のメインテーマの一つ、仕入先訪問である。最初の仕入先であるトラディツィオナーレ・バルサミコ酢(伝統的製法のバルサミコ酢)のメーカーMALPIGHI(マルピーギ)社は、モデナの近郊にある。まだメールや電話でのやりとりしかないので、今回、実際に工場見学することにより相互理解を深めたいところだ。

事前に訪問の件は先方に知らせてあり、約束の10時に間に合うよう早めにフィレンツェから列車に乗った。イタリア版新幹線にあたる「ユーロスター」に乗り込み、途中ボローニャで急行電車のような「インテルシティ」に乗り換え。モデナは小さな町なので、新幹線は停車しないのだ。

ランチアのタクシー1

朝から冷たい雨の中、駅からタクシーに乗り込む。数日前の南イタリアの暑さが恋しかった。運転手とカタコトのイタリア語で会話。MALPIGHI社についても地元の情報を仕入れる。新車のランチアテーマを駆る50そこそこと思しきタクシー運転手は、「彼(オーナー)は、トラディツィオナーレ・バルサミコ協会のプレジデンテだよ」と、当然のように言った。

彼自身、バルサミコ酢を自宅でも料理によく使うそうだ。それも「ほんの数滴」だけ。さすが。使い方をよく理解していらっしゃる。モデナ市民だね。

MALPIGHI(マルピーギ)社へ

タクシーで15分。豊かに広がる田園風景の中に、ぽつんぽつんと家が点在する。それ以外は全部何らかの畑とか果樹園だ。その中にMALPIGHI社は本社社屋・工場・ブドウ畑・自社経営のレストランと広大な面積を所有している。それぞれ別々の場所に分散しているので、クルマで移動しなければならない。

まずは本社前でタクシーを降りた。当社担当のモニカ嬢は、最初からずっと担当してくれている女性だ。今回がお互い初対面だが、何度もメールや電話でやりとりしているので(英語だが)、初めて会うのにそんな気がしない。すらりと長身ではきはきした女性が、満面の笑顔で迎えてくれた。

本社正面

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「モニカよ。あなたがシミズね?」握手を交わすと、モニカ嬢と私はもう何十年も知り合いかのように滑らかに話を始めた。本社正面改装されたばかりの3階建ての本社建物フロントを通り、階段を上がった2階の応接室に案内される。

彼女はまず、今回日本へ発送してくれた商品についての追加情報と、新製品のインフォメーションを授けてくれた。続いてさらに上のフロアへと案内してくれる。そこは屋根裏部屋に近い感じの部屋で、今まで写真でしか見たことの無かった「バッテリアス」つまり、熟成途中のバルサミコが収められた木製の樽が無数に整然と横たわっていたのだった。

バッテリアス2

モニカ嬢は資料を交えながら、立て板に水のごとく説明を始めた。バルサミコの歴史、本来の生産方法、モデナの気候、樽の秘密について。時折質問をしながら、私は熱心にメモを取った。ここでしか聞けない情報である。これらについて詳しく知りたい方は、こちらをどうぞ。https://www.bellissimo.jp/blog/balsamic01/

工場見学

いろんな賞

「バッテリアス」が収められているのは本社の3階だけでなく、農園に併設された倉庫の中にもあった。そこには今までの歴史を伝える貴重な博物館を併設してあり、数々の賞に輝くMALPIGHI社のことがよくわかる雑誌の掲載記事などがところ狭しと飾られている。

エスカイヤ日本版1

オーナー婦人にも紹介され、にこやかに握手。オーナーであるMASSIMO MALPIGHI氏は所用で出かけていて会えず仕舞いだったのが残念だ。日本からは最近になって、「エスカイヤ日本版」「朝日新聞」など数社から取材申し込みがあったそうだ。

最近振興が目立つスローフード協会の活動にも熱心なオーナーは、一途に伝統的製法を大切にしながら「のれん」を守る人物である。その熱心さに、スローフード協会も高い評価を与えているようだ。「体にやさしい食べ物」「時間をかけて作られる天然の産物」は、天が授けた贈り物なのだ。

本社商品コーナー1

80年もの


見学した工場内には小さな売店もあり、見学者はその場で購入することも可能である。稀少なものとして、50年・80年・100年熟成といった商品も展示され、さらに薬効があると言われるオーナー婦人手作りのバルサミコ酒も飲ませてくれた。50年以上熟成されたバルサミコ酢も、サンプルとして持ち帰る。これらは数量が限られているのだが 必要な時は分けてもらえるように交渉。その後工場も見学する。

工場4

実際にブドウをつぶして煮立てている行程を見学することが出来た。併設された農場からのブドウの収穫はちょうど終わったばかり。今それらをバルサミコ酢に加工して行くための、最初の行程が行われているのだった。

MALPIGHI(マルピーギ)社経営のリストランテで試食

広大な敷地と、3重の門に囲まれたリッチなMALPIGHI社のファクトリーを出て、我々は自社経営のリストランテに向かった。モニカ嬢の車に乗り込み一緒に移動。12時を15分過ぎたところだった。案内されたのは、まだオープンして1ヶ月という高級リストランテ。

レストラン1

MALPIGHI社の紋章の入ったドアをあけて中に入れば、ハンサムな支配人が笑顔で出迎えてくれた。日本人では自分が初めての客だという。こぢんまりした店内には10卓ほどのテーブルが。メニューを見ながら、モニカ嬢がお勧めのメニューを教えてくれる。もちろん本家のトラディツィオナーレ・バルサミコを使用したメニューばかりである。

キノコとパルミジャーノ


アンティパスト アペリティフの発泡性白ワインに続き、大きめのスプーンに載ったものがアンティパストとして出される。取れたばかりの生キノコをアーリオ・オーリオで軽くソテー。その上に名産のパルミジャーノ・レッジャーノのスライスが乗ったものだ。美味い。美味すぎる・・・。どうやら隠し味に、バルサミコが使われていたようだ。

トリ燻製とカルチョッフィ

続いて、柔らかくてまだ赤みの残る、鶏肉の燻製カルチョッフィ添え。支配人の手により、出された皿の上に12年以上熟成のトラディツィオナーレ・バルサミコがほんの数滴かけられる。キャップはMALPIGHI社オリジナルキャップが装着され、ほんの少しの量を上手に皿の料理にかけられるようになっている。

テーブル用バルサミコ

これがまた、上品で微妙な味。計算され尽くした味というのだろうか。プリモは肉詰めパスタ(トルテリーニ)。鶏肉のダシでとったブロードの中に泳いでいる。あっさりとしたスープは日本の鶏鍋料理を連想させ、旅の途中の胃袋にやさしい。この料理だけは、バルサミコを直接かける必要がなかった。

ガンベローニ

そしてメインのセコンドは、ガンベローニ(車海老)のソテーかステーキ。モニカ嬢はステーキを勧めたが、小生の好みを言って、ガンベローニに。またしても支配人が、12年熟成のバルサミコをほんの数滴、出来上がった料理の上にたらす。下味をつけられた海老のうえに、トラディツィオナーレ・バルサミコが。美味しくないはずがない。

ジェラート2

デザートはモニカ嬢も待っていましたのジェラートだ。ミルクの香りがぷんぷんしてくるような自家製ジェラートが、大きめの皿に乗ってやってくる。デザートバナナのスライスをこんがり焼いたものの上にジェラートは載せられている。そこに、今度は25年熟成のバルサミコがお出ましだ。やはりほんの数滴が目の前でかけられる。

駄目押しに、食後酒としてバルサミコ酒までいただき、全てのコースが無事終了した。すべてバルサミコ尽くしの豪華な料理であったが、いずれもとても繊細な味わい。胃袋にもたれることなく、実に計算された料理だ。トラディツィオナーレ・バルサミコはこうして使うんだよ、という見本であった。ぜひとも日本でもこんな料理を提供して欲しいものだと思った。

MALPIGHI(マルピーギ)社を後にする

リストランテでの食事の間にもずっと、モニカ嬢と日本・イタリアの情報交換に終始した。時にはイタリア語と筆談も交えて、とにかく時間を惜しんで喋り続けた我々であった。午後2時を回り、別れを惜しみつつ私はモデナの町へと向かう。

バルサミコを育てたともいうべき、この地の支配者エステ公の博物館があるのだ。当時の支配力をまざまざと見せつける壮大な絵画や調度品を十分堪能、さらに街中を散策する。モデナの町前回来た時も感じたことだが、モデナの街は小さくてとても落ち着いたいい街だ。自転車の多い町でも有名で、自転車専用通路が歩道にもきちんと整備されている。

モデナは自転車の街1

モデナとレッジョエミリアでしか作られない名産品バルサミコは、バールや食材屋の店頭などあちらこちらで見かけることができる。この小さなボトルに詰め込まれた液体が、ほんのわずか皿の上にかけられ、我々の胃袋に収まる。その存在感を誇らしげに示す瞬間だ。

ソースのように決して一度にたくさんかけてはいけない。値段が高いからではない。そのような使い方では、料理そのものが逆にバルサミコに負けてしまうからだ。12年以上もの歳月をかけて熟成されたトラディツィオナーレ・バルサミコは、調味料でありながら、食材の「王様」でもある。そんな当たり前のことを、大切に育んでいる。MALPIGHI社に感謝。そしてこの地を支配したエステ公国の歴代の王に感謝である。

商品写真12年熟成



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