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中編「他人の膿」⑸

今日は久しぶりのアルバイト。私はレストランのデータ入力の仕事をしている。文字通りデータを入力する。基本はずっとパソコンをカチカチしている。本店で研修を受けて、この店舗に配属になった為、ここの店舗のデータ入力は私しかいない。だから基本的に放任主義で、シフトを出すというよりは、行きたい時に行ってタイムカードを切り、事務所の棚に溜められた名刺や顧客情報、予約概要などの書類をパソコンに打ち込んで、帰りたい時にタイムカードを切って帰る。基本ここの人たちは、ウェイトレスやキッチンの方々だから、私がどんな仕事をしているのかよくわかっていない。役者をやっていた時は勿論、就職活動をしている私にとってはとても自由でありがたい仕事である。
「あ、来たんだ~。久しぶり~」
事務所に着くと、店長の山本さんがパソコンで誰かにメールを打ちながら、声だけをこちらに向ける。
「すみません、最近あまり来れてなくて」
私は山本さんの隣に座り、もう一つのパソコンを開く。
「全然~いつも助かります」
山本さんはいつも私に優しい。というか、ここの人達は基本私に優しい。でも山本さんは実は背中に龍の刺青が入っていて昔は結構ヤンチャだったと誰かが教えてくれた。それにこの人は他の店員にはかなり厳しいし、かなり怖い。前に事務所の廊下で山本さんが新入社員に手を出す勢いで怒鳴っているところを見たことがある。この店は上下関係がしっかりしている、私以外は。この間、ウェイトレスのアルバイトの子に聞いたら「中村さん以外は時間的にも内容的にもデータの仕事をやれる人がいないから辞められては困る。だから機嫌を損なわせないように、と言われている」と耳打ちしてくれた。立場や関係で対応が変わる。そんなのは当たり前だし、私にとってはありがたいけど、そんな私のことを恨んでる人がいる気がして、少しだけ怖い。
データを打ち込んで、私は昨日少年に言われたことを考える。自分らしく生きる。一応、就職については考えて考えた上で改めて受ける所を決めてみた。夜中のうちに会社のエントリーシートを記入し、メールにて提出した。そして今朝アルバイトに行く前にそこの会社からメール連絡があり、明後日に早速面接をすることになった。でもそれ以外には、どう生きるのが私らしいのかと思って、とりあえずいつもしている割と濃いめの化粧をやめてみたり、スマートフォンの中の、お付き合いで撮ったいらない写メやプリクラを一気に削除してみた。後はインスタグラム、ツイッター等のSNSをやめてみた。まぁこれらはほとんど更新してなかったけれど。自分らしくいられる場所、それはやっぱりあの子と一緒にいる時間かな、って思った。
星野とは、基本的に部室でしか会話をしない。部室以外の大学内で見かけても会話はない。私は私で甘ったるい臭いをぷんぷんさせている連中と一緒にいるから、彼女は察してくれてあえて声をかけてこない。でもその度に彼女は私に哀れな眼差しをしてくる、気がする。星野は基本いつも一人で授業を受けている。それなのに私よりも格段に充実した大学生活を送っている気がする。
「夕、知ってる?酸素って人間の体に害があるんだよ」
ある時、部室で星野は言ってきた。
「酸素?酸素がなきゃ人は生きていけないのに?」
「今日講義で聞いたんだよ、酸素があるから人は死ぬんだって」
「ふうん」適当に聞いている私を気にせずに続ける。
「酸性に鉄を入れると錆びるじゃん。どうやらそれと同じなんだってよ。人間は生きていくと老いるでしょ?あれって錆びるのと同じ原理なんだって」
「どういうこと?」私は星野の方を見て聞いた。彼女の目はキラキラと輝いていた。私はその目が忘れられない。
「だから、酸性が鉄を錆びさせるように、酸素は人を老いさせるんだよ。老いは錆なんだって。酸素と酸性、「酸」でしょ。すごいよねぇ」
得意げに話している星野は大学でしっかり学んでいるんだなと感心した。私は講義中、基本寝ていたり、真面目に講義を受けると「ダサい」みたいな周りの風潮で他人の目を気にして、ただスマートフォンをいじったり、その連中としょうもない話をしたり、とにかくつまらなかった。でも星野の言葉は常に透き通っていた。
「酸素が無いと人は死ぬのに、酸素があるから人は死ぬって、なんとも言えないよね。面白いなぁ」
星野に会いたいな、と思った。部室じゃなくても、他の場所でも星野に普通に会いたいし話したい。私は普段しない貧乏ゆすりをし、どうしても心の胸騒ぎを止めることができなくなった。仕事中だけど、山本さんもいつの間にか隣の席にいなくなっていたので、私は彼女に咄嗟にLINEした。
『今日夜、暇?』
返信はすぐ来た。
『うおお、どうしたんだい?いきなり』
『なんとなく、たまにはご飯でもどう?』
『夕からの誘いなんてなんか怖い(笑)。せっかくの誘いなんだけど、今日バイトなんだよね』
『例のカレー屋さん?』
『そそ』『ふうん』
私はLINEを閉じた。集中力は完全に切れてしまったけれど、パソコンに目をやってマウスを適当に動かして、とりあえず仕事している風を出した。バイトじゃ、仕方ないな。仕方ない。まぁ、いいか。一度、深呼吸をする。
そんな時、また星野からのLINE。
『じゃあ来る?』『え?』『バイト先。店の中で待っててくれれば21時とかには終わるよ』
少し考えたけれど、私は恥ずかしさを隠してLINEした。
『じゃあ行こうかな』『うん、後で住所送るね~』
よし頑張ろう。私は自分の顔をパンパン叩いてから、思いっきり伸びをして、酸素を大きく吸ってから、仕事を続行した。

星野のアルバイトしている神保町のカレー屋は隠れ家的な場所にあり、住所で探しても見つけるのに結構苦労をした。神保町にはあまり来ないけれど、どこもかしこも古本屋でなんだか自分が賢くなったような錯覚を起こしそう。
着いたけれども店の中に入るのを躊躇う。緊張していた。部室以外で星野と会う。それだけのことなのに、お店の前で自分の足が震えているのを感じる。怖くなり、帰りたくなった。でもここで逃げたら駄目だ。絶対後悔する。少年との昨日のやり取りをスクロールして今一度読んでみる。『自分らしくってどんな風なのかな』『自分が思うままに、ということだと思うよ。他人とか結果とか関係なしに、自分がこうしたいって思う道だよ、きっと』自分が思うままに……。星野に会いたい。話したい。そう思ったから、私は店の中に入った。
わかりづらい所にあるのにも関わらず店内には結構人がいた。インド人の店員さんに案内された端っこの席に座って辺りを見渡した。するとそこには店の制服を着ている星野の姿があった。星野はカレーやナンをお客さんに運び、オーダーを取り、臨機応変に体を動かして働いていた。私はその時、星野も私の知らない別の世界でしっかり人と共存して生きているんだということに驚いた。そして私は星野という存在は、部室の中だけで生きている妖精みたいに思っていたんだと、その時にようやく気付いた。そして外の世界にいる星野を見た瞬間に私はたまらなく寂しくなってしまったのだった。星野は私に気付いた。
「おう」「おう」なんとなくお互いドギマギしているのがわかった。
「注文何にする?」
「あ~、おすすめある?」
「じゃあ、私がよく食べるのにしましょうかしら」
「そうしてもらえたら助かる」
「辛いのは?苦手?」
「得意だよ」
「はい、かしこまりました~」
それから数分したら、カレーとナンが机の上に星野の手によって置かれた。
「お待たせしました~これ美味しいよん」
「ありがと」
「あと三十分程度であがれるから、食べて待ってて。ナンはおかわり自由だから」
私はコクンと頷いて、星野は仕事に戻った。カレーは良い具合に辛くて、良い具合に甘かった。正直、期待はしていなかったが、とても美味しかった。星野と何を話そう。自分からここにきておいて「何を話そう」なんてどうかしている。恋する女子高生か、私は。とりあえず私はナンをカレーにつけて胃の中にひたすら入れた。何かしていないと、どうにかなってしまいそうだったから。そんなこんなとしているうちに三十分が過ぎた。

「お待たせ」
私服に変わった星野が、私の前の席に座った。するとインド人の男性が星野に声をかけてきた。私を席まで案内してくれた男性だ。
「アレ、ホッシー、モウ終ワリ?」
「イエス!アジェイは?」
アジェイと呼ばれた男性は店内のBGMに合わせて身体を小刻みに動かしながら答えた。
「私ハ、最後ハ、イマス」
「アジェイ、違うよ。「最後は」じゃなくて「最後まで」だよ」
「最後マデ、イマス」
「正解!アジェイ、この子は私の友達だよ」
彼は私に視線を向けて、手を広げて、オーバーとも思えるリアクションをする。
「オォ!友達?Good!私ハ、アジェイ、ト言イマス!」
私は咄嗟に立ちあがった。
「あ、中村 夕と言います」
「アッカムラ You?」
「ナ・カ・ム・ラ・ユ・ウだよ!」
星野が訂正してくれた。
「オォ!ナカムラン、ヨロシク!」
「宜しく」ナカムランではないけど、まぁいいか。私はアジェイと握手を交わした。
「ユックリシテクダサイ。ホッシー、今カラ、マカナイ、持ッテキマス」
「ありがと~アジェイ」
アジェイは親指を立ててグッドの形を私達に向けてから、仕事に戻った。
「ホッシーって呼ばれてるの?」
「うん、かわいいでしょ」
「意外だね」
私は残りのカレーとナンを食べた。
「で?急にどうしたんだいワトソン君」
「……なんとなく」
「なんとなく?」
何と言っていいか分からず戸惑っていると星野が言った。
「へー、そっか。寂しかったん?」
私はカレーを吹き出しそうになった。
「ち、違うよ!ほ、ほら、基本的に部室の中だけしか私達会ったこと無かったじゃない。だからたまにはご飯でもどうかなって思っただけ……だよ、うん」
「あれ?過去に一度ご飯行ったことあるじゃん?」
「え?ないでしょ」
「あるよ、一年生の時に。まだ会って間もない頃に、夕の知り合いの人達と一緒に行ったよ」
私は記憶を遡る。星野と私の知り合いって…、相性なんて絶対に合うわけがないのに、そんな会開いたかな。
「正直、まったく面白くなかったけどね。でも、夕は後日私のやってた一人遊びの話を聞いて大爆笑してた」
「爆笑?」
「うん。私、その子達が苦手なタイプだって直観で感じた。そして案の定、話している会話がどうしようもなく興味が湧かなくて。だからその子達の話を聞いて「ヤバい」「ウケる」「マジで」の三言だけで、どこまでこの場を自然に切り抜けられるかを途中で決行してみたら、最後の最後までいけたって話」

あ、思い出した。私が大学に入学したての時に学部のギャルっぽい子に誘われた会だ。私はその会に星野を誘った。特に理由はなかった。彼女は入学当初からださい眼鏡をかけていたし、化粧も一切していなかったが、肌はとても白くて綺麗で、顔の作りも整っていたから、その子達と一緒でもなんとなく大丈夫かなと感じてしまった。そして思った通り、彼女は溶け込めていた気がした。でも無理をしているとも感じた私は部室で彼女に謝ったのだ。
「星野さん、ごめんね。あまり楽しくなかったよね」
「うん、つまんなかった」
彼女はズバッと言った。でもその後すぐに悪い笑みを浮かべて柔らかい口調で言った。
「でも、良い研究になったからいいよ」
「研究?」
そして、先ほどの「ヤバい」「ウケる」「マジで」の三言の法則を生き生きと語り出したのである。その会のことを思い返してみると、確かに星野は会話の中でその三言しか発していなかったような気がする。それを聞いて私は笑いが止まらなかった。この子は相当変わっているけれど、私はこの子のことが本質的に好きだと思った。その頃からかもしれない、私が星野を呼び捨てで呼ぶようになったのは。それからこの約三年間、星野の奇天烈な発言や発想がたくさんあったから、その会のことは埋もれて忘れていたんだと思う。

アジェイは、星野の目の前に私と同じ種類のカレーとナンを運んできた。彼女はそれを食べながら私に言った。
「夕のことも最初は苦手だったけどね」
「え?」
「香水臭かったし、胡散臭かったし」
「胡散臭いって」
「だってさ、こんなイケイケな雰囲気な子がなんで映画研究サークルに?って思うでしょ。胡散臭い以外の何ものでもないよ」
いつもの星野節は相変わらず健在だ。
「でも私、あれこれ構わず批判するのも嫌いなんだ。観てない映画の批判をしたり、曲聴いてもいないのにバンドやアーティストを批判したり。だからあえて近づいてみた」
「そんな理由で私に声かけたの?」
「うん。とりあえず性格とか諸々知った上で批判してやろうと思った」星野はカレーを美味しそうに食べながら続けた。
「だから部員の中で一番苦手と感じたから声かけたんだよね。この子は多分こんなサークルすぐ辞めちゃうだろうと思ったから。それが、最終的には逆に私達だけになっちゃったけどね」
聴いているうちにイライラしてきた。私もあのギャルの子達と同じ。星野の研究対象だっただけなんだ。
「でも良かったよ、声かけて」
「は?なんで?」私はあからさまに怪訝な態度をとってみたけれど、この子は一切気にしない。
「だって私にとって、それは衝撃的な誤算だったから」
星野はカレーを食べるのを一度止めて水を一回飲んで言った。
「正直、どうせ思った通りの中身の子なんだろうなって思った。誰彼構わず男と飲みに行くとか、クラブや海に行ってナンパされるのを待っているような子なんだろうなって。でも違った。それに夕という存在は私の中で大きい存在になった。だって最初に思っていた印象とはまるっきり違うんだもん。そんなのずるいなぁって思った。あなたの中身は、もっともっと繊細で、不器用で、壊れやすくて、でもとても優しくて、相手のことをよく見てる。笑うとかわいくて、怒るともっとかわいくて、素でいる時が一番魅力的。それが中村 夕。だから武装する必要なんてない。そのままで綺麗なのにって思ってた」
「あんたね……、」そんな恥ずかしいことをよく平然と言えるな。
「だから、今日のメイクはとてもいいと思うよ」
あ、化粧を変えたの気が付いたんだ。
「でも厚化粧で香水臭かったから、仲良くなれたみたいなもんか。でなければ話しかけてなかったかもだし」
「さっきから聞いてたら、あんたの発言、勝手だよね」
「そんなの元から知ってるでしょ?私は常にフリーダムなんだよ」
イライラしたり、恥ずかしくなったり、この子と話すと調子が狂う。
「とりあえず、私は夕に会えて良かったなって。ありがとう」
「なんの感謝だ」
「えーっとね、この大学に来てくれてありがとう。サークルに入ってくれてありがとう。厚化粧で香水臭くてありがとう。友達になってくれてありがとう」
「やめろ、なんかかゆい」
「あとね、産まれてきてくれて、ありがとう」
「!」
星野の声は透き通っている。そしていつも私が必要だと思っている言葉をくれる。産まれてきてくれて、ありがとう。そんな言葉を私はきっとずっと言われたかった。私は泣きそうになって目を逸らした。でもなんとか堪えて星野を見た。でもこの子はもう視線を私からカレーに移してバクバクと食べていた。彼女は部室と何も変わらない。自由奔放。言いたいことだけ言って、満足したらもういいのだ。でもそれにとても安堵した。今日ずっと、私が星野に会うのを怯えていた理由がようやくわかった。彼女が部室の時と違う人間だったら、もしもアルバイトしている彼女が、私の知っている星野じゃなかったらどうしようと、ただそれが不安だったんだ。でも今、目の前にいる女は星野以外の何ものでもない。
「ありがとね」
私はカレーを食べている星野に伝えた。星野は私を一瞥して、カレーを食べながら言った。
「あら、夕が珍しく素直」
「たまには、あんたみたいに素直に生きてみようかなって思ったんだよ」
「ふうん」

星野が食べ終わったら、私達は外に出た。カレーのお代は払わなくていいとアジェイが言ってくれた。「ソノカワリ、マタ、キテクダサイ」とのことだ。また行こう、と心の中で私は呟いた。
空を見上げると曇っていた。
「本当は、悩みあるんだ」店の前で立ち止まって星野は言った。
「口内炎以外で?」
「うん」
星野は曇り空を見ながら静かに呟いた。
「私、多分女性が好きだ」
「へ?」その言葉の衝撃は大きかった。
「多分、レズビアンなんだと思う」
なんて言ってあげればいいのかわからなかった。この子は私にいつも必要な言葉をくれるのに、私はこういう時にこの子に何もしてあげられないのだろうか、それがとても悔しい。でも言葉を失くしてしまうくらい、星野の悩みは私にとってずっしりと重かった。
「でも女性との交際経験もないし、一〇〇パーセントとは言えないんだけどね。たださ、なんとなくそんな感じがするんだ。二十二歳になっても男の人に興味がないとか自分は壊れてるなって思ってたんだけど。性的なこと自体には普通に興味があるんだ。でもたまにそういう変な気持ちになってどうしようもなくて……恥ずかしながら、自慰行為をする時もあるんだけど、そんな時に頭に思い浮かぶのは、私と同じ身体の造りをしている人なんだよ。おかしいよね。そんなこと普通あるわけないのにね。そして、きっと私は、一生結婚して子供を作って幸せな家庭を築くことってできないんだろうなぁって思うんだよね。それで時々、途方に暮れるんだ」
「そうなんだ」精一杯相槌を打つ。
「だから、アジェイと話すと安心するんだ。言葉も文化も違う国の人と話すと安心する。夕、私はね、どうしようもなく歪なんだと思う。でも私がレズでも誰にも迷惑かけてないし、誰も傷つかない。だから解決方法もわからない」
曇り空を眺めている星野の目は乾いていた。私は酸素を吸った。そして、星野だったらこういう時になんと返すかな、と想像した。
「星野、でもね、でも、歪って漢字は、正しいって字の上に不安とか不可能とかの不って書くよね。そう考えると歪って人生そのものだよね。正しいことだけして生きていくなんて、絶対ない。常に心の中には不安があるわけだし」
私は、また酸素を吸って、言葉を続ける。
「この間、星野が言ってたみたいなもんだよ。人間なんて常に何かに飢えてるんだから、正しくあり続けることなんて不可能だよ」
「……」
「だから何が言いたいかと言うと……、星野はどうしようもなく人間なんだね、きっと」
一瞬間があって、星野は呟いた。
「まぁね」
少しだけ星野の目の中に潤いを感じた。本当はその時、星野を抱きしめてあげたかったけれど、それは逆に、星野を傷つける行為なんだと思って、やめた。
そして、そのまま何事もなかったかのように私達は別れて、次もまた部室で何事もなかったかのように接して過ごすのだとわかる。それで良いんだと思う。だから星野は私に打ち明けてくれたんだ。私がこの星野の気持ちを心の内にしまっておくだけで、彼女は救われるんだ。そう信じたい。そして星野に今まで抱いていた違和感の理由がその時少しだけわかった気がした。
その日、少年とのやりとりは無かった。アプリを開いたら少年から『今日、お互い良いことがありますように』と朝送られていたメッセージを確認した。私は、今夜だけは星野のことを想いながら眠ることにした。
(続く)

イラスト:亜珠チアキ//AZLL
https://note.com/azllcc

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