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しあわせのパン
夜にふと2階の窓から見えた月がとても綺麗で、外に出てしばらく眺めた。雲がほとんどなく満月に近い月は強い光を放ち、夜を煌々と照らす。
月を見ながら、この作品の中に登場する『月とマーニ』という絵本が思い浮かんだ。
「大切なのは 君が、照らされていて 君が、照らしている ということなんだよ。」
ずっと自分にとってのマーニを探し求めていたりえさんと、不安定な心のりえさんをそっと見守る水縞くんの間にある雰囲気が好きだ。
パンとコーヒー、二つを通してお客さんに寄り添う場面はとても自然で優しい。
「カンパーニュが、焼けました」
「どうぞ。濃い目の珈琲は、おなかにドンッと力を投げかけてくれますよ」
映画の水縞くん(大泉洋さん)とりえさん(原田知世さん)のしゃべり方と表情が柔らかくて素敵なのでぜひそちらも見てほしい。
季節ごとに訪れるお客さんのエピソードは、騒がしかったり悲しかったりと違いはあるが、どれも二人の人間の間にある相手への想いがつながっていく。この物語は「二人」がテーマなのかと今書きながら気づいた。
「もがいたことのある人間じゃないと、幸せはないと思うんです。もがいてもがいて恥かいて。いいじゃないっすか、香織さん」(トキオ・香織)
その瞬間、未久はもう涙を止められなかった。パパの腕の中で思い切り泣いた。もっと早くこうしたかった。
ずっとパパと一緒に泣きたかった。(未久・パパ)
「お父さん、……ごめんなさいね」
「お父さん」「……ありがとう」(史夫・アヤ)
パン好きとしては、物語に登場する美味しそうなパンを想像しながら読んでいた。それにりえさんの作る料理の描写も本当に美味しそうだ。
クグロフ、栗のパン、お豆のパン、なすとズッキーニのシャキシャキラザニア、かぼちゃのポタージュ…
あたたかな食事風景は心の幸せをもたらしてくれる。
出典:『しあわせのパン』三島有紀子
ポプラ文庫
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