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【文章の推敲を重ねたい】小説メイキング裏話

お話を作るとき、いつも迷う。構成・文章・エピソード・書き出す感情。どこまで推敲を重ねても、終わりのない旅のように思える。

2019年最後の日。ひとつの小説を「はじめて借りたあの部屋」 のコンテストに応募した。実体験をベースにしつつも、ゼロからのストーリー作り。7割完成してからの、抜本的な構成変え。そして、もらった真摯なレビュー。

わりと苦労した創作過程だったので、せっかくだから書き残しておこうと思う。小説を作る私の頭の中に興味のある方は、どうぞお付き合いください。


物語は、ほんの1節からはじまる

コンテストの概要を読んだ瞬間、思い浮かんだのは「書きたいけれども、書けない」だった。

書くならば、題材は一つ。はじめて一人暮らしをした大学生の4年間。ただ、そのままエッセイにするにはあまりにも暗すぎた。一言も話さない休日。プライドが邪魔をしていた同級生との距離。勉学への焦り。正直、2年間ぐらいは人生の暗黒期。

ダークな一人暮らしを書いてもなあ……と、テーマを寝かせること約1か月。ある日歯を磨いていると、タイトルが降ってきた。そして、思い浮かんだのはラストの1節。

あの、ひとりきりの部屋から。

圧倒的な孤独と、その先にある救いのようなもの。小説の形なら、書ける気がする。この時点で、コンテスト締め切り1週間前。遅いけれども、書かなくちゃと、ようやくスタートを切った。


書き出すまえにやったこと

小説を書き出すまえに、準備としてやったのは以下の3つ。

1.お手本作品の読み込み
お手本作品は一人暮らしの孤独や寂しさだけではなく、「転換点」がある。それが、「はじめて借りたあの部屋」を人生で忘れられない記憶に位置付けている。一人暮らしの思い出話で終わらないように、4点を物語に盛り込もうと決めた。

・部屋の紹介
・孤独や寂しさ
・好転させるエピソード
・その後の話

2.物語の転換点を考える
では、感情が変化する転換点をどうするか。嘉島唯さんのお手本作品では、「トースター」が一人暮らしを好転させるアイテムとして登場している。

ひとり暮らしのさみしいエピソードは思いついても、転換点のディテールを決めるのは難しい。

手元の創作メモを除いてみると、寂しさエピソードが「スーパーの肉が高い」「パスタ山盛りを食べ続ける」「誰ともつながらない帰り道」と複数上げているのに対して、変化を引き込む出来事には「カレー」とだけメモしてある(なぜ……?)

ひとまず、「」を柱の一つとして物語を展開させることに。

3.主題はなにかをはっきりとさせる
小説で書き切りたいことを考えた。

寂しくてつらかった「あの部屋」に戻りたいとは微塵も思わない。でも、親の「やわらかな束縛」から抜け出して自立するために、あの部屋での暮らしはたぶん、必要だった。

暗黒期のひとり暮らしを否定せず、自立の出発点として描くこと。記憶を掘り下げて孤独をえぐり、出発点までつなげられたら、それは救いになるかもしれない。たぶん、それが私が今回書きたいことだ。


以上を考え、執筆スタート。プロットはなし。頭から順番に、場面を再生して書く。一通り書きあがったのが締め切り前日、12月30日の午前中。文字数は5200字。

私は、悩んだ。これ、長い。


フルスイングレビューで着火した熱

物語の完成度は75%。締め切りまではあと1日。でも、その日は大晦日。公開しても、誰も読まないかもしれない……どこまで直すべきなのか。

とくに悩んだのは、文字数だ。5000字だろうと、1万字だろうと、内容が伴っていれば読み手は「長い」と感じない。私が書いた小説に、それだけの力はあるだろうか。

構成と内容が、釣り合っていない気がする。

できるなら、4500字前後におさめたい。けれども、いくら細部を削っても5000字切るかどうかの修正しかできない。迷った私は、他者目線でのレビューをお願いすることにした。

レビューアーは、昨年夏以来の創作パートナーであるillyさん

☆illyさんってどんな人? という方は、嶋津さん主催のコンテスト「教養のエチュード賞」のプリマドンナ賞記念インタビューをご覧ください。(いやー、プリマドンナ賞、かっこいいな……)

年末にも関わらず、illyさんは快くレビューを引き受けてくれた(ありがたい)。「サトウカエデ史上、もっともダークな作品」と率直なコメントのうえ、「救い」での回収と「美しいディテール」とポジティブな感想をもらう。

そのうえでの修正ポイント。

たぶんナオが登場する前の「孤独編」(ここまでで3000字ある)を2/3ぐらいに圧縮すると、リズムよくなるんじゃないかな。(すると4000字に収めるラインが見えてくる)確かに組み立てで苦戦してる感じはある。

読みながら、ですよね、と納得する私。組み立ての苦戦は自分で感じていることなので、信頼できる読み手から同じことが返ってきた以上、構成をドラスティックに変えるしかないわと、素直に腹落ち。

ところが、illyさんの本領は序の口で。

小1時間離席していたら、未読通知が。届いていたのは、フルスイングレビュー。せっかくなので、全文載せる(ご本人の許可済み)

【編集方針】
この作品のキーメッセージがなんなのか考えた時、《ナオは1年で留学に行っちゃったけど、ナオの存在があったから「あたし」は孤独の殻を破って前に進めるようになった(たったひとりの隣人の、一回の訪問が何もかも変えた)》だとすると、この一点に全集中して取捨選択したらソリッドな流れになる。(たぶん、現状は「母の呪縛」が主題に寄りすぎていて重心がぶれてるのかなと思った)
→この「サビ」から逆算して、「あたしにとって【ひとり】は【希望】だった。それなのに……」の描写を前半部分の柱にする。
文字数を削るテクニック①
構造を整えて、複数箇所で重複している「似た描写」を一本化する
文字数を削るテクニック②
《そのシーンのリアリティに無関係なディテール》を削る
【描写メモ】
・「壁の輪郭がゆがむ」の段落で「嗚咽している」ことを描写したほうが、ナオを呼び込む伏線になる
・ナオの登場シーン、ノックからドアを開けるまでを丁寧にスローモーションで描くと、読み手の期待が上がる ※ここは文字数足してもいい
・「それでも、愛してくれる人がいる尊い事実を知った。」の「愛してくれる人」が、ナオの存在だけだとするとちょっと弱いかも
【noteメモ】
☆段落単位の改行がちょっと多すぎるかも(各段落が断片的に見えやすい)。一息で読むところはつなげ、シーンの切れ目は「2行空き」でリズムを作る方が「見た目好印象」になる。

これに加え、【誤字メモ】もいただきました。ありがたすぎでは?

ここまで読み込んでもらえたら、書き手の私が逃げるわけにはいかない。締め切りギリギリまで粘るぞと、腕まくり。タイムリミットは24時間。勝負を31日にかけて、その日は就寝(だって、寝ないと頭が動かない……)


削ぎ落しながら深堀りする

翌日、まず手を付けたのは構成の変更。削ぎ落しだ

とはいえ、illyさんから第一弾レビューをもらった段階で、ほぼ新しい構成は決まっていた。冒頭にあった524文字の段落をまるっと削除し、帰り道のシーンからスタートさせる。

▼削除した冒頭はこちら

寝返り半回転で降りられるベッドから3歩でたどり着くユニットバス。
無頓着に寝間着を脱ぎ捨て、まっしろな、それでいて狭苦しい空間に、あたしは寝ぼけた体を押し込んだ。
母が強引に押し付けていった、赤いチェックの布団はくしゃくしゃのまま。くすんだ萌黄色のカーテンは、朝でも閉じたまま。
デザイン性皆無のヤカンを火にかけ、分厚いマグカップでティーバックの紅茶を飲む。姿見のまわりに散らばる居心地悪そうなマスカラとリキッドファンデーション。
この部屋は、どこもかしこもちぐはぐだ。まるで、あたしみたいに。
一限目の講義に遅れないよう、覚えたての化粧をできるだけ完璧に仕上げて、駅ビルで買った春物のニットワンピースを頭からかぶる。
朝食はバナナ1本。シリアルや食パンよりも安いから。
昨夜、頭を悩ませた英語の訳文を手提げに突っ込み、ドアノブに手をかけた。
流しに置きっぱなしのコップに、蛇口から垂れた水滴がぴちょん、とはねて響く。振り返ると、ちっぽけな空間の真ん中で、置き去りにされたあたしの抜け殻がこっちを見ていた。「いってらっしゃい」は、聞こえない。
この部屋は、あたしが戻るまでは、時間が止まったままだ。18歳のあたしが暮らしたワンルーム。東京・三鷹の学生会館801号室。

自分で書いた文章は、当然のごとくお気に入りなので削除は勇気がいる

けれど、illyさんの指摘の通り「一人暮らしの孤独」と「母の呪縛」の2重奏でテーマがぶれている。食から孤独を連想させるスタートに変更することで、話の筋をすっきりさせた。

文字数を削るテクニックを参考に、無駄な描写をガンガン削る。私は、文章を情緒的に書くのを好む傾向があるので、ほおっておくと修飾語が増える。削ぐことで、ほかのシーンが際立つ。

同時に、深堀りしたいシーンを文字数増加をいとわずに加筆する。それによって、文章に緩急のスピードがつく。

たとえば以下の、ナオが主人公の部屋を訪ねてくるシーン。さらっと登場させる代わりに、部屋のなかの暗さと廊下の明るさの対比で、ナオという光を強調してみたり。

【修正前】
訪ねてくる人などいない。ドアをたたく音だって幻聴だろう。無視を決め込もうとしたけれど、扉の向こうに確かに人の気配がする。
怪訝な顔をしてドアノブを押すと、背の高い、ショートヘアのひょろっとした女の子が立っていた。季節外れの小麦色の肌。見覚えがある。隣の部屋の住人だ。(130文字)
【修正後】
ドアをたたく音がする。入り口が厳重な学生会館の住人は、めったに鍵をかけない。そのまま入ってくればいいのにと、あたしは鉛みたいな体を持ち上げて、のろのろとドアノブを回した。
廊下の明かりが、暗い玄関に筋になって差し込む。まぶしさに目を細めた光の中に立っていたのは、背の高い、ショートヘアのひょろっとした女の子。季節外れの小麦色の肌。見覚えがある。隣の部屋の住人だ。(180文字)


削ぎ落しと深堀りをシーンごとに繰り返して整える。最終的に文章は4700字に。今回は、文章に加えフリー素材の写真も挿入した。

文章だけで読ませる力がほしい……とこだわりはありつつも、大切なのは読み手に最後まで読んでもらえるかどうか。長い文章が疲れる人も、当然いる。写真を挿入して視覚的効果をいれ、WEB小説としての完成度を狙った。

以上、推敲を重ね、31日の夕方6時に公開。

illyさんのレビューを受けたときの修正前原稿を丸々残しているので、興味ある方はどうぞ。比べると、修正前のほうが文章の無駄や停滞が多い。

『あたしの、ひとりきりの部屋から』
☆【修正前
☆【完成版


推敲は続くよどこまでも

今回書き上げて思ったのは、他者視点と推敲の時間の重要さ。文章を読み込んで、的確なレビューを返してくれたillyさんには、感謝しかない。そして、推敲の時間はありすぎても足りないことはきっとない。

公開したあとでも、(ナオの伏線をもっと手前にもってきておけば…)とか(狭いキッチンの描写を丁寧にいれたかったな…)と、思いつくポイントはある。

今年は新人賞への小説応募を目指していて、書くとなると4万字は軽くいく。今回の約10倍の物語をつくることになる。ちょっと途方もないなと思いつつ、書いて直してまた書いてを続けるしか完成には近づけないんだ……と思う。長編小説書く人、みんなすごい。


「小説はすぐれて才能の世界だが、スポーツと違ってメンバー同士の競争はない。レギュラー枠があるわけでもないし、誰かのポジションを奪う必要もない。極端に言えば、人類全員が作家になることも可能だが、しかし、作家たるには、他の作家が持ちえない独特の自分らしさ、個性が求められる」(白石一文)

上記はネットで見かけた、第94回オール讀物新人賞の審査員である白石一文さんの選評。ほかの人が持ちえない独特の自分らしさって、きっと削って書いて推敲を重ねた先にしか見えてこないのだろうなあ。

物語を書く入口に立ちながら、もっと書いていきたいなと思った。長い長い旅路でもいいから、見たいどこかにたどり着きたいな、と。


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