人間って、妬(や)くのねぇ<1>~松本清張の巻き~

松本清張は、秘かに三島由紀夫をライバル視していた。
と、思う。
ライバルと言うより、嫉妬。妬(や)く対象であったかも知れない。
推理小説と純文学。分野こそ違えど、書けば売れる。
じゃんじゃん売れてる売れっ子作家。日本屈指の、大作家。
日々是、仕事、仕事で予定表がギッシリの、三島も松本も作家である。
(俺は、三島だ。推理小説界の三島由紀夫)
時に呟き松本は、満たされてもいただろう。
それでも松本は、秘かに三島に妬(や)く部分があった。
何をか?道程。育ちからの背景だ。

「書けなくなったからだ」狂気の沙汰、とまで言われた例の自決。三島が自決した理由を、よってこの一言で片づけた。(やっと、やっと俺の前からライバルが消える。自らいなくなってくれた)三島自決の理由をどうこう探るより、安心感が大きかった。余りにも違う。
「昭和初期・山の手・学習院」三島を飾る代名詞であろう。
病弱な上に、徹底的なお婆さんっ子として育てられ、小学校から学習院(これも祖母の強い意向であったとか)。東大法学部を卒業し、就職先は大蔵省。既に将来を決めていたから、1年そこそこで退職。専業作家となった瞬間から、売れっ子作家となっていた。
対し、松本は暗い。
転々としながら育った。以前と同じよう大きさの家や、狭い家だったりと時々によって変わった。一人っ子である。
成績は良かったが、旧制中学へゆかせて貰えず、10代から苦労の連続。
ひょんなことから朝日新聞社へ入社するが、また苦労。学歴による様々な弊害だ。小説を書きながら勤め人時代も長く、「あの野郎!」
(チッ!東大坊やめッ!)(学習院野郎めッ!))
悪までわたしの推測だが、様々な分野で活躍する三島。
本業以外にもテレビタレントとして、演出家として、モデルとしての姿を見る度に、妬んでいたのではなかろうか?
(いつか、いつかどうにかしてやる!)(何とかしてやろう)と。

例の自決。
三島が自らの命を絶ち、世間が大騒ぎした時、だから冷たく。突き放していったのだ。「書けなくなったからだ」。
「狂気の沙汰」漏らした御仁もありましたなぁ。
能力が同等。にも拘らず、待遇その他、自分が劣ると知った時、人は妬んでしまうのである。ヒトって妬む動物なのね。
                              <了>
























#創作大賞2023

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