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トイレット

映画はそこまで見るわけではなく、でも衝動的に見たいなと思ったときに作品を漁る。


この映画は『かもめ食堂』の監督・萩上直子ともたいまさこのタッグが再来した作品だ。フィンランドを舞台にした日本人の物語だった『かもめ』とはうって変わり登場する日本人はもたいだけ、全編英語という全く雰囲気の違う内容だった。
なにより、『かもめ』の時はチャーミングで可愛らしいおばさまだったのに今作はほぼ真顔でしゃべらない"ばーちゃん"という、キャラクターのギャップがありすぎる。全くの別人である。


モーリー、レイ、リサの3兄妹と"ばーちゃん"が言葉が通じなくても心を通わせていく様は、最初はどうなることやらとドキドキし、後半になると自然と顔が綻んで穏やかな気持ちで見ていた。

レイは冷たい奴と兄妹からは言われているが、実際は家族みんなのことを大切に思っているのはかける言葉から滲み出ている。
兄妹も"ばーちゃん"も同様にレイを家族として大切にしていることも然り。

だから?
でも 今まで知らないくらい本当の家族だった それで十分だろ? 

作中字幕より

レイの同僚のアグニがちょっと厄介な奴だったのに、レイがショックを受けている時のこの言葉には「いいこと言うじゃん」と見直してしまった。
その通り、事実を知ってもこの家族は変わらなかった。


もたいの、しゃべらないからこその表情の演技がとても繊細だった。少しだけ広角を上げたり、目でギョーザやタバコを勧めたり、それだけなのにちゃんと伝わる。彼女の実力を見せつけられた。存在感も登場人物の中で一番だった。

もたいが作中でしゃべったのはたった一度。この一言が最高にかっこいい。

「モーリー」「クール」(親指を立ててグッドと示す)


作中の音楽も良かった。モーリーの壮大でなめらかなピアノの演奏、リサのロックで激しいエアギターと、耳でも楽しめる。
個人的にはモーリーの使うミシンの音も小気味よくて好きだった。

レイが物語の中心的立場ではあるが、モーリーもリサもそれぞれに自分自身を超えていく様子が描かれている。どのストーリーも"ばーちゃん"がいてこそだったことを考えれば、やはり主役は"ばーちゃん"である。


最後に、レイがウォシュレットを使うシーンが面白くて、日本人には慣れているものでも海外の人や初めて体験する人はあんな反応をするなんだなぁと不思議な気持ちになった。

"ばーちゃん"が焦がれた温かい便座が、これからの3兄妹をあたたかく見守ってくれることを祈る。


出典:『トイレット』(2010)
   荻上直子 監督、ショウゲート=スールキートス 配給

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