夜道に。そして

あなたのことを確かに愛していた。


涙を浮かべ帰り道を歩きながらそう心の中で繰り返しつぶやいていた。あなたとの楽しい日々は私の人生に色を添えてくれたけれど、私はあなたの人生に色を添えられたのだろうか。もしそう思ってくれているのなら、この上なく嬉しいことだろう。
私はあなたに想いを寄せて勝手にフラれた、ただそれだけのことかもしれなくて、でも認めたくなかった。それらしい理由を見つけようと必死になっている自分がカーブミラーに映っていた。
どうしてあなたなんか好きになってしまったんだろう。そんなこと思いたくもないのに、そんな感情ばかりが浮かんできて、そんな自分が嫌になった。馬鹿馬鹿しいのはわかってる、わかってるつもりなのに悔しくてたまらない。何が悔しいのかは今はまだわからない、明日になればわかるかもしれない。けれど今だけはわからなくていい。わかってしまったら悲しくなってしまいそうだから。

きっかけは惰性で見てたインスタだった。あなたが嬉しそうに相手と映っている写真。ただそれだけなら確証もなにもなく済んでしまったものを私はあなたのページを開いてしまった。そこにあった一文に私は打ちのめされた。疑惑が確証に変わってしまったのだ。
「好きな人を疑わない」はちっぽけな私にもある数少ないポリシーだったはずなのに疑ってしまった。一度でも疑ってしまうといままでのあなたとの思い出へも疑いの目を向けてしまいそうになって、慌てて踏みとどまった。

気の知れた友人に好きな人に恋人ができた。そう告げると悪い人だねと言われた。悪い人、そうかもしれない。でも、あの人がくれたものはそんなことを覆すくらい私にとって大きくて愛おしいものばかりだった。
昨日私にくれた言葉も先週私にくれた言葉も嘘だったのなら、いっそ忘れてしまった方が楽なのかもね。でも、そんなことはできなかった。「何年も想いを寄せていたからそんなすぐ忘れられない」とかそんなよくある言葉で片付けるほど安くはないはずだった。でも友人にやっとのことで発せられた言葉はそれだった。悲しくて悔しくて涙が出た。友人はなにも言わずそばにいてくれるだけだった。ただそれだけだったはずなのにとても心地よかった。
悲しい言葉ではなにも変わらないと誰かが歌っていたけれど、鎮痛剤程度には効いた。あなたの嘘を愛そうと思った。あなたとの思い出をなかったことにはできないけれど嘘にならできる。そう思えた。

さよなら、ありがとう。そう口にしてワンルームの扉を開ける。
私の世界はここだけなんだ。

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