見出し画像

『ミッドサマー』グロと幻夢(ネタバレ有り)

今回はアリ・アスター監督 『ミッドサマー』について書きます。
私は、この映画は3回ほど見ているのですが、全体を通して思うの映像が綺麗!
というのも良いカメラとか画質とかの話ではなく(それもあるのですが)、無駄なものがなく洗練されていることです。
正直、ストーリーだけを見れば、ホラー映画にありがちな構成だとは思いますが、演出が飽きさせない。
というわけで、私の『ミッドサマー』で好きなシーンを十一箇所挙げます。(微妙な数字ですが)

✴︎ネタバレ有りなのでまだみていない方は、ご注意で。

・一つ目はダニーの妹のご遺体。
一酸化炭素中毒で両親を道連れに心中するのですが、妹はゲロまみれで亡くなっております。仰々しいグロシーンでもなく、サラッっと見せるあたりのリアリティへのこだわりがいいですね。

・二つ目はダニーとクリスチャンの友人との微妙な空気感。
スウェーデンに行く直前の場面ですが、クリスチャンがダニーを誘ったことを知った友人たちの顔がなんとも言えない。(特にマークは嫌そうな顔をします。)
そして、鏡?越しにダニーが入ってくるのが見える演出になっていますが、ここは彼女が部屋に入る様子と友人の反応を同時に見ることができ面白い。

・三つ目は部屋から飛行機のトイレ。
二つ目のすぐ後の場面ですが、部屋のトイレのドアが飛行機のトイレとつながっているという、どこ◯もドア的なイリュージョンを俯瞰的に見せています。
ここで面白いのは部屋から飛行機のトイレに入る時、ダニーの服装はそのままなのですが、次の正面からのカットでダニーの服装が変わっています。
『ミッドサマー』はこのようにリアルの中に虚構があるような、虚構の中にリアルがあるような夢幻的演出が多いです。それはダニーの精神状態を表しているのかも知れませんね。

・四つ目は車でホルガ村まで走るシーン。
車で走っている場面を俯瞰的に写していると思いきや反転、からの次のカットでも反転したままという。。そのままラストまで反転してたら面白いのですが、ヘルシングランドの旗を機にカメラは大空へと飛び立ちます。見る人によっては画面酔いしそうですね。

・五つ目は顔グニャンからの爆音猛ダッシュ。
ダニーがドラッグでトリップ中、逃げ込んだトイレにて。鏡越しに妹の顔を見て振り返り、自分の顔を見ると顔面がグニャんと変形します。からの効果音が爆音で流れ、ダニーがダッシュするという場面です。
なんか変なシーンですよね。
普通のホラーなら妹の顔が写った時、効果音が流れ、逃げるという展開になりそうなんですが、変化が微妙な顔グニャんをトリガーとするのはホラーよりも夢幻感を優先しているように感じます。

・六つ目ははっぴいバースデイ。
ここは個人的に結構好きですね笑
クリスチャンがダニーを外に呼び出し、ケーキでサプライズをする場面ですが、ケーキがちっこい、近くにいる赤ちゃんが気になる、蝋燭に火が中々つかないという驚くほど白けたはっぴいバースデイです。
通常、こういった場面は感情の起伏を大きく描きますが、起伏が一切ないのは二人の関係性をうまく表現してますね。

・七つ目は儀式アッテストゥパン。
72歳を迎えた男女のペアが儀式でお亡くなりになるのですが、その後、サイモンら取り乱すメンバーに長老のシヴが儀式の説明をします。
基本、こういったインパクトのあるシーンでは村人の狂人的側面とよそ者のモラルとの乖離具合を強調しそうですが、シヴは近所のおばさんのような人間味のある対応をし、裏表がないような描き方がされています。

・八つ目はダニーの夢。
先ほどのアッテストゥパンの後、眠れないダニーはジョシュから睡眠薬を貰い、眠りにつくのですが、クリスチャンやその友人たちにハブられ車で置いてかれる夢を見ます。車を追いかけるダニーを見向きもしないクリスチャン、ジョシュ、ペレとニヤニヤ笑いながら車の窓から見つめるマーク。
二つ目のとこでも述べましたが、マークのダニーに対する軽薄な態度を彼女も感じ取っていたことが夢として反映されています。

・九つ目はダンスシーン。
いやー、ここも好きですねえ。民俗音楽的でサイケ感のある弦楽器の音とフェードしながら溶け合う映像、そしてダニーはなぜかスウェーデン語で会話ができてしまうという。かなり幻想というか夢幻というかそんな描き方がされています。そして、ダニーがダンスで女王になった瞬間からお祝いまでのスピード感、その中にさりげなく現れる死んだはずの母という何がなんやらという感じ。
映像の速度の強弱、音の定位の変化、チラチラ画面に映る太陽光などかなり私好みです。

・十個目はコニーのご遺体。
以前別のアカウントでも書いたのですが、水死体の質感、柳で連想されるオフィーリアなどの文学要素、藻のように垂れ生気のない髪から映す撮り方、映像とは非対称的な神聖で綺麗な音などなど、これもかなり好きな場面です。

・十一個目はラストシーン。
まず、熊の皮を被りながら、焼かれるクリスチャンは黒澤明の『乱』にて城を攻められた時の秀虎の場面を想起させます。

そして、ほぼ皮しか残っていないため直ぐ燃えるマーク。
まだ生きたそうなウルフ。
狂い出す村人。

と言うことで私の好きな場面を挙げてみました。
この映画はロングショットが多く、それほどカメラで捉える範囲が広いため、画面の端の方を見ると、それまで気づかなかった描写を見つけることができたりと面白いです。
また、over-the-shoulder shot (OTS)、[いわゆる肩なめと言い、肩越しに相手が喋っている様子を撮る方法]と言うものがあるのですが、これは、話し手と聞き手を同時に映すことができ、話し手の表情や会話を強調することができます。
大概の映画、ドラマにはこの手法が使われており、『ミッドサマー』においても使われている場面があるのですが、やはりロングショットでの会話場面が目立つように感じます。
OTSは多用しすぎるとドラマ感が強くなってしまうのですが、ロングショットだと自然に描けるというメリットもあり、それが上手く使われていると感じました。

あと、ごちゃごちゃしてないのがいいですね。場所も前半を除き、ホルガ村という特定の場所で物語が展開していくため、見る側としても集中しやすいと感じます。
そして、ダニー、クリスチャン含むメンバーも割とサバサバした関係性であり、仲間を守ったり、協力して村人と戦うようなvs村人のような構図にはなっていない。
要するに、善悪の二項対立的構図が描かれていないため、勧善懲悪のようなドラマ的押し付けがましさを感じません。
そこら辺がスッキリしている、また洗練されていると感じるのかもしれません。

ざっくりと書いたのですが、まだまだ魅力のある映画だと思います。
それでは、雑ですが終わります。



この記事が参加している募集

#おすすめ名作映画

8,152件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?