その行動に肖(あやか)ります

大好物のヒレカツをパクつきながら、娘が言う。
「返す返す思うんだけど、ウチって本当に金運とくじ運だけはいいよね」
3日前に届いたお食事券1万円分を使って、久々に顔を見せた娘と食事だ。
その一週間前にも、買い物帰りの福引で、5千円分の商品券。前者は夫で、後者はわたしだ。
「生まれが七赤金星で、五行が金。おまけに金森って所で生れたんだから、カネに塗れて育つ運命にあるんだよ、俺は」
テレながら夫が答える。一口だけビールを口にする。
娘と同じメニューである。
「直ぐそこに来るんだから」
ロースカツに舌堤を打ちながら、軽くわたしが否定をする。
開店直後に入店するのは、いい気分だ。
客が誰もいないから貸し切りの気分が味わえるし、店員さんも愛想がいい。
否定はしつつも、嘘ではなわと本気で思う。
何度も何度も娘には、言って聞かせてあるから、諳(そら)んじでいるのであろう。結婚から出産、住宅購入資金に至るまで。全て、夫の当選金。
臨時収入で賄えたのだ。

中肉中背、目鼻も普通。
夫は普通の勤め人だ。勤め先こそ県庁だけど、可もなければ不可もないといった存在らしい。出世も早からず、遅すぎずといった感じである。
けど、金運とくじ運だけは異常にいい。
結納金も競馬で万場券が大当たりした所から出したものだし(夫は、早くに身内をなくしていた)、結婚費用は宝くじの当選金。
新婚旅行は、両家にあった古道具の2、3が高額で売れたからゆけた。
住宅購入、全額とまでは流石にゆかなかったけど、軽く半分以上は賄えた。一緒に買った2,3種類の宝くじが夫婦揃ってラッキーな結果となったのだ。
そろそろ完食かと思える量を目の前に
「ママと結婚したから、ますますパワーアップしたんだよな」
チラとわたしの反応を見つつ「沙都子(さとこ)だって、悪く無いだろ。秀光(ひでみつ)君とも巧くいっているようだし」
「まぁね、早く子供が欲しいみたいだけど、もう少し2人でね」
デザートのお品書きに眼をやりながら、答えている。
呼鈴を押し、夫はぜんざい、娘とわたしはクリームあんみつを注文した。

お茶を一服。ランチに近い時間となり、客の出入りが聞こえて来る。
「して、分析して見たのよ。このラッキーさ。何故故(なぜゆえ)ここまで金運とくじ運がウチはいいのか?強いのかと」
急に娘が言う。前のめりになる。
「ほほぅ。で?」
ぜんざいの蓋を開け、夫が聞いた。
「お掃除よ、お・そ・う・じ。パパもママも、よく掃除してたじゃん。部屋の隅っこの綿埃とか、台所とか、お風呂場とか」
「ああ」
わたしも夫も、思い出していた。共に綺麗好き。経済的に余裕もなく、暇だったので、時間があると良くそこいらを掃除していたのだ。部屋の隅の綿埃が耐えられず、風呂場や台所の水滴一滴が許せない。
外食や出掛ける休日もあったが、割合として圧倒的に多かったはずだ。
「秀光さんのお友達に、そういうのに詳しい人がいてね」
「ふむふむ」
デザートを堪能しつつ、娘に耳を傾ける。
「お掃除って、金運を招くんだって。清潔になるから健康運んも呼ぶとも言ってたわ。ウチの実家が、ってざっとを説明したら、それはいい、って」
「七赤金星の人がやると特に、ってか?」
「それはどうだったかな?」
夫をすらりと交わした娘が、真面目に言って来た。
「だからわたしもこの間から、秀光さんを教育してるの。お掃除すると金(きん)が喜ぶ、金運を招く、って」
「いいんじゃないの、ねぇ、あなた」
「そうだな」少し考え、夫は
「けど銀行員なんだから、それなりには舞い降りるだろ、金運が。余った分は是非、ウチに」
「それなりなんかじゃ、ダメなのよ。満ち足りるぐらいでないと。兎にも角にも、肖(あやかり)ますから、その行動を。悪しからず」
「じゃっ、場所を変え祝杯と行こうか。ファミレスにでも」
「やっったぁ~っ!」
わたし達は店を後にした。


<了>


#創作大賞2023

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