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登山中にスマホを落とした顛末

実際あるあるの話なのだけれども登山道で大事なスマホを落としてしまったのだ
休憩した時に地面に下ろしたザックの上にスマホを置き柿の種の袋を出して食べ終わってからそのまま背負って出発してしまった
スマホはザックの上から滑り落ちたのだった
しばらく歩いてから落としたことに気がついた
もう少しで目的地の風吹大池に到着だったのでここで引き返して探しに行くよりは帰りに下山しながら探せば良いと判断した
往復で少なくとも一時間のタイムロスが出る
夏のこの時期にそれは良くない
午後になると天候が不安定になりやすく落雷のリスクもあり危険なのだ
しかも探すのに手間がかかればその後の行動に焦りが出る
時間が経てば簡単に見つからないかもしれないという不安も心によぎったが気持ちを切り替えて登ることにした
ああやってしまった
という後悔はもちろん心の中にあった

風吹岳はマイナーな山なのでこの日登山道ですれ違ったのは一人だけだった
運良く見つけてくれて回収し下山した可能性もある
そうなれば引き返して探しても見つかりはしないだろう

曇り空で遠くの展望は望めない日だった
朝のニュースではきょうも全国的に危険な暑さと伝えていた
山は涼しいとは言え風吹大池のほとりに立ったときには汗で身体はびっしょりになっていた

予想していたより大きな池だった
湖と言ってもよいくらいだ
池の畔にポツンと佇む風吹山荘から時計回りに歩いた
北側には高層湿原が広がり池塘が点在していた
樹林帯に囲まれた秘密の場所
そんな雰囲気

途中の分岐からは北へ蓮華温泉、南へは白馬大池を経由して白馬岳に向かうことができるここは北アルプスの北端に位置する

訪れる人こそ少ないが神秘的な静かさに魅了された
八月に入ると長野県の山はどこも混み合う時期なのにここは忘れ去られたような場所だった
この日は風吹岳の山頂まで足を運ばずに池を周回するだけにした
山小屋まで戻ってザックから昼食のサンドイッチを取り出して食べた
出てきた小屋番の人と会話した
小学生の息子と二人で番をされていた
子供にとってはお父さんと一緒の良い夏休みの過ごし方だろう
夏の間しばらくは麓の家族と別れて暮らすことになるが時々下山しては食料などを背負って上山を繰り返す昔ながらの歩荷で維持している山小屋のようだ
一人で切り盛りする苦労はあるが人との交流の時間を何より大切にする気持ちがこちらに伝わってきて楽しいひと時を過ごした

私の方は久しぶりに帰ってきた一人娘との登山
そんな時間を持てることはスマホ一台失くすことよりも遥かに価値がある

モノと時間 語らい

消え去るものと永遠に心に刻まれる記憶

お金で手に入れられるものと決して手にすることのできないもの

それを考えさせられた小さな山旅だった

それから三日後私は再びこの山に帰ってきた
そしてスマホを発見したのだ
彼は圏外の山中で静かに待っていてくれた

#風吹大池 #登山 #夏の思い出 #山小屋 #スマホ #落とし物 #家族

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