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攻略のフラグメント(プリマドンナ賞インタビュー・入谷聡/illy)

攻略のフラグメント

彼のnoteには「計画のかけら」「戦略のかけら」「思考のかけら」が散らばっている。全ては前進するためのエレメントであり、攻略のフラグメント。

埋もれている価値を、よりわかりやすく世の中に伝えていくことが自分のミッションだと認識していました───illy


彼は笑顔で迎えてくれた。文章の印象よりも、一回り穏やかで。声はやさしく、透き通っていた。彼は、満ちていた。具体的に「これに」ということではない。漠然とした「何か」が泉のようにあふれ、彼という容器を満たしている。満ちている人の醸す空気は心地良かった。



第一回プリマドンナ賞
インタビュー作品

場所は京都、ロフトワーク。〝会いたい人〟はそこにいた。入谷聡さん(以下、illyさん)。文章に惹かれた。冷静と情熱。彼は常にキンキンに冷えていて、常にメラメラと燃えている。

人柄に惹かれた。洞察力と行動力。誰かと誰かを繋いだり、ひとりぼっちの人に声をかけたり。裏に回って「誰か」をサポートしながら、その場所に「わくわく」という空気をつくっていく。それを軽やかにできる人間性を素敵だと思った。

インタビューを通して、その秘密が少しだけ見えたような気がする。illyさんに惹かれる理由。それではお楽しみあれ。



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「記録」から「対話」へ

嶋津
illyさんが自発的に文章を書きはじめたのはいつ頃からでしょうか?

illy
高校時代、文集で修学旅行で屋久島に行った時のことを書きました。はっきりとは覚えていないのですが、「癒しの旅だった」というような内容のエッセイでした。それがクラスメイトにウケた。

嶋津
日記ではなく「読みもの」として書いたのですね。

illy
そうですね。あの時は読んでもらう前提として書きました。クラスメイトの反応がうれしかった。

大学生に入ってからは、ずっと日記用にブログをつけていました。その後、仕事用に魅力的なクリエイティブの分析などを書いていました。「このウェブサイトは目の付け所がいい」とう名作の分解です。noteに引っ越したのは2018年12月1日。

嶋津
illyさんのnoteを全て読ませていただいたのですが、次第に文体が変化している印象を受けます。

illy
仲間からは「すごく丸い文章になった」と言われます。

嶋津
何か考えに変化があったのでしょうか?

illy
最初は「noteを書き続けること」が目的でした。それが途中からTwitterのコミュニケーションの方がおもしろくなってきて、そちらにシフトしていきました。それが高まってきた頃の9月に「note酒場」があり、10月に「#教養のエチュード賞」があった。その頃にはギアチェンジしていた、という感じです。

嶋津
文体自体が大きく変わったという印象があります。もちろん初期の頃も、美しい文章です。ロジカルで、熱がある。ただ、文体が変わっていくにつれ、穏やかになっていったような印象があります。僕は「illyさんのことだから意図的にやっていることなんだろうな」と思っていました。

特にプリマドンナ賞の作品では、穏やかな文体でありながら熱を込められていて。そこがすごいと思った。この表現方法ができれば、幅広い読み手に深く届く。

illy
そういう意味でいうと、伏線として「#呑みながら書きました」(お酒を呑みながらnoteを書くというマリナ油森さんの企画)がありました。2019年はnote関連で本当にいろんなことがあった夏で。7月のnote関西meetupがあり、note仲間と話す楽しさを知った。その流れで「#あの夏に乾杯」の小説作品をレビューした。その時の話を「#呑みながら書きました」で書いた。

感情的に書くと気持ちいいし、周りの反応もよかった。そこで新しい快感を得はじめ、「メッセージをのせていく」という発信がおもしろいと感じました。

嶋津
そこから対話的になっていますね。

illy
初期の頃は「自分の学びとしての言語化」にフォーカスしていました。やわらかさを手に入れた。自分が書くことよりもnoteを通じてコミュニケーションすることに、完全にシフトしていますね。最近は、一人以上の読者を想定して書いています。「この人へ向けて」という。読んでもらうことを想定していることが変化ですね。



やさしさの秘密

嶋津
そこで大事になることは「伝え方」ですよね。文章が「記録」から「対話」へ移っていったということに繋がると思うのですが。

ずっと思っていたのですが、illyさんって言葉を再構築していますよね?頭の中に浮かんだ言葉を、ひたすらに相手が伝わりやすい言葉に変換している印象を受けます。

illy
めちゃくちゃ構成しています(笑)。そこに最もエネルギーを注いでいるかもしれません。

嶋津
そこには、過去に伝わらない体験があったのでしょうか?

illy
大きな失敗体験はないと思います。苦しさを乗り越えてきたというよりは、ゲーム感覚でレベルアップしたような。殊に「伝えること」に関しては。

嶋津
攻略が好きなんですね。相手の基準に合わせて、「どう伝えようか」ということを攻略する。

どうしてこのようなことを質問するかというと、僕の経験上、頭の回転が速い人というのは、インプットだけでなく、アウトプットも速い。特に、ロジカルに物事を捉えるillyさんのことだから、昔は最短距離で解まで辿り着くコミュニケーションをされていたのではないかと思ったんです(笑)。

illy
コミュニケーション力に関しては悩んだ時期はありました。雑談が続かない。沈黙になってしまう。相手に興味がないから話しかけることができないんですね。だからパーティも苦手で。

考えたのが、「どうすれば雑談力がつくか」。社会人になってコミュニケーション能力が後天的なスキルだと気付いたのは、最大の僥倖ですね。

最近では、タクシーの運転手さんと雑談がはじまるとずっと話しています。相手に合わせることが全然苦じゃない。子育ては本当にそうですよね。子どもがしゃべりたいことをずっと聴いている。

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嶋津
とても穏やかに人の話をお聴きになりますよね。それも後天的なスキルの一部でしょうか?

illy
仕事柄ということろもありますが。ただ、大学時代はツンツンしていました(笑)。特に大学3年の時はヤバかったですね。

転機は、西村佳哲さんとの出会いですね。インタビューのワークショップを受けました。カール・ロジャースのカウンセリングを基盤にした傾聴中心のスタイルです。この時の体験を基に、実生活でもインタビュー的な言葉の出し方を意識するようになりました。

嶋津
illyさんのTwitterでの振る舞いを見ていて、その点を強く感じます。相手の話を聴きながら、相手が自分自身で解決するように背中を押してあげている。それはある種、カウンセリングのように映ります。相手のプライドを立てながら、ケアしてあげる。「このやさしさって何だろう?」って。

illy
自分で解決せずに、相手の解決に委ねた方がうまくいくこともたくさんあります。その視点は大切にしていますね。最小のエネルギーで最大の効果を。あと、基本的に浮いている子は好きです(笑)。

嶋津
専門的な能力が優秀な方って「人に任せることができない」ことが多かったりしますよね。理由は簡単で、任せるよりも自分がやった方がはやいから。そういう意味でも、傾聴には忍耐が求められると思うのですが、手こずった部分はありましたか?

illy
西村流のスタンス自体は「難しい」という感覚はありませんでした。僕、ゲーマー的思考回路なんです。テクニックの習得と実践における考え方として。傾聴のスタンスを取り入れていくこと自体は自然と受け入れることができました。やってみると楽しいし、たくさん話を聴ける。

「インタビューが好きだ」と思うのは、学習欲がベースにあります。自分の知らないことを知ることができる。相手が普段言ってくれないことを話してくれる。そういったコミュニケーションの中での発見が一番楽しい。だから「聴くこと」自体は全く苦になりません。

嶋津
聴くことがもたらす心地良さというのはどこにありますか?

illy
「絵が見える」というのが気持ちいいんです。視覚優位の人と聴覚優位の人がいて、僕は視覚優位の「目の人」なんですね。人の話を聞くのも、〝その人の見ている風景〟が見えることが気持ちいい。文章を書いている時も「いい絵が見えてきた」という時はすごい気持ちいし、手ごたえを感じます。だから影響を受けるとするならば「言葉」というよりも、視覚的な「絵や風景」ですね。

嶋津
確かにillyさんのnoteはビジュアル的な心地良さを感じます。視覚から入ってくるページ全体としての印象が美しい。

illy
noteを書く時も視覚的なリズムをすごい大事にしていて。第一回教養のエチュード賞の応募作品も非常に凝って組みました。「引用で挟んで…」というリズムのつくり方はすごく意識してやっていますよ。重ね合わせて、価値創造を。



成長する楽しさ

嶋津
〝illyマインド〟をインストールできれば、学びが楽しくなりますね。まさに教養のエチュードだ。

illy
根がゲーマーなので「点数を獲りに行く」というのが楽しい。競争好きで、負けず嫌い。「勝てそうな勝負しかしない」という性格です。分析しては勝負をかけにいく。ゲームにもいろいろ分析のしようがあるんですよ。

嶋津
ゲームをつくりたいという発想にはいかなかったのですか?

Illy
それはないです。つくるよりも攻略が好きです。問題を与えてほしいタイプ(笑)。ちょうどいい大きさの問題を与えられると燃える。

嶋津
なるほど。イージーだとおもしろくないし、少し難しいくらいがちょうどいい。興味を持ったらとことんまで突き詰める。人の数倍の速度で。

illy
短期集中のインプットの速度と精度には自信がありますね。人生で大事にしている価値観として常に「スピード」は意識していますね。鮮度。たとえば、メッセージが来たらすぐに返す。そういうことが人生の価値観でもあるし、強みの源泉でもある。レス早い人ってそれだけですごく信頼される。生存戦略です。

嶋津
そこに加え、ちゃんと寄り道するじゃないですか。illyさんってそこがすごいと思うんですね。

もちろん最短距離を導き出して、目的地に全力で突き進むこともすばらしい。そういう優秀な人はたくさんいます。ただ、illyさんは無駄を省いて最短距離を目指すだけじゃない。ロジカルに整理整頓するのだけど、うまい具合に寄り道をしながら「偶然性を含めて自分のものにしていこう」という姿勢を感じる。計算された回り道。

そこが素敵だなって。だから実際にお会いして話を聴いてみたいと思いました。

illy
「整理する」ということはいろんなものを切り捨てることですからね。そこだけじゃない部分もおもしろがっていたいとは思っています。

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相手の感情に重ね合わせるように耳を傾ける。読み手や聴き手に寄り添う気持ちが言葉以上の〝何か〟となって、こちらへと伝わってくる。それが振る舞いや文体として現れる。つまりはコミュニケーション───「対話」なのだ。

最後に一つ質問してみた。その言葉がillyさんという人間を現わしていると感じた。


嶋津
これからnoteをどういう場所にしていきたいですか?

illy
「好き」を大切にできる場所。多くの場合、「好き」の理由は後付けです。そこで、美しい理由を見つけていきたい。その中で、ゆるやかな繋がりをつくっていくことができればと思っています。


彼のnoteは攻略のフラグメント。埋もれた価値を磨き上げた宝物。それは、やさしさに乗って読み手の心へ届く。



「ダイアログジャーニー」と題して、全国を巡り、さまざまなクリエイターをインタビューしています。その活動費に使用させていただきます。対話の魅力を発信するコンテンツとして還元いたします。ご支援、ありがとうございます。