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スマート新書の試みに、時代の変化を感じたこと #エッセイ

ピースオブケイク出版の「スマート新書」、購入しました。
出版を企画した方々の熱い思いをnoteで読んで、どのように新しい価値を生み出そうとしているのか興味が沸いて、(あとは、読みたい内容でもあったので)一冊手に取ってみました。

手に取り、読んで思ったのが、「これは、情報を得るとき『まずはスマホで検索する』ひとに向けた紙の書籍なんだ」ということ。
ある意味で、スマホこそをライバルとして設計した書籍なんだということを、随所で感じました。

まずは、サイズ。カバー写真はiPhone7との比較なので、スマホの方が小さいですが、少し大型のスマホであれば同じサイズになるでしょう。厚みも同じくらい。女子の鞄に入れても、負担のないサイズ。

次に、文章量。100ページ強で、わたしは30分程度で読みました。
購入した『みんなが書き手になる時代のあたらしい文章入門』は8章に分けられていて、1章あたり10ページほど。読む速度によっては、5分程度の「スキマ時間」があれば1章が読めると思います。
(内容のレビューはまた、別の機会に書きます。)

500円という価格設定も、有料アプリや、ウェブの有料記事の値段を意識した値段かと思います。既存の新書の、800円で300ページ程度という基準から決めた価格設定ではないよう思われます。

最後に「スマート新書」という名称。言わずもがな、「スマートフォン」が念頭にあるのかなと。

ただ、紙の本としても、読みやすさのツボは押さえているなと感じました。めくりやすさや、紙の質感、フォントの雰囲気も、読む上でのストレスや違和感はありませんでした。
(あえて言えば、表紙がもう少し重めの紙の方が、わたしは好きです。)

本当、色々とよく考えて作られているなぁと、感じ入りました。

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一方で、ふと思ったのが、「あぁ、もうドストエフスキーの時代は、決定的に終わったのかもしれない」ということです。

少し説明が必要ですよね。
ドストエフスキーの時代というより、「ドストエフスキー的なイメージの作家たち」の時代という方が適切でしょうか。重厚で深遠なテーマを、真正面からとりあげて、長大な物語を生み出す作家たちです。

むかし、ロシア近くの国で冬を過ごしたことがあるのですが、とにかく暗くなるのが早いんです。8時過ぎに上った太陽が14時には沈んでしまう。夜が長くて、寒い。
ドストエフスキー的な作品群って、この寒くて、長い夜と密接に関係しているように思います。家に閉じこもって、じっくりと思いを巡らせないと、生まれてこない作品。

でも、この、暗くて寒い閉じられた穴倉は、おそらくもう存在しないんです。
ラジオができ、テレビができ、さらにインターネットが普及したことによって、閉じられた屋内であっても、閉じられた世界ではなくなったから。さらに、スマホによって、いっそう「いつでも、手軽に」開かれた世界へと出ることができるようになったから。

もちろん、テレビを見なかったり、インターネットに接続しなかったり、携帯を持たなかったりして、閉じた世界を作ることはできるけれど、それはどちらかといえば、「あえて開かない」という意思をもって選択するものになった。

だから、もう、この開かれた世界では、意図なしには、家に閉じこもって、じっくりと思いを巡らせるタイプの、ドストエフスキー的な作品は、生まれてこない。

スマート新書を読んで、こんなことを考えたのは、たぶん、繰り返すようですが、これが「スマホをベースに設計した紙の書籍」だからです。

書籍を設計するときの基準が、もはや既存の紙の書籍ではなくて、「スマホ」という「手軽に開かれた世界の象徴」に移っていることを、この書籍を出版することによって、高らかと宣言されたように感じたのです。

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と、これらは、本を手にして思ったわたしの感想です。
出版の正確な動機や狙いを知るには、ピースオブケイクの方々のnoteを読む方がよほど適格だと思うので、そちらをどうぞ(笑)

また、「閉じられた世界じゃないと、ドストエフスキー的な作家が生まれない」というのも私の偏見かもしれません。「生まれづらい」とはいえるかもしれないけれど、「昔ながらの作家」が育つ環境は、今も存在しているのかもしれません。

そもそも、作品とは時代性や地域性を反映するものなのだから、いまの時代にはいまの時代に即した作品が生まれるのが当然であり、生まれなくてもかまわない、ともいえるでしょう。

この文章を通じて、何かを否定し攻撃するような意図は、全くありません。
ただ、とにかく、色々と考えたくなるほどに、スマート新書の試みには、心を動かされたのでした。
いいもの、新しいこと、応援したいです。

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