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痛みのある思い出

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あれは私が小学5年生の時のことだ。

クラス担任の教師に呼ばれて行った部屋には一人の見知らぬ少女が俯いて座っていた。

彼女の顔を覗き込んだ時、私はもうちょっとで声をあげそうになるほど驚いてしまった。

彼女の顔にはそばかすのような黒い斑点が無数に広がっていて、黒髪でその顔を覆い隠していることもあって、目だけが異様なほどに光って見えたのだった。

担任教師は私に彼女には先天性の皮膚異常があって少しみんなと見かけは違うけれど、とても素直な良い子だから、私が責任を持って彼女をサポートし、仲良くするように、と言った。


それから1年間私は常に彼女の隣で勉強をし、共に遊んだ。

でも彼女はクラスの中で一言も声を発しなかったどころか、私が何度話しかけても俯いたまま頷いたり首を横に振ったりするだけで、返事どころか表情一つ変えることはなかったのである。


ある日、学校帰りに私は彼女と私の家で遊ぶことにした。

正直言って私はほとほと彼女に嫌気をさしていた。何をどう話しても答えが返ってこないことに苛立っていたのだと思う。


“まゆこちゃんが辛いのはわかるけど、どうして話をしてくれないのよ!あなたに付き合っている私の身にもなってごらんなさいよ”


彼女はいつもよりずっと深くうなだれていたかと思うと涙をぽたぽたと落とし、それからまるで独り言のようにぽつりと言った。


“あなたの同情なんていらない。”


私は彼女の辛さなんてまるでわかってはいなかった、いや、分かろうともしていなかったと思う。

あの日担任教師から指図を受けなかったとしても、果たして私はそれでも彼女と一緒に学び、遊んだのだろうか。

とにかく彼女は私の心の奥底にある冷たい気持ちをちゃんと読みとっていたのだと思う。


私は彼女がもうこの世にいないことを知っている。

私が大学生の時、当時の担任教師から電話で彼女の死を知らされた。

私は今でも時々あのまりこちゃんの涙とつぶやきを思い出し、心がヒヤリとしてしまう。


今日は佐藤時啓さんの作品を紹介する。

作品のテクニックについてはこれまで幾度も説明してきたので割愛するが、ご存知のない方は気軽に尋ねていただきたい。とても興味深い撮影方法だから。

この作品を見る度私は、その光の粒のそれぞれが思い出の数々のように思えてならない。そして大方の思い出はそれがどんなに辛くて悲しいものでも、時が経つにつれ風化して案外に美しく形を整えて光るが、その中にあってどうしても浄化されず、時を経ても突き刺さるような痛みを伴う思い出もあり、それもまた違った意味で光を放っていると私は感じるのだ。

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