8.社会不適合者でも生きていけるので新社会人の皆さん安心してください(素人小説)
櫻太たちがアジトに着くと他のメンバーはすでに到着してくつろいでいた。
保護とは言え、アジトにメンバー以外の人間を連れてくるのは危険行為。だがもし敵であったとしても、ここのアジトに入るルートは普段メンバーが出入りする入口とは異なる。さらに、内側からのシグナルは葉月が作ったもの以外は全てブロックされ圏外となる。
窓もないが、壁にホログラムを投影してさも普通の家かのように演出する。
一見外側からすると集合賃貸のようだが、中は大きな一つの家である。部屋数が多少多いのと、中央の吹き抜けが高いこと以外は普通の家だ。
そんな場所に謎ルートから連れてこられ、圏外の部屋に閉じ込められると不安になるのが普通だが、このアジトはみんなが想像するよりも過ごしやすい。
「まるでホテルだね。」
メンバーがよく作戦会議をする吹き抜け空間に入ってきて晶はつぶやいた。
「だろう?」
その言葉を聞き逃すはずもない盃都は、すかさず晶の言葉に反応した。
知らない場所で突然知らない人から話しかけられた晶は驚き、菖蒲の後ろに少し身を隠す。
しかし、盃都の横には見知った顔である松永秘書がいたため、一気に安堵したようだ。
松永は晶を抱きしめる。
「大事にしてすまない。」
その謝罪に晶は大きく首を振りさらに強く松永に抱きつく。
この光景を見るとホンモノの親子のようだ。晶が松永を心理して慕っているのがわかる。
しばらくして母親も到着し、3人は再会を喜んだ。が、ここから問題が発生する。
「出たわよ、捜索願い。」
千鶴が電話を片手に通用口から入ってくる。
その言葉を聞いて葉月は警察のネットワークに入り、どのエリアで捜索がかけられているのか確認する。
「関東は監視カメラ映ったら即全交番と機捜に連絡がいく。ホロコス被って国外に出た方がいいと思う。そのうち徐々に捜査対象範囲広がるけど、さすがにこの議員、海外にツテはなさそうだから海外なら大丈夫。」
葉月の説明にメンバーが納得するも、母親から意見が上がる。
「あの人、私が晶を攫ったと今私も行方不明の時点で気づいてると思います。そうなると私が有利な国外に連れ出すと踏んで空港で待ち構えてる気がします。」
母親の意見は妥当な推測だろう。
葉月が空港の監視システムにハッキングして顔認証登録されている人がいないか調べる。
すると、晶と母親の身体情報が一覧に追加されていた。それを見た葉月は思わず声が漏れる。
「早いな…空港関係者にも内通者がいると見た方がいい。特に監視カメラとか警備システムをいじれる人間は要注意。」
葉月の意見を聞いて、菖蒲が答える。
「出国を警戒されてるならいっそのこと国内に留まるのが正解ってこと?」
「けど鹿島組を動かしたら警察が見えないところで何するかわかんねーぞ。」
菖蒲の意見に櫻太は先ほど晶から入手した情報も加味する。
「じゃあここに残る?ここの警備システム限界まで引き上げるのはいいけど、私たちまで危険に晒されるけど?それに別の任務が入ったら警護はゼロ。海外の方が東京よりは街頭カメラの密度薄いし、ここに留まるよりは自由な生活ができると思うけど?」
「そんな!私たちに死ねと言うんですか?!」
葉月の言ってることが冷たいように聞こえた母親は声を荒げる。
盃都はそれを呆れたように聞いて面倒くさそうに口を開く。
「ここに幽閉されて死ぬよりは、海外に逃げて自由を謳歌してから死ぬ方がマシだろ。」
言い方に難点はあるが、事実ではある。だが多くの人間は事実をなかなか受け入れることができない。盃都の言い分に母親と松永は信じられないものを見ているかのように軽蔑の目を向ける。
その視線を察した盃都は何本目か分からないタバコを咥えながらトドメの毒を吐く。
「元はと言えばあんたらがややこしい失踪事件作ったからこんなことになってんだろ。こっちまで巻き込まれるなんてごめんだね。」
盃都はそう言いながらデバイスでどこかに電話をかける。
突然の行動にゲスト3人どころかその場にいた全員が盃都を凝視する。
千鶴でさえこの行動が何を意味するのか理解できないようで眉間に皺を寄せながら盃都を見守っている。
沈黙で脚光を浴びる中、盃都は電話相手と優雅に会話を始めた。
「俺だ。今回の依頼は完遂した。さっさとブツを取りに来い。…あ?それは俺たちの仕事じゃないだろ。お前のジェットでも使えば秒で終わる。もしかしたらご対面できるかもしれないぞ?本命に。いいか?俺たちはあと30分だけ待ってやる。30分過ぎたら警護は打ち切る。」
話し方とワードで電話相手が誰なのかわかった千鶴は額に手を当てて目を閉じる。
通話が終わった盃都はソファから立ち上がり何倍目か分からないコーヒーを継ぎ足しに行った。
二人を除いて他の人間は全く話が見えないようで、葉月と菖蒲は顔を見合わせ、櫻太は盃都を目で追う。
ゲスト3人は所在がわからず、痺れを切らした松永が口を開いた。
「あの、私たちは一体どうなるんでしょうか?」
その問いに盃都が答える。コーヒーに大量の角砂糖を投入しながら。
「喜べ。アメリカ人が迎えに来て新しいIDくれるそうだ。この国ともヤクザともオサラバだよ。ちなみに今日が戸籍上あんた達の命日になるだろうから墓でも準備するか?せいぜい今のうちに日本の排気ガスまみれの空気吸い貯めしとけ。」
ジョークなのか本当なのか嫌味なのか分からない盃都の言葉。いつも通りと言えばそうだが、出会って間もない人からすればなんとも癖の強い人に映るだろう。
何が起こっているのかわからないメンバーが顔を見合わせていると早速誰かが尋ねてきたチャイムが鳴る。チャイムというよりブザー音に近い。まるで侵入者が来たとでもいうような音だ。
その音を聞いて葉月は理解した。なぜならこのブザー音は顔認証に基づいて設定されており、この音を設定したのは葉月本人だからである。
全てを悟った葉月は思わずつぶやく。
「鍵開けなくていいかな?」
「開けないと俺たちがお荷物と共に鹿島組に狙われる。」
お荷物とはゲスト3人のことだろうか?盃都は先ほどから嫌味全開だ。いや、通常運転だ。おそらくニコチンも糖分も十分に補給されたからだろう。
葉月は施錠を解除して来訪者をこのアジトに招き入れる。心底悔しそうな表情だ。なぜならばこの来訪者…
「やっほー!葉月!お兄ちゃんだよー?元気にしてたー?!」
クソ能天気サイコパス野郎こと葉月の兄だからである。
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