嗚呼、繋がりは深き-「歌に恋して評伝・岩谷時子物語」（田家秀樹著/ランダムハウス講談社刊）

コーちゃん＝越路吹雪。曰く岩谷時子と、聞いて浮かぶ人だろう。
竹下景子が演じていた。松下由樹も演（や）っていた。舞台であれば、高畑淳子。ピーターこと池畑慎之介と共に、息もピッタリだ。何回か再演も頷ける。
越路吹雪の人となりを、わたしは余り良く知らない。宝塚の大スター、夫が作曲家、胃癌が原因で、還暦前に他界。

　　＋♬あなぁ～たぁ～のぉ、その腕でぇ～（後略）

物凄い声量と、真っ赤なドレスで強烈なインパクトを与える人、程度である。偶々昔、テレビで見た。録画だぅたと思う。
陸上？それとも水泳をやってたの？ツガガール時代の賜物か？
実はバーベルが隠れた趣味で、毎日持ち上げ鍛えていた？とすら失礼だけど思われる、マイクを持つ右腕に太さを感じる人でもある。
越路吹雪。
新潟県の出身だから、命名された芸名なのかももはや知れぬ。
「コーちゃん」
「越路」の「こ」からのものだからではなく、本名から来た愛称なのだ。

名マネージャー。影であって、防波堤。岩谷時子。
この人がいたからこそ、越路吹雪は存在した。深く知りたいなぁと思った矢先に、出版された。元々は毎日新聞の芸能欄に連載されたものを、編集。
全面的に見直したと書評にもあり、著者も最後に記している。即買いするのに、決まっているではあるまいか。
ドキドキしなかむら、ページを開いて読み進める。

本文に入る前、数ページに渡って掲載される写真の多さに、まず驚かされる。一人であったり、越路と一緒であったり、他の人々と共にであったりするけれど、いつも笑顔。
「写真提供者　岩谷時子」となっているから、本人が提出したものであろう。掲載される本。
不特定多数。実に多くの様々な人が見る掲載本に、ぶすくれた自分の写真を載（の）せようという人はいないだろうから当然なのかも知れないが、各々の笑顔が非常にいい。
カラーでないのが何であるが（カラー写真が、なかったかも）、もんのすんごく輝いている。まるでギャル！
「あなたは私の胎内にいる」とまでの表現で、詩に書かれた越路との写真は、特にめちゃくちゃ素晴らしい。殆どギャル！もうギャルだわ！

「たまたま」「偶然」しかし、運命の糸。
「赤い糸と糸で」
男女の中で言われるが、男女とか、年齢。大げさに言えば人種とか。
「たまたま」
から育まれるもの、きっかけとなるもの、その後を何となくでも決定づけたり、方向性を決めるようなものには、働いているのではなかろうか？
「たまたま」「同じ時期に」いた忙しくない編集部員と、いまいちなツガガールの卵が、暇が縁で（？）雑談するようになり、サインの相談を切っ掛けに親しくなって、方向性が定められてゆくのである。
昭和27年。作詞家。
後に岩谷の職業として紹介される初めても、越路を通して。偶然にも、のちに舞台で越路を演じる事となる、池畑慎之介が生まれた年だ。

「10代の頃から見ていましたからね」
インタビューに答えて池畑は言うけれど、彼の１５，６歳。
家業が嫌さで、家出をし、妖艶な少年・ピーターとして芸能界に入る前後の
彼の時期は、岩谷にとって最初の絶頂期である。
「ザ・ピーナッツ」やら加山雄三。いずみたくとも交流を持った。
郷ひろみがあり、沢田研二。
昭和４０年代、５０年代の歌謡曲時代。
男性では故・阿久悠がいるが、女性でこれだけ長く、歌謡界に君臨。
その時だけでなく、歌い継がれる作品、誰もが口ずさんでしまう素晴らしさを持つ作品を作る人は、「他にいないでしょうね」
酒井政利も断言する。
しかも、故・阿久悠は昭和12年生まれだが岩谷時子は、既に他界の祖母。
わたしの祖母と同じ歳。大正一桁生まれだ。

本文に入る前、前述したキャル・時子の写真特集（？）。本田美奈子、との交流記述。以後はデビューしてからのほぼ10年ごと。
時代・時代を追いながら、岩谷に焦点を当て、最後の章では、ミュージカル。「レ・ミゼラブル」開演時代から、本田美奈子.との事によって締め括る、優れた一冊だけど、一寸の不満もないわけではない。

「アニメーション」
多くが大好き、狂わんばかりにわたしも見ていたアニメーションの主題歌も、幾つか岩谷は手掛けてもいる。
「メルモちゃん」や「リミットちゃん」の主題歌作詞だ。
「メルモちゃん」には多分、手塚治虫が関係しよう。「リボンの騎士」は、宝塚から着想。少年時代に宝塚市に住み、宝塚歌劇団を見ていた手塚と何らかの関係があっただろう。
だからできれば、著者にも方向性を見て欲しかった。歌謡曲ばかりではく、アニメ主題歌迄をも作る岩谷時子の才能を。その主題歌を、世代的に故・本田美奈子、は歌っていたかと思われる。

「そうか、アニメを作っていたのか」
調べる内に、出て来たのに違いない。
「だったら入れるか」あって欲しかったのだが、一切ないのが残念だ。わざと無視していったのだろうか？
「岩谷時子がアニメ、ねぇ」
ガラじゃないよな、無視しよう。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　＜了＞

#創作大賞2023