人間モドキ―村田沙耶香『コンビニ人間』書評
文春文庫版の解説で中村文則は五感の描写が本作の特徴であるとしているがそれだけでは不十分で五つの感覚のなかでもとりわけ特権化されている聴覚、それも語り手の聴く音だけではなく、彼女自身が発して他者へと空気の振動によって伝えられていく音をも含めて注目されなければならないだろう。無論ここで言う「音」とは冒頭で描写されるコンビニが立てる無機的な音だけに限らず身体的動作に伴う些末な動揺や声帯を震わせることで発生する「声」という有機的な現象も包含されている。それにより我々はひとつの事実に気